M.M 惨狂ブレイズ-サブリミナルクライムエッジ-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 5 - 74 4〜5 2017/5/22
作品ページ(工事中) サークルページ



<何が正しくて何が間違っているのか、その答えを探しに行きましょう。>

 この「惨狂ブレイズ-サブリミナルクライムエッジ-(以下惨狂ブレイズ)」という作品は同人サークルである「CREO」で制作されたビジュアルノベルです。CREOさんと初めてお会いしたのは、C91の一日目が終了し同人ビジュアルノベルのプレイヤーの皆さんとの打ち上げ会場ででした。この時の打ち上げはおすすめ同人紹介というHPを運営しているみなみ氏が企画したもので、顔なじみメンバーだけではなく参加したければ誰でも参加していいというスタンスでした。そこに今回参加されたのがCREOさんであり、その時に頂いたのが今回レビューしている惨狂ブレイズです。異能バトルものという事でワクワクする展開が待っていると期待し、手に入れたからやや時間が空きましたがようやくプレイすることが出来ました。

 主人公である真伐集一(まきりしゅういち)はどこにでもいる普通の高校二年生でした。ですが、彼の日常はある一人の少女と出会うことで何の前触れもなく急に劇的に変わってしまったのです。平和で穏やかな世界から生死の境をさまよい命のやり取りを行う世界へ。そこはFaustと呼ばれている異能力者がそれぞれ持っているblazeという異能力をぶつけ合い戦う場所でした。突然そんな世界に巻き込まれた集一、唯一信じられるのは自分をこの世界へと誘い込みそして自分を殺そうとしている張本人である白翼薊(しらはねあざみ)だけ。出会うはずのなかった二人が出会ってしまったとき、そこに愛や友情を超えた不思議な繋がりが生まれてしまったのでした。

 この作品は異能力バトルものです。何も分からない集一がヒロインである薊と共闘する事で他のFaust達と戦っていきます。ですがこの作品はただ異能力者同士が戦うだけではありません。戦いを通して自分は何を求めているのか、相手は何を考えているのか、この戦いの果てに何が待っているのか、などを深く深く考えていきます。あまりにも現実とかけ離れ狂っている世界だからこそ、自分というものを強く持つ必要があるのです。自分を常識人だと少なくとも思っている集一、もはやその気持ちにすら信じるに値するものはありません。戦いの果てに何が待っているのか、是非その結末を見届けて欲しいと思います。

 異能力バトルものですが、そこまでバトル描写が強いとは思いませんでした。むしろバトルに至るまでのお互いの心理戦や騙し合い、そしてバトル中での激白の方が印象的でした。肉体で戦うというよりも精神で戦うといった方が適切かもしれません。激しいバトル展開ではなく心のぶつけ合いを楽しみにプレイして頂ければと思います。そしてFaustと呼ばれる異能力者がそれぞれ持っているblazeという異能力は、もちろんどんなものかはお互い分かりません。逆に言えば先に相手のblazeに気がついた方が勝つという事です。プレイヤーの皆さんも相手の本当のblazeを予想してみるのもまた楽しいかも知れません。

 プレイ時間は私で4時間20分でした。この作品は選択肢がありません。代わりに今自分が物語のどの辺りにいるかがひと目で分かるタイムチャートが備わっております。そして分岐点では選択肢ではなく直接チャートを選んでいくのです。その為ルートの取りこぼしは絶対に起こりませんので未読テキストを気にせず読み進めることが出来ます。またこの作品は章立てになっております。区切りの良いタイミングがひと目で分かりますので是非小休止のタイミングにして頂ければと思います。これまで数多くのタイトルを作ってきたCREOさんらしい、細かいところに手が届くシステムは好感が持てます。分かりやすい分岐とシステム周りに委ね、後はシナリオを読み込んでいきましょう。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<愛してる、許さない、それは相手を想う最上級な表裏一体の感情。>


「一生、あなたを許さない」
「俺も一生、お前を愛し続ける」


 なんて美しい終わり方なのでしょうね。この狂った世界での戦いの果てがこのセリフですよ。結局のところ最後の最後まで集一と薊の考えは交わる事はありませんでした。全ての人間をFaustにする、全てのFaustを殺す、お互い目的は同じなのに行動は正反対でした。この二人は決して一緒になることはできないのです。その上でのこのセリフです。これ程お互いを思いやっている関係もまた美しいと思いました。

 登場する全てのFaustに理念がありました。阿賀智京子ははみ出し者は淘汰することこそ救済と信じ、薊を異端者として徹底的に断罪しようと思っておりました。金井雲州の人生は全て母親と共にありました。認知症を患い自分の事が分からなくなっても、blazeを使いまやかしの日常を描き続けました。刀皮愛瑠は最も愛に飢えた存在でしたね。いじめられていた少女時代に手を指し伸ばしてくれた集一。人の温もりを与えてくれた集一への思いは徐々に歪んていき、たとえ嫌悪感でも自分にぶつけてくれる人であればそれが全て愛だと思うようになりました。3人とも自分が信じるものを信じ、そしてその気持ちを持って集一や薊と戦い敗れていきました。満足だったか後悔していたかは分かりません。ただ、自分の信念をもってぶつかった事は本当でした。

 そしてヒロインである白翼薊の理念は特に突き抜けておりました。彼女の目的は全ての人間をFaustにする事、ですがそれは決して薊が戦闘狂だからという理由ではありませんでした。預言者が言うことを解釈すれば、この戦いはFaustが1人になるか人間がいなくなるかどちらかにならないと終わる事はありません。そして薊がとった行動は後者の方でした。一切の情をかけず、完全に自分の損得のみで行動する事にこだわった薊。だからこそ彼女の強さは桁違いであり、どの能力者も最終的には詰められ殺されていきました。あの孤高に止まった姿こそ、薊の魅力であり全てでした。

 そんな薊の姿に、集一は確かに惹かれておりました。好きという気持ちも愛しいという気持ちも飛び越えていたように思えます。彼女に近づきたい、彼女になりたい、その想いは本物であり、それが表面化した事で刀皮愛瑠を殺す事が出来ました。ですが、そもそも集一はFaustが蔓延っている世界には反対でした。彼は根っからの平和主義者であり、戦いを好む性格ではありませんでした。それでも薊に近づきたい、これも真実でした。戦いを好む薊と平和を好む集一。それでもお互いがお互いの事をどうしようもなく意識してしまい、決して交わらないのに手を繋いでしまいました。それが彼らの望みであり、一番の過ちだったのかも知れません。

 作中で「好きの反対は無関心」という言葉がありました。私もこの言葉には半分賛成です。あとの半分は「嫌いの反対は無関心」といったところでしょうか。結局のところ、好きも嫌いも感情の振れ幅としては同じであり少なくとも相手に関心がある事は間違いありません。ましてや「一生許さない」「一生愛し続ける」なんて、もはや最上級の関心の言葉だと思います。決して交わる事のない2人の理念、そして決して結ばれる事のないお互いの想い、そんな劣情にも似た気持ちの高まりこそ、この作品が最も表現したかったものなのかも知れません。戦いは集一が勝ちました。彼はこれからも自分の信念と薊への愛情を持ってFaustを殺しに行くでしょう。最後に殺しに行くのはきっと薊です。それが達成されるかされないか。その答えは、お互いの想いの大きさでしか測れませんね。ありがとうございました。


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