M.M ユリロイドブルースター




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 78 2〜3 2018/1/1
作品ページ(無し) サークルページ(R-18注意)



<Chivalryさんの表現したい人生観を、様々な属性を使用して表現しております。>

 この「ユリロイドブルースター」という作品は同人サークルである「Chivalry(読み方はシベルリ)」で制作されたビジュアルノベルです。Chivalryさんの作品は過去に「金魚鉢夢想」「狐灯夜伽話」「妖精が悪戯してくる件」「青い鳥症候群-1654-」をプレイした事があり、様々なシチュエーションを設定として人生観を語るシナリオが印象に残っております。軽いか重いかと言えば重い設定です。だからこそそれを解決しようとする登場人物達の葛藤が印象に残り、そんな登場人物達の姿がプレイヤーにメッセージを送ってくれます。そして、ここ最近のChivalryさんの作品は「獣」なキャラクターがよく登場します。人間とちょっと違う存在としてビジュアル的に分かるだけではなく、一歩引いた視点から人生観を語りたいという印象を感じております。今回レビューしている「ユリロイドブルースター」もパッケージには猫のような犬のような可愛らしい女の子が描かれております。加えて今作は百合です。様々な属性が混在しており、これがどのような相互作用するのか楽しみでプレイ始めました。

 主人公であるクロエ・シシリーは三十路の独身女性です。仕事と趣味が大好きで真面目な性格ですが、唯一愛というものを理解していないことをコンプレックスに思っております。普通の人であれば大体は通るでああろう男女の付き合いや結婚といった経験を積んでおらず、人と触れ合う事に戸惑いと自身のなさを覚えておりました。そんなクロエのところに1体のアンドロイドがやってきます。その名はルル。愛を教えるという名目でやって来た彼女の姿はまるで犬のような猫のようでした。それでも明るく振舞う彼女に、次第に気持ちが繋がっていきます。それでもルルは人間ではありません。人間であるクロエとアンドロイドであるルルの物語の終着点を、是非見届けてみて下さい。

 上でも書きましたが、この作品には実に様々な属性が付加されております。まずはヒロインのルルはアンドロイドです。人間ではない機械な存在ですので、彼女の思考の原点が人間と異なっております。そこを注意深く読み解く事が、ふたりの関係を掴む鍵になるかも知れません。そしてルルは獣娘です。それは耳やしっぽだけではなく、全身に毛の生えた姿をしております。どうして彼女のデザインが獣娘なのか、唯のサークルさんの趣味なのか、それも大切な理由があるかも知れません。そしてこの作品は百合です。三十路の独身女性とまるで女子中学生の様な小柄なアンドロイドとの関係が、どのように描かれるのか期待度がとても高いです。パッケージの裏側にはのエッチシーンも紹介されております。この作品は18禁ですので、素直にエッチシーンを堪能するのも楽しみ方だと思います。むしろ十二分に活用していきましょう。

 そしてChivalryさんの作品の多くで人生観をテーマに取り扱っております。この作品も、主人公であるクロエは愛を知らない三十路ですし、ヒロインであるルルは愛を教えに来たにも関わらず人間ではありません。お互いに内心思っている事が違っていて当たり前です。そんな彼女らの生き様がぶつかった時、必ず痛みが伴わない訳がありませんね。勘の良い人であればなんとなく想像つくと思いますが、この作品はクロエが愛を知る事がゴールではありません。ましてやルルがクロエに愛を教えることがゴールでもありません。クロエとルルが自分の気持ちと相手の気持ちにしっかりと寄り添ったとき、そこに何かが生まれるはずです。自分の人生と照らし合わせて頷ける部分もきっとあると思います。そんな共通点も探しながら、2人の行く末を見届けてください。

 システム周りについて幾つか注意点があります。この作品はフルボイスなのですが、BGM・SE・ボイスのバランスが少々崩れているようです。言ってしまえば、ボイスがとても小さいです。私の場合、BGM・SEのボリュームを極端に小さくして、ボイスを最大値にして、PC本体のボリュームをマックスにしました。声を気にしない方であれば構わないと思いますが、ボイスも大変魅力的ですので是非開始時点で調整して頂きたいですね。そしてプレイ中ですが幾つか改行に不備が見られました。本来先に進んではいけない部分で一気に進んでしまうのです。何も考えずにクリックを続けてますと、大切な文章を飛ばしてしまうかも知れません。幸いバックログはある程度確保されておりますので落ち着いて読み返したほうが良いですね。

 プレイ時間は私で2時間30分程度掛かりました。True Endは1つでして、幾つかの選択肢を経てたどり着く事が出来ます。選択肢の数はそれほど多くありませんので迷うことなくTrue Endにたどり着くことが出来るはずです。またHシーンも複数用意しており、クロエが責めるシーンもあればルルが責めるシーンもあります。一日ごとに日付のカットインが入りますので、そのタイミングで休憩を取りながら読み進めるのが良いかも知れません。会話以外の部分は比較的速いテンポで進んでいきますので、ストレスなく読み続けられると思います。Chivalryさんらしい獣娘の魅力と人生観を訴える作品です。存分に楽しんでいきましょう。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人間らしい心。アンドロイドらしい心。そんなものはないのかもしれない。>

 人間とアンドロイドとの恋。人間と獣娘との恋。私、こういう異種間の交わりを描いた物語を読むにあたって必ず意識する点があります。それは他人の視線です。世の中は得てしてマジョリティに弱く、マイノリティな人は無理をしてでもマジョリティになろうとします。それは仕事でも恋愛でも全て同様です。マイノリティって、別に何も悪くないのにね。ですが、そうした他人の視線を跳ね除ける事が出来ても忘れてはいけない大切な事があります。それは誰も助けれくれない覚悟を持ち、自分たちで責任を取るという事です。この作品は、最後に2人が幸せになれる為の方法を見つける事が目的だったと思っております。

 クロエは三十路になっても男女の付き合いを経験していないどころか両親からの愛情すらも受けておりません。一般的な三十路の女性が経験しているであろう事を何一つ経験していない事は、無意識の中でコンプレックスとなっておりました。ですが、恋愛ってやろうと思ってもどのようにやれば良いかか分からないんですよね。というよりも、やろうと思ってやるものではないと私は思います。何かの切っ掛けで人と出会い、そして関わりを持っていく中で、この人の事をもっと知りたい・この人と一緒にいたいと思った瞬間、それが恋愛になるのだと思います。人によって恋愛の形は様々です。教科書なんてありません。流行りの方法が成功するなんて事もありません。だから誰もが悩み考え、怖がりながらも相手と触れ合っていくのだと思います。

 ルルという徹底的に尽くしてくれる存在に出会ったクロエ。始めはこんな欠点だらけの自分に尽くしてくれるルルに申し訳なさしか感じておりませんでした。ですが、余りにも人間らしいルルの振る舞いに自然と愛しさを感じ、ルルの事をちゃんと理解しようと動き始めました。まずはルルという初期型アンドロイドが生まれた経緯と現在の立場を理解しようとしました。人間に尽くすために、そして人間に愛を与えるために生まれたルル達。ですがそれは思い上がりだったとクロエのおじいさんは語ります。愛は与える存在ではない。愛を与えていたと思ったら、それはエゴである。結果として初期型アンドロイドは、人間の為に尽くしその殆どが自らの身体を犠牲にしていきました。採算が取れないという事もありますが、何よりも悲しかったのだと思います。結果初期型アンドロイドは製造中止になり、様々な制限を加えられた次世代アンドロイドの普及へとつながるのです。

 ルルはその事を誰よりも悲しんでおりました。「わたしはもう一人になりたくない、寂しいのは嫌」これがルルの本心でした。人間の為に尽くすのがアンドロイドの使命です。ですが、そんな植えつけられた善意に逆らうからこそ尊いというものです。タイトルにも書きましたが、心というものに人間らしさやアンドロイドらしさというものは存在しないと思います。そんなマジョリティに汚染された価値観なんて無視してやればいいんです。私は自分が大事、でもそれ以上にご主人様が大事、私に愛を教えて。そんなルルの本心に、クロエが向き合わなければいけない時が来たのです。

 川で溺れた少年を救ったルル。自分よりも先に死んでいった仲間に誇るための決死の行動でした。でも、クロエはルルに死んで欲しくはありませんでした。というよりも、先に死ぬ事はお互いに許してはいませんでした。だからこそ、クロエは自分が死んだら同時にルルも死ぬシステムを提案したのだと思います。傍から見たら道連れの何者でもありません。どこかから非難が来ても不思議ではありません。それでも2人はこの道を歩むと決めました。何故なら、それがクロエとルルが幸せになるための道だからです。人は、一人では生きていけません。ですが、それはアンドロイドも同様です。だったら、一緒に死ねばいいんですね。やっと、クロエとルルは愛というものを知ったのかも知れません。幸せのカタチはその人の数だけあります。クロエとルルが、しっかりと自分たちの幸せのカタチにたどり着けたこと、それが尊いと思いました。ありがとうございました。


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