M.M 夢見る天使は眠らない




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 4 - 62 1〜3 2013/1/2
作品ページ サークルページ



<短いながらも人物描写を蔑ろにしないバランスの良い作品>

 この「夢見る天使は眠らない」という作品は同人サークル「KOSMONAUT」で制作されたサウンドノベルです。C81で同人ゲームの島サークルを回っているときに偶然見つけたことが切っ掛けでして、綺麗な表紙と可愛らしいヒロインの姿が印象的でした。買ってから約1年温めておりましたが、その後様々な即売会の中でKOSMONAUTさんと話をする機会がありましてその度に「まだプレイしてないんです」とはいい加減言えなくなってきたので思い切ってプレイしました。感想ですが、短いながらも男女の揺れ動く心を垣間見る事が出来たシナリオが印象的でした。

 OHPを見ると分かりますが、この作品は学園ものでありながらゲーム内の架空の病気である「黒線病」に侵されたヒロインとの出会いから物語は始まります。今を生きていればそれでいい主人公とその友人たちに囲まれて過ごす学園生活の中に転校してきた黒線病のヒロイン、普通の学園ものとして淡々と物語が進む筈はないと直感させる導入です。そもそも黒線病とはどういった病気なのか。主人公とヒロインはどのように関わりを持っていくのか。2人はどのようなゴールにたどり着くのか。頭の中で抑えるべきポイントはハッキリしており、肩を張らずに文章を読み進める事が出来ました。

 ちなみに文章量は少ないです。私で約90分でEDまでたどり着きました。150P位の小説を読む感覚で全ての物語は終わります。それでもヒロインとの心の掛け合い、他のキャラクターとの関わり合い、そういった部分について決して蔑ろにすることはありませんでしたのでプレイヤーに優しいシナリオ構成だと思いました。短いがゆえに登場人物は主人公を含めて5人しかいないのですが、風呂敷を広げすぎない調度良いバランスだと思いました。

 そして個人的に良かったのがインストール時の容量ですね。僅か60MBのHDDしか使用せずパフォーマンスが高いと思いました。私の中でサウンドノベルに求めるものは文字通りシナリオと音楽のみですので、演出や絵についてはそれ程拘りは持っておりません。現代のゲームにおいて、それがたとえ同人ゲームだとしてもプレイ時間90分で消費HDD容量が60MBというのは非常に良心的だと思いました。システム周りも最低限出来る事は揃っておりますので、無駄を削って制作されたサークルさんの意志を感じました。

 という訳で短い作品ではありましたが軽い気持ちでプレイする事が出来ました。いわゆる大作と比較すると作品に触れる時間が圧倒的に短いですので将来的に印象に残り続けるかと言われれば分かりませんが、決してやって後悔するという事はありません。同人ショップで見かけた事はないので即売会で運が良ければ見つけられる程度の遭遇率かも知れませんが、入手出来たらちょっとした息抜きのつもりでプレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<思ったよりも伏線が張り巡らされたシナリオに驚きました>

 純粋に面白かったですが、それ以上に実は意外と伏線が張り巡らされたシナリオであったことに感心してしまいました。確かに眠る事が出来なければ普通の人よりも長い長い夜に感じますね。それ以外にもちょくちょく細かい伏線が多かった気がします。

 まずはどの登場人物も素直なキャラクターばかりでした。ヒロインはまじめで儚げな印象を持たせる小動物の様なキャラクターでしたし、幼馴染の2人も根は良い奴でシナリオを盛り上げてくれました。主人公も時折周りが見えなくなって自分の思うがままに突っ走る様子が逆に学生らしく決して印象を悪くするものではありませんでした。分かり易いキャラクターの中で2人の親密度が上がっていく様子は心が洗われる様でした。

 そしてこのシナリオの最大の特徴はやはり伏線の数々だと思うのです、地味に主人公も黒線病である事はシナリオの最後の方まで明らかにされませんでした。これでやっと主人公が先生と同居しておりカウンセリングを受けているかが分かりました。そもそも先生と同居しているという事も小さい伏線でしたね。後は主人公と幼馴染の女の子の関係もこれでハッキリしましたね。黒線病に起因していればこれだけ親密なのも頷けますね。

 後はやはり主人公の黒線病の症状が眠れない病気であるという事が最大の伏線でしたね。毎回朝になるたびに「長い長い夜」と表現していて気にはなっていたのですが、確かに眠れなければ夜は長いに違いありませんね。授業中に居眠りをする事も出来ませんね。退屈で朝早く起きる事も当たり前ですね。ちょっとずつ気になっていた疑問が解決できました。これは素直に感心してしまいました。こういった遊びも感じる事が出来て楽しかったですね。

 それにしても、主人公が眠れない病気でヒロインが眠ってしまう病気というのも切ないですね。2人が共有できる時間は普通の恋人と比べて極端に短いわけですからね。だからこそ、この2人だったら一緒にいられる時間は全て大切な思い出に変わっていくんだと思いますね。現状を悲観せず前向きに進んでいくEDは良い終わり方だと思いました。

 「夢見る天使は眠らない」、ゲームをプレイし終わって改めてタイトルの持つ意味の大きさに気づかされますね。例え永眠病で眠り続けたとしても主人公がいる限りこの2人の中で眠っている時間は無いのでしょうね。ヒロインが眠る分主人公が眠らない訳ですからね。後で思い返せば思い返すほど心が洗われる作品でした。


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