M.M よつどもえ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 75 2〜3 2015/9/15
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<それぞれの主人公が目指すべき方向性を、ぜひ温かい目で見守って欲しいですね。>

 この「よつどもえ」は同人サークルである「活動漫画屋」で制作されたビジュアルノベルです。「活動漫画屋」さんの作品は「柊鰯」や「あまいしる」をプレイさせて頂き、実際に小説を読んでいるかのような縦書きの描写と出典を丁寧に説明するテキストが印象に残っております。一言で言えば丁寧ですね。大きく感情を揺さぶるというよりも、一つ一つの事象を積み重ねて最終的な到達点にたどり着くかのような展開が魅力だと思っております。今回プレイした「よつどもえ」も活動漫画屋さんらしい展開であり、唯一無二の雰囲気を堪能させて頂きました。

 タイトルにあります通り、この作品の主人公は4人です。それぞれが人には言えない事情を抱えているのですが、同じ街で生活する中で顔なじみとなり、やがて1つの目的を目指して行動していきます。その目的とは地元にある寂れた神社を立て直すという事。主人公たちが住んでいる町には商店街があるのですが、ここも年々人通りが減っていきシャッターを下ろしたままの店が増えております。始めは些細なきっかけでした。生い立ちも性格も違う4人でしたが、それぞれが今回の立て直しを切っ掛けに自分の人生について考えていきます。笑いもあり涙もあり。決して思うようにはいかない立て直しに挫折する事もありますが、それでも諦めずに奮闘する様子はじんわりと心に染み渡ると思います。

 最大の特徴はやはり登場人物たちの心理を描いたテキストにあると思います。この作品は群像劇です。主人公が4人ということで視点が交互に入れ替わりし、それぞれが今何を思っているのか覗き見ることができます。この作品、目的は神社の立て直しなのですがプレイを進めていくうちにそれぞれの主人公が目指すべき方向が見えてくると思います。そしてその方向を実現する為の1つの方法として神社の立て直しがある、こんな小さな神社の立て直しすら出来ないようでは自己実現なんて出来やしないのです。自分が苦手とする事にも精力的に手を出し、自分が自信を持っていた事が打ち砕かれても諦めず、周りの人達と協力して一歩前に進む姿は本当に美しいです。彼女らの目指すものは何なのか?神社の立て直しは成功するのか?ぜひ温かい目で見守って欲しいですね。

 プレイ時間は私で2時間40分程度掛かりました。上でも少し書きましたが劇的な展開があるわけでもなく確実にステップを踏んでいくかの様なテキストです。そういう意味では単調と呼べるかも知れませんね。その代わりどこでも小休止を挟めるという利点もあります。後は今の一人称は誰なのかちょっと注意して見ないと分かりにくいかも知れません。ウィンドウボックスの右上に一人称の名前があるのですが、ヌルっと変わってますので適宜確認しながら読み進めた方が良いと思います。そんな作品ですので、是非急がずいつもよりペースを落としながら読むのも一興かも知れませんね。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分が出来る事を精一杯行いみんなで助け合う、それが活きるという事なのかも知れません。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、本当にじんわりと心が温かくなる作品でした。途中もしかして分裂するのではないかと思いましたが、皆しっかりと現実を見て自分がしなければいけないことを認識して行動しておりました。最後に商店街と神社に活気が戻ったのは主人公4人がそれぞれのポテンシャルを発揮した結果です。この取り組みは間違いなく彼女たちの今後の人生の糧になると思います。

 私が一番嬉しいと思ったのは、皆が自発的に「これは出来ないか?」「あれは出来ないか?」と行動してくれた事ですね。例えばあんりは自分のアルビノという体質を嫌っており、人に見られることを避けておりました。今でもアルビノに対する抵抗はあるのでしょうけど、最後あんりは自分だからこそ同じアルビノの子供たちを助けられるのでないかと思うようになりました。以前の彼女では考えられない事です。他にもスイレンであれば、自分がストリッパーであることに負い目を感じて表に出る事に抵抗してました。ですがそんな彼女がむしろストリッパーである事に誇りを持ち自分の体を売りにしたストレッチ体操教室を始めました。これも始めの彼女だったら決して言い出さなかった事だと思います。自分の短所を長所に変えて行動する、これ程頼もしい事はありませんね。

 そして一人ひとりが自分の事を見つめ直ししっかりと現状を把握する事が出来ました。ショウコはいつも外で飲み歩きストリップショーに遊びに行く父親を嫌悪しており、自分の方が物事を上手く運べると思ってました。ですがそれは驕りであり、まだまだ勉強しなければいけない事や人の意見を聞かなければいけない事に気付けました。かずみは分かりやすく変わったという描写はありませんでしたが、始めはどこか自暴自棄的に神社の運営をして人の幸せを祝福できる余裕がありませんでした。ですが日常がある事の有り難さや神社を見守っているのが一人ではないという事に気付けたとき、彼女の年齢らしい表情を取り戻しておりました。やっと彼女の元にも神様はやってきたんですね。

 この作品は神社を立て直すことを通して一人ひとりが成長する物語です。ですが成長したのは彼女らだけではなく街全体でした。どこか商店街の活性化を諦めていた地元の人達も次第にやる気を出し、全員で協力して前に進もうとしました。キョウコの父親も公務員である自分しか出来ない仕事があるという事を認識し、現場第一線でなくても自分らしくバックアップを行いました。その結果があの百円商店街と露ワングランプリンです。もしかしてタイトルにある「よつどもえ」は「あんり」「スイレン」「キョウコ」「かずみ」という意味だけではなく、「主人公たち」「商店街」「行政」「お客様」という意味も含まれているのかも知れませんね。自分が出来る事を精一杯行いみんなで助け合う、それが活きるという事なのかも知れません。

 振り返れば軽いタッチで描かれたとある商店街の再建の物語でした。この作品と言いますか登場人物の行き方はぜひ多くの人のモデルにして欲しいと思いました。どこか気分が落ち込んで投げやりになりそうになったとき、この作品の登場人物のことを思い出せばまだまだ踏ん張れる気がしますね。自分は一人なんだと思うことがあっても、実は一人なんかではありません。大切なのはそれに気が付くということ、そして一歩前に踏み出すという事です。作中最後、人っ子一人いない商店街や神社に大勢の人が集まったように、是非自分の心にも信頼できる多くの人が集まるよう努力したいですね。ありがとうございました。


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