M.M 夜の太陽、昼の月




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
5 6 - 68 7〜9 2016/7/7
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<まずは世界の謎というよりも素直に意中のキャラクターを攻略するところから始めればいいと思います。>

 この「夜の太陽、昼の月」という作品は同人サークル「宇宙うさぎ」で制作されたビジュアルノベルです。宇宙うさぎさんの作品をプレイしたのはこれが初めてであり、C89で同人ゲームサークルの島を回っているときに手に取らせて頂きました。とても可愛らしい主人公とそれを守るかのように両脇に立っている男の子、そして「この世界は8/31に終わる」という終末感漂う設定に強く惹かれました。実際にプレイしてみての感想ですが、非常に王道の学園恋愛ADVでありまずは是非お気に入りの男の子を目指して攻略して欲しいと思いました。

 主人公である東雲有由(しののめゆゆ)は天真爛漫でちょっとうっかりな天然系の女の子です。聖園学園に通う2年生であり、弟である東雲瞬(しののめしゅん)に面倒を見られながらごく普通の学園生活を送っておりました。そんな彼女達が1学期が終了しこれから始まる夏休みにワクワクしている最中、有由や瞬を含む合計5人の男女が集められます。担任の加美山世留(かみやまよる)が教壇に立って放った言葉は「この世界は8月31日に終わる。世界を救いたいと思ったら、明日学校に来るように」というもの。突然の終末宣言と共に幕を開けた夏休み。それは彼女たちにとって人生をかけた出来事の幕開けだったのです。

 この作品は女性向けの学園恋愛ADVです。主人公東雲有由は突然の終末宣言に動揺しながらも、一緒に集められたメンバーと共にどうにか世界の終わりを防ごうと行動を起こす事になります。ですが全体として決してシリアスという訳ではなく、基本的には有由の天然な性格のようなゆるふわな雰囲気で物語が展開していきます。状況に対して真面目に取り組んでいるのですがどこか話の焦点がズレていたり、好きなものに対してとことん拘って周りを呆れさせたり、まるで部活の合宿や修学旅行のような感覚ですね。こんな雰囲気で世界の終わりを防げるのかと思うでしょうが、一本ちゃんとした芯が通っておりますので最後まで見守ってあげたくなりますね。

 そして女性向けという事で非常に豊富な属性の男性が登場します。主人公の弟である瞬は世話焼きな性格であり、同級生である西海アリス(にしうみありす)は何と女装趣味で運が悪い残念キャラです。先輩キャラも2人いるのですが、その1人である北園美玲(きたぞのみれい)は完全無欠の王子様でパーフェクトな存在、もう1人である南月都(みなみつきと)は仏頂面のクールな性格で美玲に続くNo.2の成績です。担任である世留も攻略対象であり、非常にドSな性格で天然な有由を翻弄していきます。他にも2人程攻略対象がおり、それぞれ別の性格をしておりますのでとても賑やかですね。初めてプレイする際は、まず何も考えずに意中のキャラクターを目指してみるのが良いと思います。

 そして最大の魅力はやはり主人公である有由の性格だと思いました。女性向け作品らしく基本男性キャラクターのアクが強いのですが、そんな彼らですら呆れる程の天然っぷりを発揮してくれます。例えば彼女の好物はバーモンテ(バーモントカレーの様な物)なのですが、彼女はこれを最高の日本食と豪語しており料理当番も無視して勝手に作ってしまいます。彼女にとって晴れの日はバーモンテ日和。次第に周りの男性キャラクターもバーモンテに犯されていく様子は面白かったですね。そして彼女は壊滅的に学校の成績が悪いです。どのくらい悪いって、読書感想文の書き方を先生に質問して「数学の教科書がいいよ」と言われてそれを間に受けて書く位悪いです。テキストの答えを抜かれた時のマジギレ具合もなかなか。本当見てて飽きない主人公でした。

 プレイ時間ですが私で8時間程度かかりました。この作品は合計7人の攻略対象がいるのですが、共通部分で約3時間で個別ルートでそれぞれ約30分といった感じです。そして非常に選択肢の数が多いです。分岐の為の選択肢ではなく好感度の為の選択肢ですので、全EDを見るには毎回初めからプレイし直して地道に好感度を上げていく必要があります。逆に言えば分岐の為に選択肢ごとにセーブする必要は無いという事です。目標のキャラクターを目指せは素直にEDにたどり着けると思いますので、是非彼女らの性格と会話を楽しみながら世界の謎を解き明かして欲しいですね。繰り返しになりますが、まずは世界の謎というよりも素直に意中のキャラクターを攻略するところから始めればいいと思います。全てのキャラクターを攻略するために最低7周するのですから、自然と世界の謎やシナリオは頭の中に入っていると思いますね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<愛する人と一緒にいられればそれでいい。そんな若さあふれる決断を楽しませて頂きました。>


「守るっているのは傍にいることじゃない、その人ののぞむ幸せをたとえどんなものでもかなえること」


 瞬ルートの最後の方で登場した言葉です。姉である有由だけではなくその周りの人も含めて大切にしたいという願いを叶えるために一旦は離れ離れになることを決意した有由と瞬。ですが結局のところそれは本当の幸せではありませんでした。やっぱり離れたままというのは寂しいものです。声や言葉だけでは満たされない気持ちはあります。それは男女の仲である以上どうしても生まれてしまうもの。そしてそんな底の知れない願望でも、最後まで諦めずに叶えてあげてこその男気なんだなと思いました。

 全体を通してシナリオの展開は殆ど同じでしたね。4つ目の平行世界で知る事となった世界の秘密と自分の運命。そしてその事実を知ってもなお愛する人のために身を犠牲にしても助けようとする彼ら。最終的にはお互いの事を思い出して触れ合う事が出来ました。まさにファンタジーラブコメの王道のような展開でした。考察が好きな方やトリッキーなシナリオが好きな人にとってはもうEDまでの流れまで見えたのではないでしょうか。選択肢ももう選ぶものがあからざまでしたからね。それでも全てのキャラクターが上で書いた男気を発揮してくれました。愛する彼女の為に魔女に喧嘩を売る、世界を敵に回す、約束を保護にする。否応なく惚れてしまいますね。まさに学園恋愛ADVに相応しい流れだったと思いました。

 それでもメインである梨香シナリオで明かされた事実には正直驚きました。私自身梨香はとりあえず最後に攻略しようと思い割と機械的に他のキャラクターを攻略していったのですが、最後まで疑問に残ったのが「そもそも何故有由だけが特別な存在なのか?」でした。それでもまあこの作品はファンタジーでもありますので、最悪この疑問が解決されなくても意中の男性とハッピーエンドを迎えられればそれでいいのかなとも思ってました。ですがちゃんと梨香シナリオで語ってくれましたね。というよりも、ミステリアスな雰囲気を持っておきながらもどこか脇役の様な立場であった梨香がまさか実際の兄だったなんて思いもしませんでしたね。

 この世界は全て有由の為のものでした。病弱で余命を宣告された有由、確実な死がそこに迫っておりました。そんな妹が大好きな梨香は決意します。妹の命の為だったら何もいらないと。「妹の命は世界よりも重い!」思春期の男の子らしいとても頼もしいセリフでしたね。梨香が常日頃自分の事を悪役と言ってましたが、悪役なんて生温いものではありませんね。まさに世界全体の敵。人類よりも妹を優先した最低最強のシスコンじゃないですか!でもこの潔さもまたファンタジーラブコメの王道ですね。倫理や常識なんて関係ない。愛する人と一緒にいられればそれでいい。そんな若さあふれる決断を楽しませて頂きました。

 夜の太陽、昼の月という言葉はそんな有由と梨香の原点とも言えるものでした。魔女が元気な有由がいる世界を生むために太陽と月から質量を奪ったのは決して偶然ではなかったのかも知れませんね。有由の偶然の言葉の綾から始まった物語は、こうしてハッピーエンドを迎える事が出来ました。後はこの相手を想う気持ちを忘れない事ですね。時に衝突する事もあるでしょうけど、それでも素直な2人ですので最後まで幸せな時間を過ごせると信じております。ありがとうございました。


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