M.M WITCH and FLOWER




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 6 2 57 1〜2 2016/10/24
作品ページ(なし) サークルページ(Twitter)



<等身大な彼女達の姿を堪能し、彼女達がなぜ魔法少女として戦っているかを掴んで欲しいですね。>

 この「WITCH and FLOWER」という作品は同人サークルである「W&F制作委員会」で制作されたビジュアルノベルです。W&F制作委員会さんの作品をプレイしたのは今作が初めてであり、C90で同人ノベルゲームの島を回っている時に手に取らせて頂きました。白と黒で統一されたゴシック調のパッケージは、上下にレースの様な模様が施され独特の雰囲気を作り出しております。そしてタイトルが「WITCH and FLOWER」です。ワクワクするようなファンタジーが待っている予感がありました。

 この作品は百合をベースとした現代ファンタジーノベルゲームです。主人公である野々宮乃々花は普段は女子学園に通う普通の学生ですが、休日などはゴスロリの格好で街を出歩いております。その格好は多くの人の目を引き、その時だけ自分は特別な存在なんだと思う事が出来ました。ですがそんなゴスロリの格好をしていることが思わぬ方向へと舵を切る事になります。何となく地面に落ちていた剣のようなもの。それを手にとったとき、気が付けば現実世界ではない亜空間の世界へを飛ばされておりました。そこにいたのは同じくゴスロリの格好をした女子学生である織口沙織。そして目の前にはロリータの格好をした一円ひかり、有村つばめ、水無月かれんという3人組。彼女たちは魔法少女。普通の日常を送っていた乃々花は、一瞬にして魔法が飛び交うファンタジーな世界へと足を踏み入れてしまったのです。

 この作品の最大の魅力は登場人物たちのキャラクター描写にあると思っております。主人公である野々宮乃々花を始め、全ての魔法少女は女子学生です。思春期真っ只中な女の子らしく、自分や人生について悩んでおり行き場のない思いを解決できずにいます。そしてそれは文章の節々やフルボイスの中からも汲み取ることができます。この作品はフルボイスです。正直演技的にはやや棒読みな感覚はありますが、逆にそれが等身大な姿をイメージさせ効果的に働いております。ビジュアルも黒髪や茶髪の現実的な姿であり、極端な巨乳や低身長などの属性がありません。唯一の属性はゴスロリとロリータです。普通の女子学生らしさと魔法少女要素が絶妙に共存した彼女達の姿を十分に堪能して欲しいですね。

 ただ幾つか気になる点もありました。そしてそれは主にシステム面にあります。まずはバックログがありません。その為クリックを連打してしまった場合は一度ロードし直さないと読み直す事は出来ません。あまり急ごうとはせず、ボイスを全て聞ききるつもりで読み進めて頂ければ調度いいのかなと思います。そしてセーブフォルダが5つしかありません。この作品は幾つかのEDがありその為に幾つかの選択肢が存在します。全ての選択肢を検証しようとすると5つではとても足りるものではありませんので、コンプリートしようと思えば何度か初めからやり直す必要があります。単純な分岐ではなく好感度システムな感じがありましたので、そういう意味でも5つは少なかったなと思いました。まあそこまでEDの数は多くありませんので、何度か繰り返せばポイントが分かると思います。そこまで目くじらを立てなければ気にならないレベルではありますね。

 プレイ時間は私で1時間程度掛かりました。1時間ですので本当あっという間に終わった印象を受けるかも知れません。彼女たちのパーソナリティ、魔法少女としての立場、そして心の奥底にある想いを汲み取っているうちにEDにたどり着いている事と思います。そして最後に書きそびれましたが、プレイ前に必ずパッチを当ててください。これがないとEDにたどり着いた時に必ず強制終了してしまいます。パッチは上記の公式Twitterのタイムラインで確認する事が出来ます。まだDLsite.comを始めとしたダウンロードサイトでは初めからパッチ適用済みのバーションですので気にする事はありません。百合が好きな方、女子学生が好きな方、魔法少女が好きな方であればどこか必ず引っかかるところがあると思いますので、是非手に取ってみれは如何でしょうか。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自己を確立し大切な存在に気が付けたとき、それが少女としての時間の終わりでした。>

 上でも書きましたが女子学生の等身大な姿がとても印象的でした。何か毒別な存在になりたいと思っていた乃々花、正義を信じていたのにそれが裏切られた事に絶望して悪に走ってしまった沙織、誰もが思春期に感じ思った事だと思います。ですがそんな彼女たちも大切なものを見つける事が出来ました。それは目の前で支えてくれるお互いの存在でした。

 この世界で女の子が魔法少女になれる条件は厳密に決まっております。それは18歳以下の少女である事とゴスロリやロリータといったファンタジーな姿をしてるという事です。この条件を聞いたとき、私は「まるで子供しか魔法少女になる事は出来ないじゃないか!」と思いました。まあ魔法”少女”ですので子供しかなる事が出来ないのは最もなのですが、恐らく大人になったら魔法は使えないのだろうと思います。あくまで魔法というものはファンタジーな存在であり、現実のものではないという事です。この事に気づいたとき、彼女達が魔法を使える事そのものがモラトリアムの象徴であり魔法が使える間に自己というものを確立しなければいけないのだなと思いました。

 乃々花は特別な自分になりたいと思い、中学の先輩である紫苑の言われた通りゴスロリの格好をする事で自分が変わったと思いました。ですがそんな紫苑はゴスロリをやめ女になると言い、その事で乃々花はゴスロリへの意味を失ってしまいました。ゴスロリは何も持っていない自分を隠す存在でしかなかったんですね。沙織の魔法少女としての能力はとても高いものでした。ですが彼女は自分が所属しているトロイアという組織について何も知りませんでした。自分が正しいと盲信している存在しか見ようとせず、現実を向き合うことから逃げていたんですね。そんな2人が真実や現実を知りたいと思ったとき、その段階で既に2人の少女時代は終わりを迎える事が出来たんですね。

 そして現実に目を向け真実を知りたいと思うと同時に、自分以外の大切な存在にも気付く事が出来ました。今までは自分の大切なものを守るだけで精一杯だった乃々花と沙織、一見全然性格が違うように見えて実は本質が同じ2人だからこそ惹かれあったのかもしれません。言葉にこそしてませんでしたが、心の奥に相手への気持ちが溜まっていき最後は相手のことを思い自分の行動を選択しました。HAPPYENDでは魔法少女としてまだまだ未熟な乃々花を失いたくないと思った沙織が乃々花を守るために敢えて遠ざける決断をしました。それでも会いたいと思う気持ちは抑えられず、再会した2人はもう気持ちを隠すことなく2人だけの幸せな世界へとたどり着きました。TRUEENDではやはり乃々花を守るためにトロイアを裏切ってでも2人一緒に戦う決意をしました。これもお互いを大切に思い守るための方法ですね。彼女達の戦いはここから始まるのです。

 始めは百合ファンタジーという事でどんなイチャイチャシーンが待っているか楽しみにしておりました。ですが実際はそんな直接的なものではなく精神的な繋がりを大切にしたものでした。作中に何度か登場するスチルはそんな乃々花と沙織の2人の心の通い合わせの象徴ですね。個人的にはやはりHAPPYENDの最後のスチルが一番のお気に入りです。Witchである2人がたどり着いたFlowerな景色。何者にも侵されない神聖な領域。いつまでも大切にしていきたいと思いました。ありがとうございました。


→Game Review
→Main