M.M ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 7 - 84 6〜7 2017/7/8
作品ページ サークルページ



<本当に先が気になって仕方がない。リアルタイムで追っていた人たちが本当に羨ましい!>

 この作品について、もはや自分が何か解説をするという事は不要かも知れません。同人サークルである「07th Expansion」によって制作されたサウンドノベルであり、その後社会現象となるまでに世の中に広まった大ヒット作品です。本編は全部で8つの編で構成されており、それぞれの編がコミケごとに発表されました。今回レビューしている「鬼隠し編」が2002年夏に発表された事を皮切りに、最終編である「祭囃し編」が2006年夏に発表されるまで多くの方が物語の結論を想像し、待ち焦がれました。私自身当時の盛り上がりだけは知っておりました。当時は「上海アリス幻樂団」制作の「東方Project」も大変な人気となっており、コミケの同人ゲーム界隈では「07th Expansion」と「上海アリス幻樂団」で圧倒的な列形成がされた事を覚えております。私は「上海アリス幻樂団」に並んでまして、同時に「07th Expansion」の長蛇の列も見ておりました。その後アニメ化や漫画化などのメディアミックスが盛んに行われ、現在では同人におけるビジュアルノベルの代表作として誰の頭にも残っているタイトルだと思います。

 私自身、ビジュアルノベルのレビュアーを自称している身としてこの「ひぐらしのなく頃に」をプレイしていないという事は小さなコンプレックスでもありました。誰もが知っている作品、同人ビジュアルノベルと言ったらこの作品、そうとまで言われている作品を未だにプレイしていない。これは個人的に問題だと思っておりました。何よりも、その後アニメ化や漫画化などのメディアミックスが盛んに行われ、それと同時にネット上でどうしてもネタバレを受けてしまう機会が生じてしまうんですね。ゲームやアニメで象徴的なセリフや画像がどこにでもポンッとネット上に挙げられる、そしてそれでお祭りが起きる、そんな場面に出くわしてしまうことは避けられませんでした。このままではシナリオそのものについてもネタバレを受けてしまうと思いました。アニメも見ず漫画も読まず、人のレビューも全て読まず出来るだけ情報をシャットアウトしてきましたが、今回ようやく重い腰を上げてプレイしてみようと思いレビューに至っております。

 この作品が爆発的な人気になった理由、それはもちろん作品そのものに魅力がある事が一番の理由だと思います。ですが前評判から注目するべき珍しい特徴がいくつもありました。第一に「選択肢がない」という事です。「鬼隠し編」が発表された2002年夏当時は美少女ゲームが大変な賑わいを見せていた時期であり、選択肢を選ぶことで特定のヒロインを攻略していくスタイルが一般的でした。またサウンドノベルにしても「かまいたちの夜」や「弟切草」など数多くの選択肢の中からエンディングを模索するものが主流でした。そんな中で「選択肢がありません」と言い切った作品はほとんど無かったと記憶しております。第二に「正解率1%」のキャッチフレーズです。この作品は「雛見沢村連続怪死事件」という事件を巡って繰り広げられます。その内容は不気味且つ謎に満ちており、何が真実なのか全く読めないものです。その上で「正解率1%」と言われれば、それはプレイヤー精神としては燃えるものです。自分は絶対に解き明かしてみせる!そう思った方が何人いたでしょうか。第三に「各編がコミケごとに発表される」スタイルです。実際にサークルさんが狙ったかどうかは分かりませんが、各編ごとに新作をコミケで発表するスタイルは結果として大変な口コミ効果がありました。初期プレイヤーによる評価やレビューで噂が広まる。そして作品を求める人が増える。結果上でも書いたとおりコミケで話題になるくらいの列形成を作り出しました。これらの要因が効果的に作用し、現在の人気につながったのだと思っております。

 元々私は「ひぐらしのなく頃に」と「ひぐらしのなく頃に解」の2本立てでレビューを書こうと思っておりました。このシリーズは「問題編」の4編と「解答編」の4編の計8編がメインシナリオであり、ディスクも2枚で分かれておりましたのでそれにレビューも合わせようと思っておりました。ですが、1編目である「鬼隠し編」をプレイしてそれは自分には出来ないと悟りました。「鬼隠し編」は作品全体のプロローグ的な位置づけになります。それにも関わらず内容は非常に濃いものであり、またプレイ時間も現在の一般的な同人ビジュアルノベルと比べて長いものでした。何よりも、リアルタイムで作品を追っていた方々は各編をプレイし終わる度に考察しレビューを書き新作を待ちわびた訳です。そうであるならば、自分もそれに準じなければと思いました。そうした構成にする以上、ネタバレ無しのレビューについてはこの「鬼隠し編」のみとなります。その後は全てネタバレ有りで書こうと思っております。今回ひぐらしのなく頃にシリーズの導入ということでやや長めのネタバレ無しレビューになっております。ここから作品紹介に進もうと思っておりますのでよろしくお願いします。

 時は昭和58年。日本はバブル経済真っ只中であり、人も街も経済も大変な賑わいを見せておりました。ですが舞台である雛見沢村と呼ばれている村は大変な田舎であり、そんなバブル経済とは無縁の長閑な雰囲気でした。そんな雛見沢村にダム建設計画が浮き上がります。高度経済成長に伴い電力需要の確保が国の課題となっており、その過程でダム建設が盛んに検討されました。雛見沢村は山間にある村という事で、このダム建設が行われれば周辺の集落を含め非常に多くの村がダム湖の中に沈む事になります。雛見沢村の人達は抵抗しました。周辺の集落の人達と共闘しダム建設に反対しました。ですが、このダム建設計画は思わぬ形で無期限凍結となるのです。切っ掛けは現場監督員の凄惨な死。後に「ダム現場バラバラ事件」として週刊誌やメディアに取り上げられるほどの事件であり、被害者は全身を6つの部位に解体され加害者6人がそれぞれの部位を持つ事で共犯とするものでした。現在犯人は5人まで逮捕され、残り1人の主犯格が未だに逃走中です。全国指名手配され、世間的にこの事件は終わったと思われました。ですが、その後この雛見沢村では奇妙な事故が定期的に起こってしまうのです。果たしてそれは偶然でしょうか、必然でしょうか、関係性があるのでしょうか、そして村人の誰もが口にしない「オヤシロさま」とはどのような存在なのでしょうか。ダム現場バラバラ事件から始まった死の連鎖を止められるのは、プレイヤーであるあなたしかいないのです。

 主人公である前原圭一は、3週間前に都会からこの雛見沢村に引っ越してきました。慣れない田舎生活ですが、竜宮レナや園崎魅音を始めとしたクラスメイトに囲まれて楽しい毎日を過ごしておりました。雛見沢村では毎年6月に綿流しと呼ばれるお祭りが行われます。それは雛見沢村に代々伝わる「オヤシロさま」と呼ばれる守り神を祀るお祭りであり、毎年多くの方が参加し盛り上がるものです。圭一を始めクラスのみんなやフリーカメラマンである富竹さんも加わって最後まで楽しい時間を過ごすことが出来ました。ですがそれと同時に圭一は小さな疑念ももっておりました。それはこの村で過去に起きたダム現場バラバラ殺人事件、そして富竹さんから聞いた「綿流し祭の日は毎年何かが起こる」という言葉、それはほんの小さな楔のようなものでした。気にしなければそれだけの些細なものでした。ですが、その後圭一はこの小さな疑念を切っ掛けに自分が信じていたものがどんどん崩れていく絶望感に襲われるのです。何が真実で何が間違いなのか、誰が本当の事を言っていて誰が嘘を言っているのか、一連の事件の真実は何なのか、そしてオヤシロさまとは何者なのか。圭一の孤独な戦いがここから始まるのです。

 今回プレイした「鬼隠し編」は、シリーズ全体のプロローグにあたります。それでも物語は区切りの良い地点まで進み、そのシナリオ展開にグイグイ引き込まれました。始めは普通の長閑な田舎生活のはずでした。ですが途中からいきなり景色が変わるんですからね。見る人の意識が変われば、こうも世界の色は変わってしまうんだたという事を絶望感と共に感じました。そして最後までプレイし終わって、本当に沢山の謎が残るのです。もちろんプロローグですので謎が残るのは当たり前です。ですが、それが余りにも気になって直ぐにでも先に進みたくなるのです。これはリアルタイムで追っている人たちがコミケに殺到するのも頷けます。ひぐらしのなく頃にというタイトルの通り、途中ずっとひぐらしの鳴く音が響き渡ります。その音すらも歪んで聞こえてしまいそうです。そんな惹きつけるシナリオが魅力でした。

 システム周りですが、これは2002年に出されたという事で必要最低限のものしかそろってませんでした。それでも基本的にプレイに支障はありませんので気になる事はありません。ただ、バックログの保存数が少ないことが気になりましたね。場面展開したらもう過去のものは見る事が出来ないのです。これはもっと先伸ばしで見れたら良いなと思いました。他には途中Tipsを挟むことでブレイクタイムを設けている事が良かったです。元々長い作品ですので、このように明確に休憩場所を提示してくれると安心して休む事が出来ます。加えてTipsを読ませる事で本編から外れた情報が手に入り、頭の整理に約立ちます。TipsとTipsの間までは私で約30分でした。この時間間隔も絶妙だと思いました。他には上でも書きましたが効果音とBGMが魅力的でした。効果音はひぐらしの鳴き声を始め全てがリアルであり、臨場感がありました。BGMは場面に合ったものを使用し、長閑な場面・戦慄する場面・恐怖する場面・疑惑の場面など効果的に演出されておりました。何よりも切り替えがスパッとしてるのが良いんですよね。テキストを読まなくても場面が変わったな、って瞬時に理解できました。

 プレイ時間は私で6時間50分掛かりました。気が付けば6時間50分経っているというのが正解かも知れません。実際のところ、お昼ご飯を食べるのも忘れて没頭しておりました。とにかく先が気になって仕方が無かったのです。それでいて途中の謎や気になったところをメモするのも忘れませんでした。メモだけでここまで11kB。これらが全て解決するのかは、今後のシナリオに期待ですね。社会現象にもなる程の人気になる理由、確かに頷けました。リアルタイムで追っていた方々の興奮が分かるようです。このレビューを投稿し終わったら、早速次の編に進もうと思います。頑張ります。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。










































<オヤシロさまは実在する神様ではない、人間の疑いの心が生み出したまやかしである。そう信じております。>

 愛しいとすら思っていたはずの笑顔が、今では恐怖にしか見えない。夜の静けさが心地よいと思っていたのが、今では恐怖しかない。声をかけてくれる村人の人たちの言葉が暖かかったのに、今は恐怖しか感じない。全てが疑わしい、誰も信じる事が出来ない、もう自分1人で闘うしかない、そう決意した圭一にとって、常識というものは失われておりました。もしかしたら、それもまたオヤシロさまの祟りなのかも知れません。オヤシロさまとは、人間の心が生み出した疑念そのもののように思えてしまいます。

 この作品はミステリー要素を含んでおりますので、私としてもこの「鬼隠し編」をプレイして気になった点は整理しておこうと思います。端的に気になったのは以下の4つです。

・竜宮レナと園崎魅音のサイコパスを思わせる変貌は何なのか。
・最後に圭一のメモを切り取った何者かは、何故あえて「メモを全て撤去せず切り取って残す」真似をしたのか。
・注射器の存在は何なのか。
・圭一が感じた「背後の気配」の正体は何なのか。

 1つ目はもう言わずもがなですね。目の色を変え、まるで別人のように振舞う様子は圭一も言っておりましたが別人に思えました。それでも変貌前と変貌後で記憶を共有しておりましたので、彼女たちが別人である事は間違いありません。何よりも、どうして彼女達は圭一に対してあんなにまどろっこしい言い方をするのでしょうか。圭一の質問には答えず、物事を端的に言わず、相手を試すような言い方ばかり。それ程までにオヤシロさまという存在は畏怖の対象なのでしょうか。それとも他の理由上がるのでしょうか。私には、彼女たちの言動というよりもその煮え切らない態度が気になりました。これが解決したとき、自ずと真実も彼女たちの口から語られると思っております。最後に魅音が口にした「監督」という人物も気になります。これについても彼女たちは一切情報を出しませんでした。何も分かりません。そうであるのなら、その情報が流れるまで待つしか他ありませんね。

 2つ目は単純に疑問に思いました。わざわざ切り取る真似をするくらいなら、最初からメモごと撤去すれば良かったのではないでしょうか。加えて、注射器を付けるために使用したテープの残骸もそのままに残しておいた様です。あえて手の込んだ証拠隠滅を図るのは、きっと意味があるのだと思っております。この事件は今のところ「女子高生殺人事件」として処理されて終わりそうです。これはメモを中途半端に残しても残さなくても迎えることが出来る結末です。圭一が身柄を発見され24時間後に死亡しておりますので、メモのあるなしに関わらずもう真実を問いただすことは出来ないのです。だからこそ、尚の事メモを切り取って残す行為をしたのか気になりました。これの意味も解決して欲しいですね。

 3つ目はおおよそこの事件の根幹の部分に関わってくる気がします。フリーカメラマン富竹は死亡する直前、角材をあてもなく振り回しその後自分で自分の喉を掻き毟りました。そしてこの異常行動は圭一も再現しておりました。圭一は確かに精神的に追い詰められておりました。大石さんの言葉を聞いて何を信じればいいか分からなくなり、レナと魅音の変貌を見て周りのもの全てに恐怖を覚えるようになりました。それでも「死んでたまるか!」「生き抜いてやる!」とその気持ちを拠り所にしておりました。そんな圭一ですので、どんな状況でも自殺するとは考えにくいのです。何よりも、魅音が注射器を片手に「………富竹さんと同じ目にあってもらう。」と言っております。そしてこの注射器は何者かの手によって隠蔽されております。何かしらの意味を持っていることは間違いありませんね。

 4つ目は圭一に限らずレナや富竹にも当てはまる気がします。走っても走っても消えるどころかすぐ側に寄り添っている気配。始めは強迫観念がもたらした勘違いだと思いました。ですが、圭一に限らずレナや富竹にも共通する様子を見る限り何か理科的な理由があるように思えてなりません。もちろん物的証拠はありません。あくまで本人が証言しているだけです。それでも、この背後の気配によってレナは茨城の転校先で同級生に暴行し学校のガラスを壊す行動にでました。富竹と圭一は死にました。明確な実害が出ているのです。この「背後の気配」の正体を暴いたとき、それが事件の解決に繋がるのかも知れません。

 そして、この一連の事件を語る上で決して欠かす事が出来ないのが「オヤシロさま」ですね。私自身、オヤシロさまという存在はあくまで信仰の対象でありこれら一連の事件とは何ら関係ないと決めつけております。一番の理由は、この雛見沢村にまつわる事件がダム建設バラバラ事件が初めてだからです。オヤシロさまが本当に雛見沢に伝わる神様であるのなら、ダム建設の以前から村の危機があった時に祟っているはずです。ですが公的な記録でそれがありません。であるのなら、これはダム建設に関わった何者かによる殺人であると考えるのが一般的です。毎年綿流し祭の時に犠牲者が出るのも偶然です。オヤシロさまを信仰しない人が犠牲になるもの偶然です。ただ、誰もがオヤシロさまを恐れて自分の意思ではなく同調圧力で動いているだけです。オヤシロさまとは実在する神様ではない、人間が作り出した疑いの心が生み出したまやかしである。そう信じております。

 ですが、実はそうではないのではないかと思わせるだけの力がありました。犠牲者は本当に祟られ呪い殺されたのではないか、そう思わせる程に事件と祟りのタイミングが一致しておりました。一応事件としては個々で書類上解決しております。毎年起きた事件を関連付ける事に意味なんて無いのです。ですが、それは本当でしょうか?レナと魅音の変貌は彼女たちがサイコパスだからでしょうか?富竹が喉を掻き毟ったのは、彼が恐怖に駆られたからでしょうか?圭一が女子高生を殺害したのも、彼が精神を病んだからでしょうか?毎年犠牲者と行方不明者が1人ずつでるのは偶然でしょうか?その全てを知っているのは、鳴き続けるひぐらししかいないんですね。

 「鬼隠し編」では圭一の視点で物語が紡がれました。そしてそれは圭一の精神状態と密接にリンクしており、同じ風景同じ人物でも違ったものに見えてしまいました。見方が変われば、こんなにも景色は変わって見えるんだ。それを体感させて頂きました。それでも、真実は変わる事がありません。何が嘘で何が本当なのか、それを見極めるまでこの作品を終える事は出来ません。ミステリーである以上明確な答えが待っている、そう信じてこれからも進んでいこうと思います。続きが楽しみです。


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