M.M 私は猫になりたい
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 8 | 7 | 77 | 1〜2 | 2021/10/11 |
作品ページ(Steam) | サークルページ |
<この作品をプレイする事で、ほんの少し猫や動物に対して優しくなれるかも知れません。>
この「私は猫になりたい」という作品は、同人ゲームサークルである「みやこ出版」で制作されたビジュアルノベルです。みやこ出版さんの作品をプレイするのは本作が初めてになります。切っ掛けは、私とお知り合いの倉下さんの共同で主催している「第一回crAsM.M ビジュアルノベルオンリー」に参加頂いた事でした。当イベントには全部で30近いサークルさんが参加されているのですが、申し込み時点で半数のサークルさんについては作品未プレイでした。今回取り上げているみやこ出版さんも同様ですので、まずはサークルさんを知る意味も込めてプレイしてみようと思ったのが切っ掛けです。可愛らしい雰囲気とタイトルに、どこか和やかな雰囲気の作品なのかなと思いプレイし始めました。
物語の開始は突然でした。主人公は、猫です。いきなりこの世なのかあの世なのか分からない様な場所で目を覚まし、目の前には何故か喋るニワトリが現れました。そして、自分自身は猫なのです。元々人間だった主人公が何故猫になってしまったのかは分かりませんが、とにかく猫として暫く生活する事になりました。今更頭を抱えても仕方がないので、とりあえず猫として現世に行く事になりました。目を覚ましたらそこは雨の都会、そして主人公を拾ってくれたのは、関門・ユーク・甲斐という名前の3人の男性でした。心優しい3人は同じ事務所で働いている関係、紆余曲折があり主人公はこの事務所でお世話になる事になりました。果たしてどんな出来事が待っているのでしょうか。ここから先は、是非猫になったつもりで読み進めていきましょう。
猫、可愛いですよね。一説によると、猫が可愛いのは生まれた時から顔の配置と言いますかパーツが変わっていないからなのだそうです。万物、生まれたばかりの子供は可愛いものです。そんな可愛い姿のまま大人になるのですから、可愛いに違いありません。そして、あの素っ気ない態度も可愛いです。手に届きそうで届かないもどかしさが、きっと人間を虜にするのでしょうね。でも、ちょっと待ってください。もしかしたら、猫は猫でちゃんと伝えたいことがあるのではないでしょうか。人間には同じニャーンに聞こえるかも知れませんが、実はそこにちゃんと意味を込めているのかも知れませんよ。そんな猫の気持ちなど露知らず、勝手に可愛いだの何だの言っている人間の何と勝手なことでしょうね。それでも不思議と関係が保っているから不思議な事です。今作では、そんな猫の気持ちを猫側から味わう事が出来ます。しかも、主人公は元人間の猫ですのでちゃんと意思疎通したいという知性があります。この作品をプレイし終わる頃には、きっと自分の愛猫に対してもっと声を聴きたいと思うようになっている事でしょうね。
その他の要素として、音楽が個人的にお気に入りでした。楽曲の殆どはKevin MacLeod氏によるもので、そのどれもが実際の楽器を使用したような綺麗なサウンドでした。ピアノを中心に、フルートやクラリネットなどの管楽器、バイオリンやアコースティックギターなどの弦楽器を使用しており作品に色を添えてくれます。またエンディング曲はボーカルであり、透き通る女性の声が耳に届きました。これをMusic Playerで聴く事が出来るのがまた素晴らしかったです。この作品は特定の条件で音楽モードが解放されるのですが、ここでは音源だけではなく象徴的なスチルもセットになっております。作品の雰囲気や場面を懐かしみながら聴く事が出来ますので愛着も一入ですね。全曲ループや一曲ループなども選べ、まさにをMusic Playerとしての役割を果たしております。
プレイ時間ですが私で1時間15分程度でした。短めですが、選択肢の数は思ったよりも多く全ての分岐を検証するのはそれなりに検証が必要です。もちろん、選んだ選択肢でエンディングは変化します。是非全てのエンディングを見届けて欲しいですね。そして可能であれば解放されるおまけモードにたどり着いて欲しいです。そこでは、先に紹介したをMusic Player以外にも幾つかのエピソードが用意されております。何よりも、少し不思議な猫と人間のドラマを堪能して欲しいですね。上でも書きましたが、猫の気持ちってきっとこんな感じなんだろうなという事を味わう事が出来ます。もしかしたら、プレイ前よりもほんの少し猫や動物に対して優しくなれるかも知れません。とある猫と人間に起きた奇跡の様な物語を、是非楽しんでみて下さい。オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<大事なのは自分がどう生きるか、出来るだけ後悔無く行動出来るかが大切なのかも知れません。>
最初から最後までほっこりした気持ちになる事が出来ました。猫って、そこにいるだけで癒やしになる存在です。ですけどそれは猫だけではなく、きっと人間も同じなんだなと思いました。自分の生き方が周りにどんな影響を与えるかなんて、あまり考えるだけ意味が無いのかも知れません。
始めよく分からない理由で猫にされてしまった主人公、ですが割とその事実を受け入れて猫として生きようと心を決めておりました。ですが、この心を決めるというのはとりあえず猫として何となく生きるのではなく、猫なら猫なりに何らかの形で役に立ちたいと思う事でした。主人公は元来真面目な性格みたいですね。どこか周りに遠慮して、迷惑かけまいとして、そして役に立ちたいと思う、何となく自分も気持ちが分かる気がします。きっと主人公は、自分の居場所が欲しかったのではないでしょうか。他人に嫌われたくない、他人に認められたい、自分の存在意義を持ちたい、そんな気持ちが思考や行動に現れているように思えます。ですけど、人間ならまだしも猫だから中々それが実行できなかったりするんですよね。
ノーマルエンディングでは、とりあえず猫として普通に生活して引き取り手の所に引き渡られる場面で終わりました。主人公としては、自分を養ってくれた3人に何も出来なかったと後悔の気持ちを持っておりました。ですが、そんな主人公の気持ちとは裏腹に3人の顔は晴れやかでした。そうです、別に主人公は何も出来なかった訳ではなかったのです。ただ、そこにいるだけで意味があったのです。それを3人の表情と旅立ちの日の虹が証明してくれてました。結局のところ、自分が周りに貢献できたかどうかなんて自分で判断なんて出来ないんですね。決めるのは自分ではなく周り。加えて言えば、自分が思う程周りの人間はドライではないのかも知れません。いるだけで意味がある、そう言ってくれる人がいる事のなんと幸せな事でしょうか。最後再び人間に戻る時は、少しだけ後悔の気持ちもありましたがそれ以上に晴れやかな気持ちを持っておりました。どうやら主人公も人間時代に何かと苦労して心をすり減らしてきたみたいですが、この猫の経験によって少しでも前向きに生きていけたらと思っております。
そしてトゥルーエンディングでは、主人公のお手柄によって事務所に忍び込んだ謎の人物を突き止める事が出来ました。僅かなチャンスをものにして、自分が出来る事を精いっぱいこなしてそれを実績として出す事が出来たのです。もちろん、3人はそれが主人公のお手柄などとは思っておりません。何しろ猫ですからね。まさか猫がアカウントを作成しメールを送るなんて思いもしないでしょう。主人公がどれだけ努力しても、決して自分の手柄にはならないのです。それでも、自分を養ってくれる3人の役に立てた主人公は晴れやかな気持ちでした。私は、この気持ちに尊さを感じました。無償の奉仕と言えば言葉は固いですが、まさにこれだと思いました。別に、主人公が行動をしてもしなくても特に結末は変わらないのです。どっちに転んでも主人公は3人に優しく見送られながら猫としての短い人生を終えます。それでも、こんな自分でも何か出来るのではないかと努力する姿勢が素晴らしいのではないでしょうか。実際のところ、甲斐は気付いていたのかも知れませんね。ですがそんな事を議論するのは野暮という物です。結局のところ受け取る側の気持ちをコントロールすることは出来ません。そうであるのなら、自分がどう生きるかだけ大切にすれば良いのかも知れません。
決して大きな事件が起きる訳でもなく、ドラマティックな出来事が起きる訳でもありませんでした。何故か猫になってしまった主人公の視点で描かれる数日間のとある事務所での出来事でした。他人にとっては取るに取らない事、当事者にとってもちょっとした夢の様な出来事になるのかも知れません。それでも、確かにそこに主人公はいて3人はいました。今は写真や動画で記録を残すことが容易に出来ますからね。きっと、彼らの友情は心の片隅に残り続けるのだと思います。自己とは何か、存在感とは何か、他人の気持ちとは何か、そんな人生観を表現した心温まるシナリオでした。後は純粋に猫に対する知識が素晴らしかったですね。水の取り換えの考え方や、保護猫の記述は普通に参考になるものでした。ライターの方はそうした仕事に関わっているのでしょうか?それとも勉強されたのでしょうか?何れにしても、猫や動物に対する深い愛情をお持ちだと思いました。そんな信念とテーマも感じる事が出来た作品でした。
最後にタイトルである「私は猫になりたい」について少し書こうと思います。最後までプレイして、結局の所直接的に猫になりたいというセリフはありませんでした。主人公は勝手に猫になって勝手に人間に戻りましたし、他の登場人物も猫になりたいとは言ってませんでした。では、何故タイトルが猫になりたいなのでしょうか。思うに、主人公は心のなかで猫になりたいと思っていたのではないでしょうか。人間時代、色々なことがあり心をすり減らせておりました。それこそ、猫の中に入れてしまうくらい。ああ、猫になれたらどれだけ楽なんだろうって思ったと思います。そして、猫になってそれでも誰かのためになる事が出来ました。この少しの自信さえあれば、人間に戻ってもきっと頑張れると思います。是非幸多い人生になることを祈ってレビューの終わりにしたいと思います。ありがとうございました。