M.M バニラ 審判の園




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 77 1〜2 2019/3/11
作品ページ サークルページ

体験版



<まさに楽園を連想させる美しい世界の中で、自分自身を見つめる物語が幕を開けます。>

 この「バニラ 審判の園」は同人サークルである「CHARON(読み方はカロン)」で制作されたビジュアルノベルです。CHARONさんに初めてお会いしたのはC95で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。この時CHARONさんのスペースには長蛇の列が出来てまして、その勢いに任せて自分も並んで購入させて頂いた事を覚えております。この時は今回レビューしている「バニラ 審判の園」と合わせてC95の新作である「万華鏡ステラ」の方も買わせて頂きました。まずは新作である「万華鏡ステラ」の方をプレイさせて頂き、終末世界の中で生き方を考えるシナリオを楽しませて頂きました。そのままの勢いで「バニラ 審判の園」の方もプレイさせて頂き、今回のレビューに至っております。

 主人公であるシロ(名前は仮)は、自分の名前も思い出せない記憶喪失でした。とある森で目が覚めたのですが、その体には無数の傷と泥の跡がついてました。暫くさまよっていると突然真っ白な花畑が目の前の広がります。そして、そこには1人の白い女の子が待っておりました。彼女の名前はバニラ、彼女はここを「白き花園、すべての罪が許される場所」と言っております。そんな彼女に導かれてやってきたのはとある一つのお城、そこにはシロと同じく記憶を失ったシーマ・リリス・ソヨの3人の女の子が住んでおりました。彼女たちと過ごしていく中で、やがてシロは自分が忘れていた記憶を思い出していきます。シロ達はどのような過去を背負っているのか、この世界はどうなっているのか、そして白の少女バニラは何者なのか、不思議な世界の中で自分を見つめる物語が幕を開けます。

 プレイし始めてまず思ったのが、世界がとても美しいという事でした。白い花が一面に咲いている様子は素直に綺麗でしたし、城も小綺麗に整えられていて西洋ファンタジーの世界そのままでした。何よりも、女の子がみんな可愛いのが良いですね。バニラはミステリアスな雰囲気が気になりますし、シーマは明るく快活な性格が可愛らしいですし、リリスは典型的なツンデレがお見事でしたし、ソヨはそんな2人のバランスをとるかのようにお淑やかです。出来る事ならずっとこの世界に住んでいたい、そんな楽園の様な世界が印象的でした。だからこそ、エンディングに向けてこの世界とどう関わっていくのかが大切になるんですね。是非背景描写やキャラクターの姿を目に焼き付けておいてください。

 そして、そんな美しい世界観を彩っているのはBGMも同様です。今作も、全てRyo Lion氏のオリジナル楽曲で構成されております。アコースティックな雰囲気の楽曲がどこか現実世界を忘れさせるような印象を与えてくれます。勿論、牧歌的なサウンドだけではなく危機的な場面や荘厳な場面を連想させる楽曲もあります。しっかりと場面場面に合ったサウンドを選択されていて、よく検討されてスクリプトを組んだ様子が伺えました。現在サウンドトラックも発売されておりますので、是非作品と合わせて手に取ってみては如何でしょうか(私はC95の時に全部買わせて頂きました)。

 また、この作品は選択肢の数が非常に多いです。この流れは次回作である「万華鏡ステラ」と同様ですね。基本的には分岐に意味のない選択肢であり、大切な場面は一目で分かりますのでフラグ管理に苦労する事はありません。私も「万華鏡ステラ」での経験を踏まえて、今回は大事な選択肢以外は全くセーブを取らずガンガン選んで読み進めていきました。分岐に意味がなく、またどちらの選択肢を選んでもシナリオに変化はありませんので気軽に考えて選択していけば良いと思います。

 プレイ時間は私で1時間50分くらいでした。今作は1つのTRUEENDと3つのBADENDで構成されております。そして、全てのENDを見る事で全てのスチルが埋まるという仕掛けです。この作品は非常に色鮮やかなスチルもまた特徴だと思っておりますので、是非全てのスチルを確認して頂きたいです。BADENDだからといって残虐なスチルが待っているという訳ではありません。むしろ、BADENDを見る事でよりヒロインの事が好きになるかも知れません。決して大ボリュームの作品ではありませんので、ここぞという選択肢でセーブを取り、分岐を検証して全てのENDを確認してみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<酷い人生、それでも自分だけは許してあげよう。>

 なるほど、この物語は既に終わった世界の物語だったんですね。今更彼らが何をしたところで何も生み出さない、ただ自分がやってきた事を自覚してそのまま地獄に落ちるだけの物語だったんですね。何という救いのなさ。ですけど、その救いが亡くなる直前にちゃんと自分の罪を自覚出来ただけでも、彼らは幸せだったのかも知れません。

 正直な話、BADENDに初めて到達した時に「これは本当にBADEND?」って思ってしまいました。生前の罪を思い出し自覚したらそのまま地獄に行かなければならないのがこの世界の理、ずっとこの審判の園に留まり続けるのは許されません。つまり、自分が犯した罪をが許される事を否定しているのです。だからこそ、そんな彼女たちの罪を許してあげるというシロの言葉はあまりにも甘美で優しく、やっと彼女たちも苦しみから解放されると思ったと思います。それで良いじゃないかと思ったのですが、残念ながらそれはBADENDでした。この作品の主題は、自分の罪は他人から許されるものではなく自分で許してあげるという事なのかなと思っております。

 シーマもリリスもソヨも、酷い人生を歩んできました。シーマは学校に馴染めず家族にも見放され、唯一の趣味である創作活動すらもとある男に汚されてしまいました。自分が大切にしている物がどんどん無くなっていく、だからこそ彼女は自分を守るために男に手を掛けたのだと思います。人殺しは悪い事です。そんな事分かっております。シロに縋ったところで、自分で作った傷は消える事は無いのです。だからこそ、シロは突き放して良かったのだと思います。最後シーマは自分が本当に欲しかったものに気付く事が出来ました。そして、その本当に欲しかったものは確かにこの楽園の中にあった事にも気付けました。だからこそ、最後は笑えたのだと思います。

 リリスは誰が見ても自業自得なのかも知れません。相手の気持ちを軽く扱い弄び、自分が快楽を得られればそれでいい。そんな生活をしていれば最終的に復讐されるのは当たり前でした。悪いのは自分、そんな事分かっております。それでも自分で自分の事が分からない苦悩も持っておりました。楽園の中で生活していく中で、リリスは本当は愛に飢えているという事を自覚しました。ずっと突っ張って生きてきたリリスでしたけど、本当に欲しいものはそれではなかったと気付けました。誰かが頑張る姿は醜いと思うとか、今のリリスはそんな事は思わないと思います。だからこそ、最後は笑えたのだと思います。

 ソヨも個人的には可哀想と思う部分もありますが、周りが見れば先に不倫したのはソヨの方です。夫の愛情が足りない部分はあったと思いますが、それも自分の思い込みです。悪いのは不倫した自分、そんな事分かっております。少なくとも、ソヨは被害者ではありません。それが透けて見えたからこそ、シロは徹底的にソヨを殴ったのだと思います。もういいよなんて、どうして罰を受ける方が言うんですかね。そこからが本当に罰だったのかも知れません。それでもそんな生と死の狭間で、ソヨは本当に欲しかったものに気付けました。ソヨは、生まれてくる子供を抱きたかったんですね。次に生まれてくるときは綺麗な体で、これがソヨの本当の願いでした。だからこそ、最後は笑えたのだと思います。

 そしてそんな3人を送り出したシロ、彼が抱えていた罪は自殺した事でした。逆に言えば、それ以外罪らしい罪は犯してませんでした。いや、違いますね。シロの罪は最愛の存在であるハカナを信じ切れなかった事でした。ハカナは限界でした。父親に売春され、身も心も汚れてしまったと感じこの世で生きる事を諦めてました。それでもシロに救われ、もしかしたらそんな生活もありかも知れないと思いました。ですけどそれもシロの母親に否定されました。そうであるのなら、もうハカナが出来るのはシロに迷惑を掛けない事でした。それでも自分はシロを愛している、それを忘れないでほしい。そんな願いと共に、自らの命を絶ったのです。シロは堪えれませんでした。正直言えば、自分も堪えれないと思います。せめて、本当に2人はお互いを想っていたんだという事を確認出来れば、それが2人の願いでした。

 審判の園でやっと全てを思い出したシロ、そして残り僅かな時間でハカナと話をする事が出来ました。2人とも自殺をしましたので、地獄に落ちる事は決まっております。そういうものです。それでも、2人はお互いが大好きで感謝していてお礼を言いたいと思っておりました。最後に「大好き、ありがとう、さようなら」と言いあえた事が、本当に奇跡だったんですね。この瞬間、やっとシロもハカナも自分の罪を許せるようになったのでしょうか。もしかしたら、もう2人は会えないのかも知れません。ですけどもう大丈夫ですね。ちゃんと、お互いの気持ちを確認出来たのですから。酷い人生、それでも自分だけは許してあげよう。そんな人生において励みになる物語でした。ありがとうございました。


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