M.M 裏のお山のお鎖さまの




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 72 〜1 2020/7/20
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<田舎の伝奇物として、非常に丁寧な雰囲気作りに驚きました。>

 この「裏のお山のお鎖さまの」は同人ゲームサークルである「さくさくぷんた」で制作されたビジュアルノベルです。さくさくぷんたさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けは、最近HPで行っている私にプレイして欲しいビジュアルノベルの公募です。新型コロナウィルスの感染防止の観点から、今後即売会で作品を入手する事が出来なくなるかも知れない事への対策で始めてました。ここで今回さくさくぷんたさんにご回答して頂きました。公式HPを見に行ったら、もう完全に私の好物である田舎の伝奇物という雰囲気でした。これは間違いなくはまるだろうと、そういう確信の元にダウンロードしておりました。登場人物も可愛い感じですし、これがどのように伝奇と結びつくのか楽しみでプレイし始めました。

 主人公である冬真と幼馴染の芳弥は大の仲良しでした。田舎の小さな集落で生まれ育ち、遊び場といったら近くにある山くらいでした。この山には、昔から一つの言い伝えがありました。それはお鎖様の言い伝えです。お鎖様は情け深い神様で、信仰する人達の事を守ってくれます。一方お鎖様は嫉妬深い神様で、仲睦まじい2人の恋人を引き離すかもしれません。そんなお鎖様は長い間信仰され、冬真のおばあちゃんもまたお鎖様信仰を受けておりました。そんなおばあちゃんから、冬真は2つの小石を受け取ります。これはお鎖様の加護が備わっており、災いから守ってくれるとの事です。ですがそんな小石の事も忘れてしまったとある日に、冬真はお鎖様が祀られている社にいる芳弥に会いに行きました。すると、その社から謎の光が発生しました。そして風が吹いたかと思ったら、その光は消えておりました。あの光はなんだのか、そんな疑問を覚える間もなく芳弥が怪我をしてしまいました。ですがその怪我がみるみるうちに回復してしまったのです。ここから、冬真と芳弥のお鎖様を巡る物語が幕を開けるのです。

 この作品は田舎を舞台とした伝奇ものです。その為背景やBGMなどで田舎らしい雰囲気を演出しております。特に背景については非常に多くの枚数が用意されており場面場面で細かく変化していきます。この枚数は凄かったです。何度もスクリプトを書き換えながら調整されたのだろうと思いました。BGMものどかな場面や緊迫した場面でガラリと変わり、それでも笛の音など田舎らしさを残しており全体の雰囲気作りに一役買っておりました。そしてこの作品はフルボイスです。メインである冬真と芳弥は勿論、要になるサブキャラクターにも声が用意されております。非常に聞き取りやすい声で、ビジュアルの可愛さと相まって愛着が一気に湧きましたね。ボイスは登場人物に愛着を湧かせるのに効果覿面だと思っております。全体として作品の雰囲気作りが丁寧に思えました。

 そして、この作品は伝奇ものとなっております。物語開始からお鎖様の存在が語られ、そしてそのお鎖様に何らかの形で関わってしまう事で2人の人生が変化していきます。お鎖様に関わってしまった事で芳弥の治癒力が向上してしまったのは間違いなさそうです。ですが、それは同時に芳弥が人間という存在から離れてしまった事も意味します。物語は、主にそんな芳弥とその芳弥を守る冬真を中心として展開していきます。プレイヤーの皆さんは、恐らくお鎖様の謎とこれから冬真と芳弥がどうなってしまうのかという2つの点について考えを巡らせながら読み進める事になると思います。この謎解きと言いますか明かされていない事実を明かしていく展開はドキドキが止まりませんね。田舎はのどかですが同時に怖さも存在します。そんな表裏一体の中で展開されるシナリオもお楽しみに下さい。

 プレイ時間は私で45分くらいでした。この作品には選択肢があり、エンディングは全部で3つに分岐します。選択肢の数はそれほど多くはありませんので迷うことなく3つのエンディングにたどり着けると思います。ただ、この作品はティラノスクリプトで制作されておりますので既読スキップが効きません。一応コンフィグでスキップの設定はあるのですが、両方試してみてやはり既読スキップは効きませんでした。まあこの辺りはティラノスクリプトなので織り込み済みですが、初見の方は注意が必要です。元々45分で終わるそこまで長くないシナリオですので、スキップせず読み進めてもあまり差は無いかも知れません。また場面展開が背景の多さで良く分かりますので、そこから未読に入ったかを見極める事も出来るかも知れません。何れにしても、田舎の雰囲気をマッタリと味わうのが良いと思います。ちょっとした時間にプレイ出来ますので、是非昼下がりの暇なお時間に読んでみて下さい。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<伝奇サイドと科学サイドの両面から迫っても、最終的に真実は分かりませんでしたね。>

 いや〜まさか最後の最後でこんな番狂わせがあるとは思いませんでした。まさか、お鎖様の出来事をここまでちゃんと科学的に調査研究しているチームがいるなんて思いもしませんでした。どのエンディングもどこか尻切れトンボのように終わってしまった感じがしましたので、それからを見てストンと腹落ちしました。まさかの展開でした。

 結局のところ、お鎖様の正体については分かりませんでした。本当に神様のような存在なのか、それとも何か科学的裏付けがある存在なのか、その答えは道半ばという形でしょうか。ですが、決して少なくない人数とお金を投じてこのお鎖様、言ってしまえば怪異-801事象について調べようというプロジェクトが動いている事が分かりました。もしかしたら、田舎のお鎖様風習をずっと守ってきた人達よりもよっぽど彼らの方がお鎖様について詳しいかもですね。少なくとも、芳弥の父親は保健所から来た柳川の言葉に耳を傾けようともしませんでした。耳を傾けないというよりも、興味が無いと言いますか何を言ってるんだという感じでした。この思考停止といいますか閉鎖されている感じもまた伝奇らしいなと思ってしまいました。このまま人が死のうが生きようが、ヒッソリとお鎖様風習は語り継がれていくんだろうなと思いました。

 ですが、実際にお鎖様の現象に遭遇してしまった冬真と芳弥はそうはいきませんでした。何故なら、自分達の身に危険が迫っているからです。実際のところ柳川は2人の事を保護しようとしていただけであり処分するつもりはありませんでした。まあ、それもあんな形で包囲されれば信じろと言うのも無理な話ですね。結果として怪異-801事象の貴重なサンプルとなった2人は重要な研究材料となり、事故記録や聴取記録として残る事になりました。私、これを読むまでお鎖様は芳弥にのみ取り憑いたと思っていました。実際は冬真に取り憑いており冬真から芳弥に影響を与えていたんですね。考えてみれば、光が発生してから冬真と芳弥はずっと傍に居ました。唯一離れたのは山に逃げた時に距離が空いた時と、都会で柳川から逃げようとして二手に分かれた時です。ここで距離が空いてしまったから、芳弥は崩れてしまいました。これがこのお鎖様風習の真実であり、揺るがない事実となりました。

 そういう意味で1つだけ疑問が残りました。芳弥が車に轢かれた段階で、もはや芳弥は死亡しており生き返る筈はありません。ではその後1ヶ月入院していて退院した芳弥は何者なのでしょうか。思うに、この芳弥こそがお鎖様そのものなのではないでしょうか。物語開始、お鎖様は嫉妬深い神様だと言っておりました。もしかしたら、幼馴染で仲の良い冬真と芳弥を引き裂きたい、そして代わりに自分がなりたいとお鎖様が願ったのかも知れませんね。きっとその答えが「ごめんね、芳弥」のセリフに込められているんだろうなと思っております。答えは分かりません。この辺りは、プレイヤーの想像力にゆだねているのかも知れませんね。

 最終的に、お鎖様については神様なのか異常現象なのかはハッキリしませんでした。両面からのアプローチはありましたが、まだまだその過程という形でした。冬真と芳弥は、そんな過程の中でお鎖様に触れてしまった存在、言い方を変えれば貴重なサンプルとなってしまいました。そう考えると、彼ら2人の物語とも捉えられますしもっと大きな枠組みでも見る事が出来ますね。エンディングを全部確認しただけだと唯の伝奇物ですが、その後それからを見て突然科学サイドがやってきて、それでも終わらない。中々見ない上手い構成だと思いました。何となく消化不良な感じも否めませんが、まあこういうものだったろうと納得する事は出来ます。基本的には満足のいく形でした。面白かったです。ありがとうございました。


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