M.M TwinEgg 〜狂気の村と二つの神〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 6 6 78 5〜6 2017/12/2
作品ページ(なし) サークルページ
フリーゲーム夢現



<群像劇の興奮と選択肢の楽しみが魅力的な、サバイバル・ホラー・ミステリーADVとなっております。>

 この「TwinEgg 〜狂気の村と二つの神〜」という作品は同人サークルである「創作同盟くりめいと」で制作されたビジュアルノベルです。創作同盟くりめいとさんの作品をプレイしたのは今作が初めてでした。切っ掛けはCOMITIA122に参加したとき、同じく参加していた同人ビジュアルノベルプレイヤーの方に勧められた事です。この方はシェア作品もフリー作品も満遍なくプレイされており、個人的に自分とも趣向が合っていると感じておりますので常々参考にさせて頂いております。そんな方が今月オススメするフリー作品という事でぜひプレイしてみたいと思い、家に帰って早速ダウンロードし始めてみました。

 この作品はサスペンス・ホラーADVとなっております。もうタイトルがそういった雰囲気を醸し出してますからね。始めはマッタリとした雰囲気で幕を開けるのですが、それが徐々に雲行きが怪しくなり、そして取り返しのつかない状況になっていきます。プレイヤーを物語の世界に引き込むのがとても上手であり、気が付けばのめり込んでおりました。そしてこの作品はホラーではありますがミステリーの要素も持ち合わせております。物語の中に隠された謎を解き明かさないと真のエンディングにはたどり着けないのです。怖い描写の中に散りばめられたヒントを是非見逃さず掴んで欲しいですね。

 最大の魅力は群像劇の特性を活かしたシナリオ構成だと思っております。この作品ですが、開始時に3人の主人公を選択する事ができます。そしてそれぞれの主人公で別々のシナリオが用意してあり、それが最終的にクロスオーバーしていきます。主人公単体でも十分に面白いのですが、それがクロスオーバーし出してから真の魅力が見えてきますね。結局のところ結末はどうなるのか、気が付けばクリックをする手が止まらなくなっていると思います。徐々に明かされそして絡み合っていくシナリオ、綿密に練られ検討された事が伝わりました。

 合わせて登場人物のキャラクターも魅力的です。絵柄は荒削りな部分がありますが、立ち絵の差分が非常に多くコロコロと変わりますので今何を考えているのかが一目でわかります。何よりも自然体な表情が好印象でした。起こるときは怒る、怖がるときは怖がる、ドン引きするときはドン引きするといった様子が自然なのです。やや現実離れしている描写もありますが、その頃にはどの登場人物も好きになっていると思います。男の子はカッコ良く、女の子は可愛く、勿論中年男性もそれ以外のキャラクターもみな魅力的でした。

 その他の特徴としましては選択肢の多さが挙げられます。この作品はミステリーの要素も持っており、ちゃんと先の事を考えて選択肢を選んでいかないと簡単にGame Overになってしまいます。ですが、それが逆に言えば文脈を読みさえすれば回避できるものであり、例え回避できなくてもその後の展開を読めば納得できるものになります。理不尽に見えて実は理不尽ではない選択肢に自分もカタルシスを覚えましたね。正直、TRUE ENDにたどり着くまで結構な時間が掛かりました。本当にTRUE ENDなんてあるのかとすら思いました。だからこそ、決定的な選択を見つけられた時は嬉しかったですね。そんな選択肢の魅力も味わう事が出来ます。

 プレイ時間は私で5時間20分程度でした。5時間20分のうち1時間30分くらいはずっと分岐を検証していた気がします。諦めようとも思いましたがそれは絶対にしたくない、ミステリーだからこそそういう気持ちになってました。結果として総当りで選択肢を選んでいけば解くことは出来るのですが、既読部分も割と少ないですので時間は結構掛かると思います。一発でTRUE ENDにたどり着ける人は殆どいないんじゃないですかね。それだけ難しかったです。何度も言いますが、一見理不尽に見えて実はそうではない選択肢ばかりでした。ちゃんと納得できるものばかりでしたので、是非皆さんも挑戦してください。そして群像劇の果てに待っている結末を見届けてください。かなりオススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<主人公たちの決心を、私たちプレイヤーが支える事で成就させる事が出来ました。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、サスペンス・ホラー・ミステリーそれぞれの要素が絶妙に絡み合い、安定した面白さでした。サイエンスだけに留まらず伝奇の要素もあり、この2つがそれぞれTwinEggの正体なのかなと思っております。

 どの主人公も人の死に関わっておりました。礼は大切な後輩である真紀が崖から落ちる切っ掛けを作ってしまいました。直接的には村人の崇拝とアイホートの洗脳とテロリストのトリガーが原因ですが、少しでも関わってしまったら罪の意識を抱えるというのが人間というものです。自分の浅はかなオカルト興味がまさか人の命に関わるなんて夢にも思わなかったのでしょうね。それでも例え悪気がなくても結果が出てしまえばそれに対して責任を取らなければいけませんね。始めは野次馬的に外野から眺めているだけの礼でしたが。真紀の敵を取ると決心した後の行動力は立派だと思いました。

 来夢も自分が切っ掛けで大切な両親を失ってしまいました。これも直接的にはブラッディアンダーグラウンド事件を起こしたテロリストが原因です。それでも両親と離ればなれになってしまったのは間違いなく来夢のワガママが理由でした。彼女はこれが切っ掛けで自分が生きているという事に罪悪感を抱えてしまいました。両親を失った悲しみを忘れようと体を鍛え勉強を頑張っても、決して忘れる事は出来ませんでした。忘れるというよりも、乗り越える事が出来なかったんですね。そうであるのなら、自分の気持ちに向き合い認める事が必要です。それが今回のバスジャックで露呈されました。何も準備していないのに土足で踏み込んできました。それでも負けなかった来夢は、やっぱり強い子なんだなと思いました。

 そして15年前のブラッディアンダーグラウンド事件に直接関わり、鬼龍義隆を逮捕した八代はより死が身近でした。警察内での昇進ではなく現場第一線で人々を守りたい、これはきっと15年前の事件の経験も生きているのだと思います。そして自分が少しでも関わった事件に関係しているのなら自分の手でケジメをつけたいと思ったのだと思います。今回の独断行動は普通であれば許されないことです。それでも突っ走ったのは、ひとえに八代の警察魂の賜物でした。普通であれば信頼できない一般人からのタレコミを信じたのも、怪我を負いながら事件の中枢に単独で潜入したのも、結果として事件の解決に繋がりました。

 ではここからはシナリオの肝であるサイエンスと伝奇の部分について話したいと思います。正直言いまして、全部プレイし終わって振り返れば「かなり強引だったな」と思っております。これだけ大きな事件を起こして全員が助かる方法、それはイグの力とアイホートの力を相殺させる事でした。途中まで割と理論的に設定を積んできただけに、そういう結末なのかと少し拍子抜けでした。でもまあ、結末に関してはそれしか有り得ないとも思えましたね。それよりも、結末に至るまでに展開された設定と伏線がしっかりと活きた選択肢が素晴らしいと思いました。「アイホートは火と日光に弱い」「ニグラスは揮発性が高く少しの刺激で爆発する」この時点で少なくともアイホートに銃を撃つ事は間違いだと気づいていました。ですが単純に銃を打たないだけではGame Overになってしまいます。そこでまさかあの「東の窓際へ移動」が関係してくるとは思いませんでした。注がれる朝日、この瞬間思わずガッツポーズしてましたからね。この作品はサイエンスと伝奇の整合性を取るのではなく、与えられた情報を元に現場を作っていく事が醍醐味でした。

 この作品は人の死というものとそれにどのように向き合うかを決める事の大切さを描いておりました。そしてその事を達成させるためには、一人一人の新年の高さとそれを支えるプレイヤーの存在が不可欠でした。本人にはどうしようもできない未来の出来事を予測し対策を打てるのはプレイヤーだけです。主人公たちが与えてくれた情報を元に、二人三脚でエンディングに向かう事が出来ました。またいつもの日常に戻った3人、それでも今回の事件を切っ掛けにひとつ吹っ切れた姿が印象的でした。楽しかったです。ありがとうございました。


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