M.M 黄昏コントラスト


<短いながらも主人公の真っ直ぐな想いを描いた伝奇物>

 この「黄昏コントラスト」という作品は同人サークル「ぱとろーね」で制作されたサウンドノベルです。C83で同人ゲームの島サークルを回っているときに偶然見つけたことが切っ掛けでして、ジャケットいっぱいに描かれたヒロインの姿が非常に印象的でかつ夏の田舎という事で私の好きなジャンルであった事で興味を持ちました。信念をもつ主人公が1人の幽霊と出会うところから物語は進んでいきます。ありがちなプロローグではありますがありがちという事は王道でもあるという事ですので、純粋にその後の展開を楽しみに進める事が出来ます。

 OHPを見ると分かりますが、この作品は伝奇物です。メインヒロインが幽霊である事や夏の田舎である事からも、どこか非日常な世界へ足を進めていくシナリオが待っている事は容易に想像できるかと思います。これからプレイされる方には是非そんな非日常世界へのターニングポイントを探しながら物語を読み進めればと思います。そして伝奇物という事ですのでこのゲームがどのような世界設定なのかを早めに認知する必要があると思いますが、穏やかな夏の田舎の雰囲気を感じながらまるで呼吸をするように世界設定が頭の中に入ってきますので、所々に散りばめられた伏線についてはそれ程考え込まずにまず雰囲気を楽しみながら読み進める事が一番なのかなと思いました。

 そしてこの作品の登場人物は皆素直なキャラクターばかりですね。ヒロイン勢も性格はそれぞれ持ってますが基本的に歪んだキャラクターはだれ一人おらず、夏の田舎の雰囲気をそのまま投影したようなキャラクターばかりです。ですが会話の所々にどこか煮え切らない部分を感じるかと思います。素直な故に隠しきれない各ヒロインが持つ裏側の部分、その部分が表面化した時、本当の意味で物語が進んでいきます。

 そしてそんな素直なキャラクターばかりのこの作品で一番素直なキャラクターは主人公です。主人公には「愛しいお姫様を守る」という昔からの信念がありまして、物語全体を通してこの主人公の言葉がシナリオ展開の鍵となっております。この作品の主人公は本当に真っ直ぐですね。真っ直ぐでありぶれる事がありませんので物語の進行がとてもスムーズでプレイヤーの先が気になる欲求に上手く応えてくれます。果たしてお姫様とは誰か、主人公はそのお姫様を守れるのか、主人公のその思いが成就されるのかをプレイヤーには見届けて欲しいです。

 後特筆するべきポイントとしましてはプレイ時間ですかね。私で2時間ちょっとで終わりました。思ったよりも短かったのですがそれは恐らくシナリオ展開が速かった為であり、物語の深みとしては結構重いものはあります。テンポよくシナリオが展開していった為に時間を忘れてどんどん進められたこともプレイ時間の短さにつながったのかも知れません。そしてこの作品は実は選択肢がありません。その為プレイヤーはフラグ管理など余計な要素を考えないで純粋に物語を楽しむ事が出来ます。後は私のPCがそうだったのですがBGMを再生するときに気持ち長めにゲームがストップしました。まあ私のPCはかなり古いもの(2007年夏購入)ですのできっと私固有の症状だとは思うのですが一応記録しておきます。とりあえず基本的に良作であり面白味のある作品でした。ジャケットいっぱいに描かれたヒロインの笑顔が曇らない様見届けて頂ければと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<全ては主人公の真っ直ぐな想いがヒロイン達の心を動かしたんですね>

 結構衝撃的な展開もありましたが、とりあえずはハッピーエンドなのかなと思いました。夕と愛姫は元々死んでいた存在でしたが主人公の想いで成就する事が出来ました。美紅と花凛も家や自分自身の生い立ちに縛られていましたが、これもやはり主人公の想いで解き放つ事が出来ました。全ては主人公の真っ直ぐな想いが成せたエンディングだと思いました。

 この作品は伏線の張り方が上手いと思いました。シナリオ全体の長さが短いので壮大な伏線は張れませんでしたが、所々にしこりを残すように伏線が張られてそれがそれ程時間を置かずに解決されます。ですが1つの伏線が解決されるとまた1つの伏線が表れて、プレイヤーはそれを追うようにプレイする事が出来たのではないかと思います。まあ全てのヒロインに秘密があり最終的にあのようなバトル展開になる事は予想できませんでしたけどね。

 そして壮大な伏線は張れなかったと書きましたがその中でもやはり愛姫の正体については驚かされましたね。確かに物語全体を通してどこか傍観者的な存在であり何か持っているだろうとは思っていたのですが、結局何も目立つ部分が無いまま夕は成就してしまいました。「あれ?これで終わり?」と思ったのですがまあ上手く物語が締まったので良いのかなと思ったところで、誰も愛姫を覚えていないという超展開になった訳です。ちょっと鳥肌が立ちましたね。ここで来るか〜と正直思いました。まあエンディングまでの持って行き方はやや強引だとは思いましたが、とりあえず愛姫の正体についてもスッキリ解決しましたので良かったです。

 そして何れも主人公の真っ直ぐな想いでシナリオが展開していきました。主人公が持っている「愛しいお姫様を守る」という信念、結局のところお姫様は誰なのかという事についてについてあえて1人を上げるとすれば私的には妹である愛姫なのですが、物語全体を見返せばそれは主人公が守りたいと思ったヒロイン全員だったのかなと思います。主人公が偽りなく真っ直ぐに言葉を発するからどのヒロインも諦めていたものを再び取り戻し、自分自身の思いに問いかけました。夕が成仏できたのは主人公が本当の気持ちを話して欲しいと訴えたからですし、美紅と花凛が血や家の縛りを解き放てたのは主人公が大切な友達を失いたくないと訴えたからですからね。妹である愛姫が成就できたのも主人公が忘れない様身を傷つけて考え抜いた結果ですからね。主人公が真っ直ぐであるからこそ物語が進行し、全員が報われるエンディングに繋がったのだと思います。

 という訳で久しぶりにわだかまりが残らないシナリオでした。まあ一番最後に次回作への布石が投げられていましたがそれは次回作を購入すればいいだけの事ですからね。夏の田舎のちょっと寂しい雰囲気をそのまま投影したかのようなシナリオ、そんな寂しい雰囲気の中で葛藤し行動した主人公の想いが良く描かれたシナリオだと思いました。


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