M.M 月陽炎




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 10 10 85 25〜30 2006/5/17
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<音を最も上手く雰囲気作りに取り込んだ作品>

 この「月陽炎」というゲーム、自分の中で何か引っかかる物があり、友達もやたら良いゲームだという話をしていたのて、プレイしてみました。世間での注目度はそれ程でもないですが、私の中では忘れられない作品となりました。

 まず評価出来る点としては、シナリオを見せる演出の素晴らしさです。この「月陽炎」というゲーム、始めから全員のグッドエンディングを見れる訳ではありません。ある特定のエンディングを見る事によって、ゲーム中に新しい選択肢が登場し、グッドエンディングまでのシナリオを進めていく感じです。この演出がかなり絶妙で、プレイヤーをどんどんゲームの世界の中に引き込んでくれます。そして新しい分岐が出たという事が、タイトル画面の音楽や背景、そしてこのゲームの特徴であるアイテムシステムなどによってそれなりに分かるようになっています。ゲームの進行度も分かり、なかなか面白い演出だと思います。

 次に評価出来る点として、やはりシナリオの作りこみです。シナリオそのものも勿論面白く、なかなか感動できるものなのですが、さっきも言いましたとおり、この「月陽炎」のシナリオは単純な一本道ではありません。幾つかのエンディングを経て初めてシナリオの全貌が分かります。それと同時に、このゲームはなんとシナリオの進行度によってプロローグまでもが合わせて変化していきます。このプロローグも勿論シナリオの流れの中での演出ですので、シナリオの理解という意味での役割は十分なものとなっています。ただし、特に後半ですが、選択肢がなかなか難しいなものがありますので、所々セーブしながらシナリオを進めて行ったら良いのではないかと思います。

 そして最も評価出来る点としては、やはり「音」を徹底的に利用した雰囲気作りだと思います。まずBGMですが、雰囲気に合っているのはもちろんなのですが、そういう物を通り越して素晴らしく良い曲です。ちなみに、プログラムファイルでBGMはWAVE形式で収録されてますので、そのままでも聞く事が出来ますが、サウンドトラックにはアレンジされたものも収録してありますので、是非購入をオススメします。そして、前にも言いましたが、タイトル画面での音楽の変化が本当に絶妙です。これだけで雰囲気十分といった感じです。次に効果音ですが、道を歩く音からドアを開ける音、そして小便の音まで徹底的に作りこんでいます。効果音という点に関して言えばこれほど拘っているゲームはそうありません(一応、これも全てWAVE形式で収録されています)。そしてボーカルですが、OPの「月陽炎」という曲ですか、何度聞いても空きませんね。ゲームをプロローグを始めると必ずOPを見る事になりますが、私は一度も飛ばさずに見てしまいました。それだけ良い曲ですし、何より歌詞に込められた意味が非常に深いです。是非サウンドトラックを聞いて歌詞の確認をしましょう。

 とにかくありとあらゆる点で高レベルに仕上がっています。これだけの出来ならもっと注目されても良いとは思います。まさに「隠れた名作」であると思いますので、手に入れることが出来たら是非プレイしてみてください。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<悲しき運命の中にも幸せを>

 この「月陽炎」というゲームにおいて自分が一番好きな事は、やはりヒロインたちの生き方にあります。このゲームのシナリオにおいて、基本的にどのエンディングに行っても誰かが犠牲になります。これは、柚鈴が神威の末裔であり、美月が堕ち神の末裔である以上避けることは出来ません。そんな中でも、彼女らは自分の運命を受け入れて自分なりの幸せを見つけようとします。その健気な描写は思いっきり私の心に響きました。正直どのエンディングでも心打たれるものがありました。

 そんな中でもやはりシナリオの核になるのは柚鈴と美月の二人が関係したエンディングの物だと思います。一つは「ずっと、いっしょ」です。これは、自分が堕ち神の末裔である事を認識した美月が覚悟を決めて、柚鈴の為に自らの封印を願うエンディングです。もう一つは「手紙」です。これは、自分が神威の末裔である事を認識した柚鈴が覚悟を決めて、美月の為に自らの消滅を願うエンディングです。この両エンディングに共通しているのは、自分の立場や運命という事以前に、相手の為に自分を捨てる覚悟を決めるという事です。もしかしたら、二人のうちどちらかがいなくならなくてもそれなりの幸せが待っていたかもしてません。それでも二人は、自分の愛する人達の「永遠の幸せ」の為に、自らを犠牲にする道を選びました。残された人達は正直本当の意味で幸せになれたのかは分かりませんしやりきれなく悲しいシナリオですが、辛い決断を下したという覚悟にはやはり心を打つ物がありました。

 彼女たちには真に求める幸せはやって来ない運命だったのかもしれません。それでも、そんな運命の中に彼女達なりの幸せがあらん事を祈るばかりです。運命は簡単な物ではないという事を、教えられた気がしました。


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