M.M 露草ユーフォリア




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 6 - 88 20〜23 2015/5/31
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<登場人物たちの真剣さを真摯に受け止め、それにしっかりと答える気概が必要だと思います。>

 この「露草ユーフォリア」という作品は、同人ゲームサークルである「7-FIELD」で制作されたビジュアルノベルです。「7-FIELD」さんの作品では過去に「薄鈍アドベント」をプレイした事があり、独特の近未来感と考えさせる選択肢、そして群像劇の面白さを十二分に味わうことが出来た作品という事で大変印象に残っておりました。一般的な同人ビジュアルノベルと比較してもプレイ時間が長めでしたが、そんなプレイ時間の長さを感じさせない雰囲気と演出は見事であり、新作が出るのであれば是非プレイしたいと思っておりました。今回プレイした「露草ユーフォリア」も同様の魅力に溢れており、実際にプレイして期待以上の内容に深く唸ってしまいました。

 この作品の魅力はなんと言っても群像劇です。同じ時間を複数の視点で共有することで全く違う世界を見ることが出来る、そしてその世界を重ね合わせることで真実へと近づくことが出来る、そんなビジュアルノベルの醍醐味が純粋に詰まった内容です。群像劇の醍醐味って、同じ状況に遭遇しても内側で何を思っているかが個人個人でバラバラである事だと思っております。とある事件があったとして、それに対して怯える人もいれば怒りを覚える人、そして楽しみを覚える人など様々な人物が現れる事は想像に容易いです。そんな多くの思惑が次の一手を作り出しており、そこからまた新しい展開が生まれてきます。プレイヤーはそれを神の立場で俯瞰する事ができ、この作品の行く末を想像する事が出来ます。あの人はどう動くのだろう、この時この人はどう思っているのだろう、ああそんな風に感じてたんだ、あ〜これはまずい展開だな、といった感じですね。是非プレイヤーの皆さんにはその時の状況とその先の未来を見据えてテキストを読み進めていって欲しいですね。

 でもまあ、そんな事を意識しなくてもプレイヤーの皆さんは否応なく俯瞰して感じたことを表に出さなければいけません。具体的に言えば、プレイヤーが観測者として登場人物たちに情報を与える事で導いていくのです。この作品のメインの登場人物は全部で6人です。そしてその6人はイミテーションゲームという選定試験に巻き込まれ、10日間の騙し合いをしなければいけなくなります。イミテーションゲームの結果によって彼ら6人の運命は大きく変化してしまいますので、勿論本気で挑んできます。だからこそプレイヤーの皆さんもそれに本気で答えなければならないのです。プレイヤーは観測者です。観測者として同じ時間の彼らの行動や心理を俯瞰する代わりに彼らを導く義務があります。是非情報選択の場面では熟考していただき、後悔のない選択をして欲しいですね。

 と言うよりもこの作品、選択肢が非常に難しいです。この傾向は前作である「薄鈍アドベント」でも共通でした。実際にご覧になれば分かりますが、どの選択肢も最もらしい事を言っており明確にこれは変だろうという物がないのです。それでも観測者としての情報提供はイミテーションゲーム参加者にとって大きな意味を持っており、彼らの今後の行動の判断材料になります。まあ、彼らも人間ですので観測者の情報提供をそのまま鵜呑みにするわけではなくあくまで参考にして自分の行動は自分で決めます。全て選択肢のままに彼らを操れるわけではなく割と登場人物が自分で勝手に動く場面もありますので、胃が痛くなるほど慎重になることもないかも知れません。それでも登場人物たちの真剣さを真摯に受け止め、それにしっかりと答える気概は必要だと思いますね。

 プレイ時間ですが私で21時間程度掛かりました。イミテーションゲームは10日間の期間で行われ、その間にプレイヤーは全部で20回情報提供の機会がります。これは毎日10:00と22:00の二回でして、情報を与えられる人物は6人中ランダムで選ばれた3人です。流れとしてはランダムで選ばれた3人の行動を確認する→その3人と観測者を交えたチャット形式のミーティング(テキストミーティング)を行う→観測者が情報提供を行うという流れです。これら一連の流れで大よそ40分〜1時間でしょうか。私で21時間という事で非常に長いプレイ時間ですが、テキストミーティングの場面で明確に状況が区切られますので計画的に進める事が出来ます。今日は休みだから3回分進めよう、今日は仕事だったから1回分にしよう、といった感じで自分のテンポで進めて頂けれ良いと思います。それでも後半になっていくについて状況は複雑化しイミテーションゲーム参加者同士の絡みも多くなりますので、その魅力に取りつかれ最後まで突っ走ってしまう事と思います。是非プレイヤーの皆さんも一緒にイミテーションゲームに参加し、彼らの行く末を見届けて欲しいですね。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<私は、人間の感性・悟性・理性に真っ向から挑むAREA社を全面的に支持します!>

 唯々圧倒されました。複雑化する状況の中で丁寧に描かれるイミテーションゲーム参加者の行動と心理描写、そしてそれらがランダムで観測者に伝わるという設定。私、この作品のキモは決してリアルタイムに6人の状況が確認出来る訳ではなく、多少の時間差を持ってランダムに3人選ばれて状況が確認出来る事だと思うのです。例えばレジャランで偶然[黄]、[青]、[紫]、[橙]が遭遇したとき、状況だけは誰の視点でも共通ですが思惑はそれぞれの視点でなければ分かりません。そして観測者は先に判断記録を見た参加者の心の内を知っています。そんな観測者の偏った認識で改めて同じ状況を違う視点で見るのです。これが大変面白かったですし、我々プレイヤーの情報提供にも影響を与えたのではないかと思います。そんなプレイヤーを唯の神の視点に仕立てあげない絶妙な情報開示、感服しました。

 この作品のテーマは物語最後の観測者の口からも語られておりましたが、やはり自分自身を見つめ直すこと、そして自分が属している集団と正面から向き合うことなのかなと思いました。どの参加者も心の内に問題を抱えておりました。それは家族の問題や職場の問題、自分の心のあり方や大切なものなど決していつまでも目を背け続ける事は出来ないものでした。もしかしたらイミテーションゲームに参加していなければずっとそれらの問題に気づかず、もしくは気づかないふりをしたままとりあえず生き続けることは出来たかも知れません。それもまた1つの生き方なのだと思います。ですがそれを許さない存在がいました。それが観測者です。

 観測者の目的はイミテーションゲーム参加者全員の心理的欲求を満たす事でした。そして心理的欲求の課題にぶつかりそれを克服した時の状況を観察することで、A.Iを見分けることが出来ると考えました。その為始めは観測者も判断記録の状況だけを確認して表に現れている課題を解決するよう情報選択していきました。ですがそれは本質ではありませんでした。自分自身が抱えている本当の課題、そんなものは当の本人ですら認識できていないなんてよくある事ですね。URはもしかしたらそうしたそうした自分自身の弱い部分を隠し強い部分を表に出すにうってつけの権限だったのかも知れません。大切なのは自分自身を自覚すること、そして他者との距離感を正確に推し量ること、別にURをガンガン使っても良いと思います。それが自分にとって掛け替えのないものになっているのならば。それでもただURを使っているだけでは決して本当の課題は解決出来なかったでしょうね。

 始めは唯の騙し合いの場であったイミテーションゲーム、ですがそれは後に形を変えて最終的には浦門日向のUR記憶を保持したまま都市設計社から脱出する、礼堂梔子香をTRI-Towerから見つけ出し救出するという事に集約されました。そしてこの2つの課題達成の裏で、6人が6人それぞれ想いを持っておりました。直接的にこの2つの目的達成が彼ら6人の想いの達成という事ではありません。ですが6人はそれぞれ同じイミテーションゲーム参加者と手を組み、目的を共有し少し見方を変えたことで自分自身の課題を明らかにしました。礼堂は姉を助けることで2人で幸せになる。名倉はC.I-システムを掌握することでミユの成就を達成する。金瀬はURによる被害者を助けることで規制局に対する自分の立場を見極める。鳥足は浦門を助けることでURと父親に対する見方を改める。四斗矢は自分を守っていたURを他人の為に使うことで再び家族と向き合える為の勇気を持つ。六角は礼堂梔子香を助けることで自身の先入観の殻を破る。6人全員が自分自身の本当の課題を解決するために協力し、URに対抗して目的を達成していきました。最後に少し一歩前に進む事が出来た6人と再開できて嬉しかったです。もう彼らはイミテーションゲームに参加することはありませんねきっと。

 C.I-システムは人間の悟性に直接働きかけるシステムです。それは一人一人の物の見方に直接アクセスする事、本当に画期的であり同時に怖いシステムだと思いました。そしてURはそんな悟性に影響を与える権限を持っているという事。日常的にこんな物に触れている人達ですので、エリアシティの外の人以上に人の行動や考え方に対して敏感になるんだろうなと思います。だからこそ、認識とはなんだろうという哲学的な問題に頭を悩ませてしまうんでしょうね。リンゴは赤い、では赤とはなんなのか、りんごの赤と夕日の赤は何が違うのか、赤と赤ではない境界はどこか、何故皆が皆りんごは赤いと思うのか、りんごを赤いと思わない人は悪いのか悪くないのか、悪いのならば何故悪いのか、周りと認識がズレるのは悪いことなのか、そうした雲をつかむような研究を企業全体で行っているのがエリアシティです。そして周りの認識を揃える理性を備え導く存在であるA.Iを作るのがこのイミテーションゲームの真の目的。果たして今回のA.Iである観測者はそのテストに満足したのでしょうか。果たして今後C.I-システムはどのように発展していくのでしょうか。今後のエリアシティとAREA社の発展を願うばかりです。

 最後にその他気になった点について書こうと思います。近未来的な雰囲気でありながら登場人物の行動そのものはとても人間味溢れ、会話を読んでいるだけで楽しませて頂きました。また上でも書きましたが、判断記録の確認がランダムであったために生じる微妙にタイムラグがプレイヤーを悩ませ、それが同時に自分自身もこのイミテーションゲームに参加しているんだなという実感を得る事に繋がりました。後はもうエリアシティの設定の細かさに脱帽ですね。プレイ開始2時間はもうテキストにメモっている時間の方が長かったのではないかと思うほどでした。最終的に露草ユーフォリアの為にメモったテキストのサイズ容量は11,985Bにもなりました。それだけ状況に置いていかれないようにしなければと思わせるだけの魅力があったということなんだろうなと思います。全てを理解したわけでもありませんしこの作品で作者が言いたい事を捉えられた自信もありませんが、また一つ私に強烈な印象を残してくれる作品に出会えたことに感謝しております。ありがとうございました。


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