M.M ツチノコ探検隊〜みゅうがいた夏〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 83 3〜4 2017/1/8
作品ページ サークルページ



<ときてっとさんお得意の美しい人物描写とヌルヌル動くCGで描かれる、ひと夏の非日常な物語です。>

 この「ツチノコ探検隊〜みゅうがいた夏〜(以下ツチノコ)」という作品は同人サークルである「ときてっと」で制作されたビジュアルノベルです。ときてっとさんの作品では過去に「リズベルルの魔」「黄昏の君 ヴォルフィーネ〜真昼の国と月の国〜」をプレイさせて頂き、これで3作品目(厳密には4作品目)となっております。ときてっとさんの作品は全て非常に美しく繊細なグラフィックと多彩なキャラクター描写、そしてヌルヌル動くCGで描かれるロボットなどの演出が特徴です。そしてリズベルルの魔を始めこれらの作品は全てときてっとさんが展開している「ほんとうの物語」シリーズのタイトルでして、”ここ”ではない”どこか”、”いま”ではない”いつか”の世界を見せてくれます。剣と魔法、そして伝説や伝承などのファンタジーの魅力に溢れ、そして登場人物たちのまっすぐな感情を表現したテキストが心揺さぶってくれます。

 主人公である清海晴(セヨミセイ)はどこにでもいる普通の小学六年生です。小学生最後の夏休みを迎えるセイにとって、今年の夏はなにか特別な出来事が待っている予感がありました。夏休みに入る前に見た「ツチノコ」の様な生き物、それを探すのが彼らの自由研究です。幼馴染である津雪紡姫(ツユキツムギ)や親友である山岡快地(ヤマオカカイチ)と共に秘密基地で作戦を練る3人。そんな3人の前についに本物の不思議が舞い降りました。謎の少女であるみゅうや秘密結社の構成員であるシズマとそのパートナーであるダンテス、そんな個性豊かな登場人物に囲まれて、セイ達はツチノコの正体を探す冒険に旅立つのです。

 これまでプレイしてきたときてっとさんの作品の共通点として、ファンタジーである事とロボットが登場する事がありました。徹底的に拘って作られた設定とその中で活き活きと生きるキャラクターや重々しく登場するロボットの姿が印象的で、プレイヤーを作品の世界へと誘ってくれました。ですが今回プレイしたツチノコは小学生が夏休みに遭遇する不思議な出来事であり、日常の中に登場する非日常という事で完全なファンタジーではありません。そしてパッケージに描かれているのは美しい登場人物でも勇壮なロボットでもなく、何とも可愛らしい猫型のキャラクターです。剣と魔法が登場するファンタジーというよりはほのぼのとした雰囲気の世界が待っているのかなと連想させました。

 最大の特徴はときてっとさんらしいヌルヌル動くCGにあると思っております。過去作の様にバリバリとロボットが登場する訳ではありませんが、代わりにみゅうやダンテスが初登場する場面は全てCGが採用されており、キャラクターの印象を植え付けてくれます。特にダンテスの可愛さは特別ですね。10cmもあろうかという身長でぴょこぴょこ動く姿はとても愛らしく、ときてっとさんの技術を用いるとカッコ良いものは更にカッコ良く、可愛いものは更に可愛く作ることが出来るんだなと感心しました。そして一枚絵の登場人物達も塗が濃く、女の子キャラは皆美人で男の子キャラは皆美形です。舞台は現代の日本ですがこの当たりの絵柄は過去作を踏襲しておりときてっとさんらしさを感じました。BGMもまた全て管弦楽を中心とした楽器を活用しているものばかりで、場面場面の雰囲気を盛り立ててくれます。今作はバトルというよりはほのぼのとした雰囲気ですので、特にマッタリとした曲やおちゃらけた曲が目立ちましたね。新しいときてっとさんの表情が垣間見れた気がします。

 プレイ時間は私で3時間10分程度掛かりました。始めは非日常要素のない普通の小学生らしい夏休みを迎えていたのに、いつの間にか非日常要素が入り込み中心に居座っている感覚は時間の流れを忘れさせます。また時より挿入されるCGが場面転換を教えてくれ、クリックする手を早めました。選択肢もありませんので自分の感覚で一気にプレイするのが良いのかなと思います。是非皆さんも彼らと一緒に「ツチノコ」の正体を探してみて下さい。そして「ツチノコ」の正体を探した先に待っている物を想像してみて下さい。現実にはありえない最高の夏休みが、貴方を待っております。オススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<変わらないものなどない。それでも友情は永遠であり、信じる事で前に進む事が大切。>

 とても気持ちの良い終わり方でした。ここまで爽やかな締めくくりな作品もそうないんじゃないかと思いました。少年少女が体験した不思議な夏休み。それは確かに現実にあった出来事であり、そして夏休みの終わりと共に未来へと続く一歩となる物語でした。

 振り返れば本当に等身大の少年少女でした。始めは随分と大人っぽい小学生だな〜って思ってましたけど、ツチノコを探したいから始まり、シズマが食べ物を持ってきたりゲームを持ってきたりした時にそれに夢中になって気が付けば夕方になっていたり、バーベキューでテンション上がったりプールでキャッキャしたり、宿題に勤しんだり未知との遭遇で狼狽えたりと動作の一つ一つは小学生そのものでした。そんな小学生である彼らもいずれ大人になります。その時にこのワクワクした夏休みの経験は郷愁として昇華され、懐かしい思い出として蘇るのだと思います。この作品のテーマは「変わらないものなどない。それでも友情は永遠であり、信じる事で前に進む事が大切」という事だと思っております。

 作中でよく出た言葉に「友達」がありました。友達とはどういった存在なのでしょうか?クラスメイトは友達でしょうか?一緒に遊べば友達でしょうか?そもそも友達とは宣言して初めて成立する存在でしょうか?恐らくはそのどれでもあり明確な答えはないのだと思います。セイ、ツムギ、カイチの3人は友達です。それではみゅうという平行世界の存在は友達にはなれないのでしょうか?ましてやシズマの様な大人やダンテスの様な情報生命体も友達にはなれないのでしょうか?そんな事はありませんでした。同じ夏休みという時間を共有し、同じ目的に向かって共にした人は皆友達です。「機械でも、友達なんだよ!」と叫んだセリフがその象徴ですね。別に量子力学が分からなくても多世界解釈が分からなくても良いのです。ただ、同じ時間を共有すればそれだけで友達なんです。そして一緒に過ごした人の事は決して忘れる事はありません。

 最後、肥大化したピコによって情報の重力崩壊を起こした状況で一世一代の賭けに出ました。ですがこの賭けには関わった人全員の信頼が積み重なってました。ダンテスはセイを一時的にバディと認め、ヴィルフォーナの操縦権限を渡しました。またシズマもキャットの意思に背いて一時的にバディの権限を渡しました。セイはギガンティックハーツの腕を信じ、カイチはみゅうが必ず皆を取り戻すことが出来ると信じで抱えました。そしてヴィルフォーナと無数のエデと協力して、最終的にピコの次元震を中和する事が出来ました。ツムギもちゃんと彼らが迎えに来てくれる事を信じてましたね。終わりよければ全て良し。一人の犠牲者も損害も出す事なく元の世界に戻す事が出来ました。これが彼らの友情の力。同じ時間を共有した信頼の証だったのです。

 元々みゅうとは別れなければいけない運命でした。それは夏休み限定の出会い。限られた時間の体験だったのです。ですけどみゅうは死んだ訳ではありません。平行世界で同じ時を生きております。何よりも彼らには友情がありますからね。あの一夏の経験を共有したのです。死ぬまで忘れる事はありませんね。夏休みは終わりました。もう二度とみゅうと会えないかも知れません。少し寂しいですけど、忘れない限りまた会えるかも知れません。今彼らがやるべき事は、この夏休みの経験にしがみついて懐かしむことではなく、この時の経験を忘れないで次の一歩へと足を進める事です。

 セイとカイチはお互いの恋心を確認しました。そして男の子らしく決着をつけました。これもこの夏休みで変わった事の一つです。きっとこの後セイはツムギに告白をするのだと思います。そうやって少しずつ人間関係も変わっていくのだと思います。少し寂しいですね。でも大丈夫です。変わらないものは無くでも、永遠に続く物があるという事を彼らはちゃんと知っているのですから。将来的にキャットはみゅうが残した情報を元に新たな段階へと進むのでしょう。ですがそんな壮大な事は偉い人に任せて、彼らとそして私達とそれぞれの新たな段階へ進まなければいけませんね。そんな事を教えて貰いました。楽しかったです。ありがとうございました。


→Game Review
→Main