M.M ツギハギ城の絲の庭




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 80 5〜6 2020/7/12
作品ページ
(R-18注意)
サークルページ



<丁寧に作られた世界観の中で、主人公結の成長と登場人物達のキャラクターを楽しんでみて下さい。>

 この「ツギハギ城の絲の庭」という作品は、同人サークルである「あんでぱんだ」で制作されたビジュアルノベルです。あんでぱんださんの作品をプレイするのは本作が初めてです。切っ掛けは主に2つありました。1つ目は、C98が新型コロナウィルスによる感染防止の為中止になった時に行ったアンケートです。C98で頒布される作品が手に取る事が出来ない事を危惧して、TwitterでC98に向けて新作をリリースするサークルさんをお尋ねしてみました。この時にあんでぱんださんの作品を認知しました。2つ目は、最近HPで行っているプレイして欲しいビジュアルノベルの公募です。これも即売会で作品を入手する事が出来なくなる事への対策でした。ここでもあんでぱんださんにご回答して頂きました。元々Twitterでも緩い付き合いをしておりましたので、いい加減プレイしないとと思い今回レビューに至っております。とにかくキービジュアルに力があり、主人公の境遇や生き方がどのようなものか興味を持ちました。結果として、私の心にジンワリと残る作品となりました。

 主人公である結(ゆい)は、とある城の中で目を覚ましました。その城はツギハギ城と呼ばれており、現世とは違う次元に存在しております。ツギハギ城を作ったのは絲(いと)と呼ばれているお姫様でした。絲に導かれて目を覚ました結は、このツギハギ城の中で御子としての人生をスタートさせます。ツギハギ城には4人の神官がおりました。それぞれ春告・白鷹・緋月・玄鹿と呼ばれており、それぞれが東西南北の宮殿を担っております。将来的に結はこの4人の神官のうち誰か一人の補佐役として仕事をする事になっております。ですがそれはまだまだ先の話、暫くは御子として兄貴分であり御子守である絖と一緒に白の中で生活する事になります。内気な性格であまり他人に興味が無く、その為どうしても御子同士で馴染む事が出来ません。それでもそんな自分を変えたいと思い日々自分なりに一生懸命仕事をしております。結は皆と馴染む事が出来るのでしょうか、そして誰の補佐役になるのでしょうか、そんな伝奇的な物語が幕を開けます。

 この作品は和風異世界BLノベルとなっております。主人公の結は女性的な外見をしておりますが、歴とした男性でありそれもまた1つのコンプレックスとなっている様です。その為結は兄貴分である絖に憧れを抱いており、絖とずっと一緒に居たいと思っております。ですが、そんなコンプレックスを抱えた結の内心とは裏腹に、思ったよりも結は他の男性陣に人気の様です。なんだかんだで4人の神官たちと関わる機会があり、時に褒められ時に揶揄われながら関係を作っていきます。4人の神官はそれぞれ性格も外見も全然違い個性的ですので、是非初回プレイはあなたがお気に入りと思った神官よりの選択肢を選んでいけばいいと思います。プレイしていく中で、少しずつ主人公結の境遇やこのツギハギ城の真実が見え隠れしていくと思います。最終的に4人の神官全てのルートを読む事で全ての真実が分かる仕組みとなっております。そんな伝奇的な要素も含め、そして個性あふれる登場人物のキャラクターも含め、完成された世界観を楽しんでみて下さい。

 その他の要素として、スチルに魅力があると思いました。この作品は立ち絵はあるのですが種類は1つで変化する事はありません。代わりにテキストウィンドウの左に登場人物の表情が表示され、喜怒哀楽で変化する仕様となっております。そういう意味で、表情以外の姿は立ち絵では殆ど把握することは出来ません。その代わりなのかも知れませんが、スチルの数は比較的多く要所の場面では必ず表示されます。このスチルがとても印象的で、グッとプレイヤーの気持ちを掴んでくれる事と思います。スチル鑑賞モードが無かった事をこれ程悔やんだ事も無かったかも知れません。可能であれば是非実装して頂きたいと思いました。またBGMは和風という事で和楽器を使用した物が多く、落ち着いた楽曲が多かったです。それでも日常パートや緊迫するパートなどメリハリが効いておりました。こちらも是非BGM鑑賞モードを実装して頂きたいと願っております。

 プレイ時間は私で5時間45分でした。選択肢は数多くあり、それに合わせてエンディングも幾つか用意されております。一般的な同人ビジュアルノベルと比較してその数は多く、やりがいを感じました。セーブスロットはそれなりに用意されておりますので、是非選択肢時はセーブして検証頂ければと願います。そして、いわゆるトゥルーエンドと呼ばれているエンディングは2つあります。その他のエンディングとの比較はスタッフロールの有無で分かりますので判断の参考にして下さい。この作品はプレイ開始からエンディングまで結構な年数が流れます。それに伴い結も成長していきますので、その成長の過程を追っていくといつの間にか時間が経っている感覚になると思います。そして途中で章を分けておりますので、そのタイミングで休憩を取るのも良いかも知れません。和風伝奇物としてもBL物としてもとても丁寧に作っておりますので、是非その完成された世界観を楽しんでみて下さい。オススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分の幸せは自分で掴む、その実現の為に自己と向き合った結の姿に誰もが絆されました。>

 今まで様々なビジュアルノベルをプレイしてきましたが、自分は割と登場人物達が成長し変化していく描写に弱いみたいです。弱いというのは、感情を揺さぶられるという事であり決して好物であるという意味ではありません。今回結は幼少期から青年期へと華麗に変化を遂げていきますが、その内面はほとんど変化していきませんでした。いつまでも無垢のまま、もしかしたらそんな儚さと言いますか孤高さに4人の神官は希望を見出したのかなと思いました。

 この作品の登場人物達は、皆寂しがりやでした。4人の神官のうち白鷹と玄鹿は、現世で主と離れ離れになる辛い経験をしました。残り2人は現世でどんな経験をしたかは分かりませんが、少なくともこのツギハギ城に導かれたという事は何か心残りはあるのだろうと思います。もう一度主と会えるなら自分の魂などどうなってもいい、そんな気持ちを胸に秘めて神官としてツギハギ城に導かれました。それでもかつての主に会う事は叶いません。もはや自分の願いはかなわないのかと思った時に、結が現れたのです。結と白鷹の物語がメインシナリオではありましたが、他の神官たちにとっても結は気が付けば失いたくない大切な存在になっておりました。どこか守ってあげたいと思わせるんですよね。その女性的な見た目もあると思いますが、素直であり大人しく自分の感情をあまり表に出さないところも結を知りたいという気持ちに拍車をかけているんだと思います。そんな、当人である結の気持ちなど知らないところで結を巡る水面下の争いは始まっておりました。

 実際のところ、結は4人の神官の事は神官としか見ておりませんでした。それ以上もそれ以下もありませんでした。むしろ、結が心に留めていたのは絖兄だけでした。結は決して孤高だったのではありません。唯、目の前の事に精一杯で自分の事に精一杯でした。誰かを気に掛ける余裕がある訳でもありませんでした。だからこそ、結にとって最も身近にいた絖兄が全てであり、最も大切な存在でした。結にとって、4人の神官からお誘いを受ける事は本当寝耳に水だったのではないかと思っております。そんなに自分は大した人間じゃないのに、そんな事を心の片隅に抱えながら神官たちのお誘いを受けたのではないでしょうか。この結と4人の心の在り方のギャップもまた、この作品の魅力だと思っております。結にとっては寝耳に水、4人の神官にとってはただ傍にいて欲しい存在、それ程大きな事を願ったわけではないのにですね。今風に言えばエモいっていうんですかね。自分の心をかき乱してくれました。

 そして、想像以上にスケールの大きな設定でした。ツギハギ城は、最終的には何らかの形で無くなるんだろうなという事は想像しておりました。ですが、このツギハギ城そのものが世界そのものであり絲姫という1人の存在によって作られている事は驚きでした。現世で未練を抱えた存在、それを絲姫が見出しこのツギハギ城で実体化させておりました。そして、絲姫との繋がりが途絶えるか自分自身が満足するかでこのツギハギ城から人知れず消えていきました。ツギハギ城の役割も、ただ単に城の中の秩序を作るだけのものでした。大切なのは自分の人生や未練に納得感を得る事、その為の救済処置だったのかなと思っております。最後で明かされた少年と千早という鳥の物語、ここから結と白鷹の物語は始まっておりました。理不尽な理由で殺され離れ離れになった2人、その想いが現世を超えて幾つもの時代を超えて再会できたことが本当に嬉しかったです。緤が言うように、憎しみや怒りもまた生きるための原動力になると思います。それでも、絲姫が残した糸鞠のような小さな繋がりを大切にしたいと、私は思いました。

 様々な登場人物が現れ誰もが個性的でした。ですがその本質は寂しさから逃れるために他人を求める赤裸々な姿でした。私は、自分の幸せは自分で掴むものだと思っております。他人との違いに葛藤しつつも、結が見つめていたのは自分自身でした。これが結の強さであり魅力なのかなと思っております。強がっていても幸せの基準を他人に求めていては未来永劫幸せになる事は出来ません。悩むものは自分だけで十分、これはこの作品だけではなく現実世界でも同じなのかなと思いました。人は一人では生きていけませんが、自分の幸せは自分で掴むものです。他人との関わりの中でどのように自己実現していくのか、そんな事もこの作品から感じました。白鷹を除く3人の神官は、未来永劫結を自分の傍に置く事で幸せを掴みました。未来永劫傍にいるなら、結に幸せの基準を任せるのもありだと思いました。そういうやり方もあるんですね。そんな、自分自身と向き合う事と幸せになる事を考えさせられる作品でした。願わくば、結ばれた2人がこのままずっと一緒に居る事を願いますね。ありがとうございました。


→Game Review
→Main