M.M TrueFace




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 78 2〜3 2019/6/17
作品ページ サークルページ



<自己主張激しく矜持を持ったキャラクター達が、グイグイと物語を動かしていく様子が楽しかったです。>

 この「TrueFace」という作品は、同人サークルである「またたび日和」で制作されたビジュアルノベルです。またたび日和さんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。切っ掛けはC95で同人ゲームの島サークルを周っている時でした。線の濃いキャラクターデザインと意志を感じる瞳、そして何やら陰謀めいた雰囲気を感じるプロットに興味を惹かれた事が印象に残っておりました。そしてタイトルがTrueFace=本当の顔という事で、思春期の少女の心を垣間見る事が出来るシナリオに期待を持ちました。恐らく自分が好きな系統の物語である、そんな予感を持ちながらプレイし始め、今回のレビューへと至っております。

 主人公である天宮水希は、天宮女学院高校に通う自他共に認めるカリスマ性をもった2年生です。季節はちょうど生徒会長選挙真っ只中であり、持ち前の計画性と先読みする行動性で当選は確実かと思われておりました。しかし、一次選挙でとんでもないハプニングが起こりました。多くの立候補者が突如不正を働いたという理由で落選、残ったのは天宮水希と最近編入して来たばかりの小柄な少女である一条香奈の2人だけ。この突然の事態に何やら陰謀めいた雰囲気を隠せず、圧倒的と思われた天宮水希陣営に陰がよぎりました。一条香奈は何者なのでしょうか。そして果たして天宮水希は生徒会長に当選する事が出来るのでしょうか。目まぐるしく変化していく周りの情勢の中で、自分にとって大切なものを見つける物語が幕を開けるのです。

 この作品の特徴は、舞台が家柄を重要視したお嬢様方が集う学園の雰囲気です。舞台である天宮女学院高校は名門とされている家柄のお嬢様が多く在籍しており、良くも悪くも自己主張が激しくプライドの高い生徒ばかりです。主人公である天宮水希がカリスマ性を持っているのは勿論ですが、それ以外のキャラクターも一癖二癖もありシナリオが先読み出来ません。ですがそれは裏を返せば登場人物一人ひとりに拘りがあるという事であり、まさにキャラクターが物語を動かす典型的な例と言えます。立ち絵こそ天宮水希、一条香奈、そして天宮水希に使えるメイドの志乃原しかいませんが、それ以外のキャラクターにも大変愛着を持つ事が出来ました。一人ひとりが自分を持っておりその姿勢がこの学園を作っている雰囲気が伝わります。

 最大の魅力は、主人公である天宮水希とヒロイン(?)である一条香奈の振る舞いです。絶対的なカリスマ性を持つ天宮水希ですが、一条香奈の純粋無垢な振る舞いに自分のテンポを揺さぶられます。仮にも二人は生徒会長という席を巡るライバルであり、天宮水希は一条香奈の人懐っこさを疎ましく思っておりました。ですがお互いの立場の違いや生い立ちの謎、目まぐるしく変化する情勢に2人の心境は大きく変化していきます。時に自分を見失いそうになるのですが、最後の最後で自分が信じる者を守り通す姿がとても輝いて見えました。タイトルにあります通り、彼女達の本当の顔を見る事が出来たらいよいよ物語も終わりに近づきます。その時には、自然と彼女たちを応援したくなる自分がいる事に気付くと思います。

 プレイ時間は私で2時間50分でした。この作品には選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。デフォルトの文字速度が速いですので、お気に入りの速度に調整して欲しいと思いつつもこのままでテンポよく読んで欲しい気持ちがあります。目まぐるしく変わっていく情勢に追いつくには、このくらいの文字速度が調度良いのかも知れません。またBGMは各種素材を使用しておりますが、場面に大変合っておりますので登場人物の心理描写などが十二分に伝わりました。後は表情差分に注目ですね。特に天宮水希と一条香奈の表情はとても豊かであり、笑顔・涙・企みなどの姿が一目で分かります。全体としてとても丁寧に制作されており、プロットとキャラクターがカッチリしている作品に思えました。女学院高校を舞台とした、矜持溢れるシナリオを是非楽しんでみて下さい。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<誰か一人でも信じれる人が居たら生きていける、それが家族という存在なのかも知れません。>

 最後までプレイして、天宮水希も一条香奈も最初のイメージと何ら変わる事はありませんでした。天宮水希はカリスマ性を持ったカッコいい姿そのままでしたし、一条香奈は素直で優しく相手想いの性格でした。変わったのは、自分が持っていなくても相手が持っている物を認め合った事でした。この2人がタックを組んだら、もう怖い物なんて何もないですね。

 幼い時に両親から捨てられ、孤児院で生活する事を強いられた水希。自分の運命を悲観しつつも、どこかでこのままで人生は終われないという気持ちを持っておりました。実際、頭の回転は非常に速く能力的には同じ年代の少年少女と比べて突出している物がありました。だからこそ、水希は人を信用する事無く自分の力のみでのし上がろうと考えたのだと思います。天宮家の当主と対峙できたのは千載一遇のチャンス、必ずやこの機会を逃すまいと文字通り決死の覚悟で生徒会長になる事を目指したのです。生徒会長になる事は人生を懸ける事、そんな生き様を作品全体の中で見る事が出来ました。

 一方、香奈は名家である天宮家に生まれその将来が半ば約束されておりました。ですが、香奈はその優しさと物怖じする態度が父親の目に叶わず、最終的に外に出る事を禁止させられました。血の繋がった両親が居て使用人も沢山いるのに何一つ自由に行動出来ない、香奈は生きながら死んでいるような生活を強いられておりました。だからこそ、香奈はもう一度ちゃんと父親に娘として見てもらう為に生徒会長になろうと決意したのだと思います。これが香奈にとっていよいよ最後のチャンスでした。生徒会長になる事は人生を懸ける事、そんな生き様を作品全体の中で見る事が出来ました。

 水希も香奈も、性格はまるっきり違ってましたが人生に命を懸けている事は共通でした。お互いがお互いのやり方で生徒会長を目指す、信念もあり打算もありもうなりふり構っていられない、当然人生を懸けるのですから最終的にこうなる事は予測できました。水希が時よりニヒルな笑顔で余裕かましてましたけど、その通り終わる筈がなかったんですね。また香奈も最終的に勝てるかと思ったのですけど、結局は自分の気持ちを優先してしまったんですね。結果として生徒会長には水希が当選しましたが、物語はそんな事では終わりませんでした。

 この作品の中で、「家族」という言葉が沢山出て来ました。家族とは、血の繋がった者同士しかなれないのでしょうか。もしくは養子縁組を組んだものしかなれないのでしょうか。そんな事はありませんでした。家族とは、お互いがお互いに愛情を持っている関係であれば誰でもなる事が出来るのです。水希と香奈は、そういう意味では孤児院時代から既に家族だったのかも知れませんね。お互い真逆の方向で浮いていた存在だったとはいえ、一緒に行動しお互いに手紙の交換をするまでになりました。そしてその手紙は何年もの時を経てようやく相手に届きました。家族になるのは、実はそんなに難しい事ではないのかも知れません。大切なのは、家族になる決意をする事かも知れません。

 水希は天宮家の養子になるどころか天宮家そのものを掌握する事にしました。香奈もまたそんな水希に寄り添う事を決めました。やっとお互いがお互いを家族と認め合った水希と香奈、もうこの2人に恐れる者はありません。時間を掛けてでも、天宮家どころか世界を掌握しそうな勢いです。ですが、もう2人は迷う事は無いと思います。何故なら、2人はちゃんと家族になる事が出来たのですから。この物語は、自分の信念を大切にする事と身近にいる人を大切にする事の大切さを伝えたものだと思いました。人生一人では生きていけない、逆に言えば誰か一人でもいれば生きていける。そんな尊く輝かしい姿を見る事が出来ました。まずは、残りの高校生活を楽しむんですね。そしてそれからの長い人生を更に楽しんで頂ければいいんじゃないでしょうか!素敵な作品をありがとうございました。


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