M.M トリノライン
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
8 | 8 | 7 | 86 | 11〜13 | 2017/4/4 |
作品ページ(R-18注意) | ブランドページ |
<minoriお得意の群像劇をインタラクティブ・ノベルを味わいながら、人間というものについて考えてみて下さい。>
この「トリノライン」はアダルトゲームのブランドである「minori」で制作されたビジュアルノベルです。minoriが作る作品の特徴として群像劇といった手法やインタラクティブ・ノベルといった表現方法を取り入れており、映像的観点に置いて非常に高い評価を得ております。特に2006年及び2008年に2作品に分かれて発表されたef - a fairy tale of the two.については、当HPで95点というピカ一の評価を付けさせて頂きました。シナリオ・音楽・絵という3要素が高レベルで融合した作品を安定的にリリースされており、現在でもデフォルトで予約購入させて頂いているブランドの1つになっております。
今回レビューしている「トリノライン」は、2017年3月31日に発売された作品です。私もminoriの作品を全てプレイしている訳ではないのですが、2012年に発売された「夏空のペルセウス」からこれまでの作風から一気に舵を切っており今回の「トリノライン」まで繋がっていると感じております。群像劇や映像的観点という私がminoriを好きになった点は共通ですが、大きく変わった点としてシナリオの長さとおっぱいが挙げられます。始めにシナリオの長さですが、夏空のペルセウス以降は基本的に10時間前半の長さで全てのシナリオを読みきる事ができます。いわゆる大作と呼ばれるボリュームではありません。その分1つのテーマについて集中的に表現しており、言いたい事が分かり易く伝わってきます。次におっぱいですが、もうとにかく巨乳なのです。攻略対象は漏れなく巨乳。巨乳どころが爆乳です。それでいて芸術的な曲線とシミ一つない肌、何よりも光を反射する大きめの乳輪がプレイヤーの目を離しません。まさに18禁ブランドとしての存在感を見せつけてくれました。トリノラインもまたこの路線に漏れる事なく、程よいプレイ時間で芸術的おっぱいに囲まれながら最後までプレイさせて頂きました。
舞台は現代より科学技術が進歩している日本のとある小さな島。この世界では人間に代わり様々なアンドロイドが社会の中で活躍しております。掃除するアンドロイド、力仕事をするアンドロイド、今の私達にとってある意味夢のような生活が営まれているのです。それでも更に科学技術は進んでいきます。特に舞台となっている島はアンドロイド開発の特区となっており、ロボット工学研究センター(通称RRC)が主導となり様々な研究を行っております。主人公七波舜はそんな島に住む学生です。彼には辛い過去がありました。彼の妹である七波白音、彼女はこの世を去ってからもう何年もの月日が経過しておりました。塞ぎ込んでいた舜もようやく本来の明るさを取り戻し、幼なじみの宮風夕梨や母親、クラスメイトに囲まれて生活しております。ですが、もしその妹が蘇ると聞けばどれ程嬉しいでしょう。それは決して叶えられない願い。ですが、その願いは実現したのです。舜の目の前にいる白音そっくりの女の子の名前はシロネ、それは”トリノ”と呼ばれるアンドロイドでした。
この作品で取り扱っているテーマは人間という存在そのものです。皆さんも経験があると思いますが、人生において人間関係ほど面倒くさい事はないと思います。合理的に動くかと思えば感情によってコロコロと判断が変わったり、約束をしてもすっぽかされたり、気に入る人がいればどうしても気に入らない人もいたり、喧嘩をしたり言い争いをしたり、それでも仲直りしたりと様々です。本当、世界何十億という人間がいますけれど誰一人として同じ人間はいません。一人一人が個性を持っており、だからこそ争いもありますし考えの違いもあります。こんな面倒くさい生き物、もしかしたらいなくなってしまった方が他の生物にとって都合が良いのかも知れませんね。
では、見た目も記憶も個性も人間と全く同じですが合理的に判断できる存在がいたらどうでしょうか?きっと争いごとは無くなると思いますし社会が円滑に回ると思います。人間のように決して約束を破りませんし、裏切る事もありません。どう考えても人間関係を築くより簡単であり効率も上げる事が出来ます。では人間ではなくそんなアンドロイドと接して生きた方が幸せなのでしょうか?こればっかりは検証する事が出来ませんので分かりませんね。ですがこのトリノラインの世界ではそれを確かめる事が出来ます。主人公である舜とアンドロイドであるシロネはどのような関係を築いていくのでしょうか。幸せとは何か、人間とは何かという事を本気で考える彼らの姿を通して、私たちも人間というものについて考えを巡らしてみては如何でしょうか。
プレイ時間ですが私で12時間程度掛かりました。共通ルートで約3時間、個別ルートでそれぞれ3時間といった感じです。選択肢も分岐する為だけの最小限のものしかなく、迷う事なくエンディングに向かう事が出来ます。minoriお得意の美しい背景とよく動く登場人物、視点移動を意識したアニメーションと天門氏のピアノを中心としてBGM、そして至高のおっぱいを堪能しながら彼らがたどり着く結末を見届けて欲しいです。1日あれば十分1ヒロイン攻略できますので、是非土日などのまとまった時間を用意しエンディングまで駆け抜けて欲しいですね。オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<幸福は人間に与えられた義務であり権利である。それをアンドロイドの彼女たちが教えてくれました。>
「人間はーー死ぬから、人間なんだ」
全てのシナリオにおいて人間とトリノの掛け合いを描いておりました。トリノは人間にとって対等な存在になれるのか?失われた人間の代わりの存在になれるのか?トリノが支配する世界の方が人間は幸せになれるのか?それら全ての問いかけの答えは「いいえ」でした。人間は死ぬから生きようとする、生きようとするから輝く、そしてその輝きの先に幸せが待っているんだ。これが舜がたどり着いた結論であり、人間が人間である事の本質であるように思えました。
徐々に体が動かなくなり最終的には普通の人よりも早く死んでしまう病を背負った夕梨。それでも持ち前の明るさで病気と闘いながら楽しく自分らしく生活しておりました。ですが彼女の余命がそこまで迫っていること、そしてHuCREMという自分の体を置き換える治療を行わなければ生きられないことを知り愕然としてしまいます。もうこの時の夕梨は見るに耐えませんでした。全てに諦め人と会うことを拒絶したり、自分の分身であるユウリに嫉妬したり、本当は生きたいのに自分の体を失う事の恐怖に耐えられなかったり、まさに人間らしい振る舞いでしたね。そんな夕梨に舜ももう途方にくれてしまい、何でも望みを叶えてくれるユウリに逃げてしまいました。こちらもまた人間らしい振る舞いでした。だからこそ気づいたんですね。人間は分からないから好きになるという事に。そして死が迫り本心を誤魔化せなくなって、ようやく本音が見えました。自分の本当の望みを口に出した夕梨は、少し前とはうって変わって強かったですね。生きる事を諦めない姿こそが人間である何よりの証である事を見せてくれたシナリオでした。
再びの海の事故で一切の記憶を失ってしまった舜。そして逆に全ての記憶を持っていながら生まれたてのトリノであるシロネ。そんな2人だからこそ惹かれあいお互いを愛し合いたいと思うようになったのは必然でした。それでも舜は人間ですのでどうしても永遠を生きることは出来ません。であるならば、自分をトリノにしてしまえば良いのではないか。私もはじめはこれが一番の解決策だと思いました。ですが結末は違いました。トリノになるという事は死なないという事。それは今この瞬間を一生懸命生きる必要が無くなるという事です。そんな悠久の時間を約束された2人に、ずっと愛し合う理由はなくなってしまいました。皮肉にも舜がその事に気づいたのは自分がもう一週間も生きられない状態になってからでした。「僕が僕であるために、トリノにならない」そう決断しからこそ、シロネもまた残り少ない舜との時間を大切にしようと思ったのだと思います。その後再びトリノとして目覚めた3番目のシロネ。彼女が何故涙を流したのかは、分かりません。それでもシロネは、人間とアンドロイドが寄り添える時を願って生き続けるのだと思います。
そしてメインヒロインである沙羅シナリオですが、こちらはより直接的に人間とアンドロイドの共存を目指したものでした。かつてルビィを失い幼いながらも人間に対する期待を失った沙羅、それでも自分の事を慕ってくれた舜に対しては自分の全てを捧げようと思っておりました。全ては舜のため、その一心で研究に没頭し、トリノ研究を加速させ、シロネを発明しました。ですが待っていたのはシロネの暴走、沙羅は自分の行動にすら疑問を持ってしまいました。だからこそ隣に支えてくれる人がいたから立ち直れたんですね。そして沙羅の隣にいた人は、自分のアンドロイドである完璧なサラではなく、それ程頼りがいがある訳でもない人間である不完全な舜でした。サラの考えは明瞭でした。人間は死ぬから不完全。であるならアンドロイドが管理し人間は肉体を捨て精神世界で生きればいい。素晴らしい結論でした。ですがそもそもサラは人間に対する定義を見誤ってました。人間は、死ぬんですね。ここから先は、冒頭の文章通りですので割愛しましょう。終わりがあるから人生が輝く、そんなシンプルな答えを見つけるまでの物語でした。
3つのシナリオとも、人間の死というものに向き合う事が人間を知るきっかけとなっておりました。どんな人間でも、死だけは経験した事がありません。そして、人間は経験した事のないことを怖がります。これは何も生と死とかそんな大きなスケールの話ではありません。日常のほんの小さな出来事でも充分感じていると思います。そして、経験した事がなくても失敗しないように意外と努力するものです。そしてその努力は案外実を結ぶんですよね。この瞬間にこそ、人は幸せを感じるのだと思います。HuCREMを受け足を取り替えた夕梨、その表情は意外な程爽やかでした。シロネにトリノにならないと言い切った舜、最終的にシロネはその決断を認めました。サラを説得する為全力を出した舜、そしたら意外とサラは人間に対して否定的ではありませんでした。何事も、努力して勇気を出して取り組むと割と成功するものです。これが輝きであり、幸せなのだと思います。
この作品はアンドロイドの存在を通して人間とはどのような存在なのかを問うた作品でした。そして最終的にプレイヤーに投げかけた事は「人間は、前に進まなければならない」という事でした。人間は生きているだけで尊いとは、よく聞くセリフです。ですがそうではないとこの作品では言っております。生きているだけならアンドロイドが一番です。何しろ死なないのですから。大切なのは輝くということ、前に進むということ、そしてその先にある幸せを手に掴むという事です。幸福は人間に与えられた義務であり権利だと思いました。例え失敗しても、足を止めても、それが前に進む糧になるならそれで良いのだと思います。それを教えてくれたのは人間ではないアンドロイドの彼女たち。人間とアンドロイドは対等にも代わりにもなれませんが、寄り添う事は出来ると思いました。彼女たちに最大限の感謝をしつつ、私を含め皆さんも今から前に進んでいきましょう。ありがとうございました。