M.M 永遠に美しき冬よりも




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 8 9 78 2〜3 2017/4/20
作品ページ(R-18注意) サークルページ



<魅力あるキャラクターと動きのある演出で表現される冬の描写を堪能して下さい。>

 この「永遠に美しき冬よりも」という作品は同人サークルである「3 on 10」で制作されたビジュアルノベルです。3 on 10さんとの出会いはC91で同人ビジュアルノベルの島サークルを回っている時でした。その時に手に取らせて頂いたのが、今回レビューしている「永遠に美しき冬よりも」です。冬を舞台としている作品ということで全体的に白を基調としたパッケージが雰囲気を作っております。そして表紙にいっぱいに描かれている笑顔が可愛い女の子、どうやら彼女は神様のようです。主人公はなぜ神様を掘り当てたのか。そしてそんな神様とどのようなシナリオを紡ぐのかが楽しみで、今回のレビューまで至っております。

 主人公であるユキオは大学受験を控えた男子学生です。どこか無気力に過ごしている彼には特別な日課がありました。それは雪を掘るという事。ユキオは別に雪かきをしている訳ではありません。雪を掘るという事そのものが目的なのです。そして今日もいつものように雪を掘っていたら、なにやら柔らかい感触にぶつかりました。それは少女のような小さな女の子、正体は何と神様だったのです。神様という割にはひたすらテンションが高く、大喜利が好きな性格は神様というよりも近所にいる子供のよう。それでも神様は一言ユキオに問うのです。「アナタの『願い』を、ひとつ叶えてあげましょう」と。幼馴染の千春と共に少し悲しくて温かい物語が幕を開けるのです。

 この作品の最大の特徴は登場人物のパーソナリティにあると思っております。主人公であるユキオはどこまでも無気力。それでも雪を掘るという行為に対して異常に執着しており、どうしてそこまで頑なに雪を掘り続けるのが気になってしまいます。対照的に神様は底抜けに明るい性格。本来であればシリアスに展開するはずの物語を、彼女1人の力で無理やり明るい調子に持っていってくれます。最も魅力的な人物でした。そして幼馴染の千春も基本的にサバサバした性格でありながら何かを隠している様子が伝わります。彼女もまた神様に劣らずこの作品の格になる人物であり、セリフ1つ見落とす事が出来ません。そしてそんなパーソナリティは声優さんの演技で尚の事強調されております。余裕があれば全てのボイスを聴きながら読みすすめていって欲しいですね。

 他の特徴としてはシステム周りが挙げられます。この作品はとにかく立ち絵がよく動きます。神様なんて、常に画面内をワチャワチャ動き回ってますからね。他にも画面に文字が出たりと非常に動的であり、プレイヤーを飽きさせません。地味に印象的だった動きの演出は雪が降る様子でしたね。主人公の心情をシンシンと振る様子、吹雪の様子で使い分けで表現しておりました。そしてカットインが非常に豊富です。ただ豊富なだけではなく毎回声優さんのボイスが互い違いに再生され、それを聴くだけでも楽しいです。後は基本的なコンフィグは揃ってますしプレイにストレスを感じる事はありません。私自身かなりテンポよくクリックして進めることが出来ました。

 プレイ時間は私で2時間40分でした。この作品にはいくつか選択肢が存在し、それによってエンディングも変わります。それでも殆ど迷う事なく目的のヒロインルートへ入れると思いますし、何よりもシナリオ上重要な分岐については初回では入る事は出来ませんのでまずは純粋に登場人物を楽しみ冬の雰囲気を楽しんで頂ければと思います。基本的に神様が作り出すコミカルな雰囲気で進みますが、後半になるにつれ少しずつ物語の真相が明らかになっていきます。そして全ての真実が明らかになったときに主人公はどのような決断を下すのでしょうか。是非その行く末を見守って欲しいと思います。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<3人が3人とも相手を思いやる性格だかこそ、再び3人がめぐり合う奇跡が物語を動かしてくれました。>

 この作品には優しい人しかいなかったんですね。3人が3人とも自分の事よりも相手の事ばかり考えてました。それが故に自分がやりたい事なんて二の次、だからこそ「自分の願い事は何?」と問われても戸惑うしか出来なかったんですね。自分の気持ちに素直に向き合った時、ようやく物語の終わりが見えてきました。

 改めてタイトルにある「美」という漢字を辞書で引いてみました。意味はうつくしい・よい・ほめるといったものであり、誰でも普段的に使っているものです。「うましい」という言い方は普段的には聞きませんが、決して特別なものではありませんでした。ですが、1つだけ目に留まる内容がありました。それは美という感じの成り立ちです。美とは「羊+大」で、形のよい大きな羊をあらわします。これは周人が羊を最も大切な家畜として扱った名残であり、転じて「微妙で繊細なうつくしさ」というニュアンスが強いと書かれておりました。微妙で繊細、これこそがまさにこの作品で大切にしている事であり私たちが捉えなければいけない部分だと思っております。

 この作品は始め神様のハイテンションな様子といきなりのHシーンで度肝を抜かれますが、その様相は割りと直ぐに消え去り物語の真実へと迫っていきました。この流れの速さはまさに吹雪のよう。コミカルな様子は瞬く間に雪に埋もれてしまうのです。それでも神様は再びハイテンションでシリアスを覆い被せてしまいます。前提として明るい方向に向かわないはずの流れなのに、それに負けないように逆らおうとするせめぎ合いです。絶妙なバランスだと思いました。明る過ぎず暗過ぎず、程よいテンションで物語が進んでいきました。この緊張感のおかげで、最後までダレずに読みきる事が出来たのだと思っております。

 そしてシナリオが進んでいくに連れて徐々に明らかになっていく伏線も見事でした。正直な話、千春が病弱設定であり幼馴染が2人いる時点でこの2人の間に何らかの命のやり取りがあったのだろうなと思ってました。その結果として2人の間に後悔が残り、歪な2人の生活へと至っているのだと思いました。答えとしては正解であり、最終的には美冬の死をどういう風に乗り越えるのかという展開になるかと思いました。ですが最後の展開だけは私の予想通りではありませんでした。予想通りではないというより、予想を軽く超えてきました。というよりも自分にとって、幸生と千春は美冬は乗り越えなければいけないという先入観があったんですね。ですが実際は違っておりました。自分の気持ちに正直に生きるという事は、他人の予想を大きく超えてくるのだなと思いました。

 幸生は千春も美冬も好きでした。そして千春もまた幸生と美冬の事を好きでした。さらに言えば美冬も幸生と千春の事が好きでした。ですが幸生と千春は生きておりますが美冬は死んだ存在です。本来であれば決して相容れない存在、住んでいる世界が違うのです。それでも3人は3人とも相手の事が好き、この矛盾を乗り越えるために下した決断は大胆なものでした。それは3人でずっと一緒にいること。生と死を分かつ3人がずっと一緒にいることは本来であれば許されないのでしょう。ですがそれこそが彼らの本当に叶えたい願いでした。もう2度とあんな辛い後悔をしないために、素敵な決断だったと思っております。

 思い返せば、自分よりも相手の事を思いやる彼らだからこそ相手の本当の気持ちを知るには本人と話すしかなかったんですね。ですが美冬の死でその機会は永遠に失われたはずでした。前にも後ろにも進めない幸生と千春。ですがそんな2人に神様が奇跡を与えてくれたんですね。この作品は、冬の一幕に訪れたちょっとした奇跡の物語。それを絶妙なテンションで展開させ最後は後悔しない選択肢にたどり着くことが出来ました。ただの感動シナリオではない、微妙で繊細な展開だったと思っております。大学生になり社会人になり、きっと最後には美冬は見えなくなってしまうのだと思います。ですがそれは後悔によるものではありませんね。幸生と千春が次の一歩に進むために、それぞれがやりたい事を貫くことも大切だと思いました。ありがとうございました。


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