M.M 灯穂奇譚




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 8 - 70 20〜25 2006/5/17
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<同人を感じさせない丁寧な作り>

 この「灯穂奇譚」というゲームを知るきっかけとなったのは、同人ソフトなのに何故か「アニメイト」の店頭で売っていた事でした。そして、表示を飾っていたヒロインとおもわれるキャラクターの原画さんが、「ケロQ」などのメーカーで活躍している「基4%」でした。なので、これは何か光る物があると思いましたので、早速体験版をプレイしてみたした。結果かなり面白かったので、早速製品版を購入してプレイしました。

 まず評価出来る点としては、背景の素晴らしさです。このゲーム、舞台はバスが一日に数本しか来ないような田舎なのですが、この田舎を表現する背景画が非常に綺麗に描かれています。そしてさらに、昼と夜でもちろん景色が変化するわけですが、この変化についても明確に綺麗に表現しています。まさに、このゲームの舞台の雰囲気に引き込んでくれる背景画です。また、背景の画面効果を効果的に利用する事により、緊張感や場面転換などの流れを効果的に表現しています。この場面の自然な流れは、一般のブランドでもそうそう表現できる物ではないと思います。

 次に評価出来る点として、音を利用した演出の良さです。シナリオの特性上、一部幻想的な雰囲気や場面を演出しなければいけないところがあるのですが、これをささやかな効果音で非常に上手く演出しています。また、効果音とBGMとを上手く組み合わせる事により、まったりとした雰囲気から緊迫した雰囲気に一瞬にして変化させる事も出来ます。まさに「空気が変わる」というものを如実に認識する事が出来ます。

 そしてシナリオですが、はっきりいってかなり難解です。基本的に謎解きをメインにしているので難解なのは当たり前なのかもしれませんが、専門的な知識が必要だったりと、単純に文章を読み取る力だけでは如何ともし難い内容となっています。それでも、シナリオ中において最低限の説明はしていますので、先読みは出来ないかもしれませんけど内容を把握する事は出来るかと思います。正直言ってこれを自力で推理して正解した方は相当の知識の持ち主であると思います。私自身もシナリオを完全に把握しきれている自身はありません。しかし、それでもプレイヤーを飽きさせず引き込もうとするシナリオは本当に素晴らしいと思います。そして、エンディングに待つ結末に驚きを隠せなくなる事と思います。

 それ以外の要素、例えば声やおまけモードなどにおいてですが、これもやはり同人ソフトを感じさせない作りとなっております。これもやはり、ひとえにプログラムの方の力量による物と思います。ただ一つ残念な事は、やはりこれだけのクオリティを作り出すために苦労されたのか、同人ソフトの割には3000円とやや高めになっています。とはいえ、クオリティに見合った値段ではあると思いますので、変な先入観を持たずにプレイしていただければ良いと思います。何か読み応えにある作品をやりたい方、この「灯穂奇譚」は自身を持ってオススメできますので、プレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<シナリオの展開と雰囲気の表現のバランス>

 前にも言いましたが、この「灯穂奇譚」というゲームのシナリオは非常に難しいです。その原因の一つとして、主人公である「永井桐人」の心理描写の崩壊があると思います。

 「永井桐人」は非現実的な世界に入り込む事によって現実との区別が曖昧になります。そんな中で、友人や親しい間柄の人達の行動などに奇妙な点が目立ち始め、何が真実なのかが分からなくなっていきます。そのため、シナリオの流れが完全に止まってしまい、あくまで「永井桐人」の精神の安定を目指して展開されていきました。このシナリオの展開はこの「灯穂奇譚」というゲームの雰囲気を考慮して非常に有効的なものであったと思います。しかし、全ての事象の真実を知りたいプレイヤーにとってはこのシナリオの展開は単なる足踏みにしか感じなかったと思います。

 もちろん、完全にシナリオの流れが止まってしまうわけではありません。ただ、主人公の心理状態から考えると、明らかにシナリオを進めようという展開は絶望的に思われてしまいます。私としてもこの展開は少々じれったい感じがしました。この「灯穂奇譚」というゲームのシナリオにおいて、この部分だけがややシナリオの流れを止めてしまい、テンポよく進んでいかないが為にマイナス点として認知されました。

 とはいえ、これはあくまでシナリオの展開の面からの考察であって、この「灯穂奇譚」というゲームの雰囲気を作るという意味ではこの上ない効果をもたらしたと思います。実際、何が真実で何が偽者なのかが分からないという不安にも似た雰囲気はこのゲームの醍醐味でもあります。それを、主人公の心理描写を利用して表現した事は本当に素晴らしいと思います。

 実際「水鏡」はそういったバランスというものをどういう風に考慮したかは分かりませんが、私の中ではもう少しシナリオの展開のテンポの良さを重視してくれれば良かったと思います。とはいえ、もともと様々な要素において高水準に出来上がってますので、普通に楽しめるといえば楽しめますね。そして、今だにシナリオの全貌を理解していませんので、機会があったらもう一度プレイしてあの雰囲気を味わいたいですね。


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