M.M トモシビはいつ消えるのか -白の少女-


<状況説明を大切にした丁寧な文章構成とシステム>

 この「トモシビはいつ消えるのか -白の少女-」は同人サークルである「アンチョビプリン」で制作されたサウンドノベルです。入手したのはC82の時であり、その時には既に次回作である「トモシビはいつ消えるのか -紅き日の思い出-」も発売しておりまして、死に迫られた特殊世界観のあらすじに興味を持ちましたので入手してみました。その後はC82の後という事で無数に入手したサウンドノベルの1つの中に埋もれてしまい中々手が出てませんでしたが、COMITIA102で改めてアンチョビプリンさんとお会いしてC82で買ったことを思い出し、優先的にプレイする事にしました。感想ですが、状況説明を大事にした丁寧な文章構成が印象的なシナリオでした。

 OHPにも書いてありますが、この作品は「トモシビはいつ消えるのか」シリーズの第1章です。転死病という原因不明の病気で隔離政策をとった架空の日本の物語であり、隔離政策は無くなりましたが未だに転死病の原因が解明されておらず心の奥に差別と死への恐怖が残っている世界設定です。今回プレイした「-白の少女-」でそういった転死病や隔離政策、そして主人公の生い立ちや隔離地域に暮らしている人々との関わりなど表面的な部分を把握する事ができ、ここからシナリオが本格的に展開されていく意味で最高の第1章という印象でした。

 こういった現代の世界を模した近未来的な作品は時によっては世界設定についていけず、プレイヤーを置き去りにしてしまいがちな部分があります。ですがこの作品はそういった世界設定や現在主人公は置かれている状況、風景描写などを丁寧に表現しており、すんなりとこのトモシビの世界へ入る事が出来ました。転死病とは何なのか、どのように隔離政策を行ってきたのか、そういった設定に対して分かり易く表現しておりますので理解する事は易しいと思います。またこのゲームのシステムの特徴として「用語集」と「人物紹介」がある事もプレイヤーの理解を助けている要因になっていると思います。ゲーム内固有の名詞については全て辞書的な解説がついておりいつでも回覧する事が出来ます。また登場人物の設定についても物語が進む中でどんどん加筆され簡単に振り返る事が出来ます。

 そして上でも書きましたがこの「-白の少女-」はまだ第1章です。確かに世界設定や主人公の現在の状況については把握する事が出来ましたが、まだまだ肝心なことが明らかになっておりません。そもそもの転死病の原因や解決策、また何故主人公がこの旧隔離地域に来ることになったのか、これからどのように転死病に取り組んでいくのか、そういった物語はこれから進んでいくことになります。とりあえず第1章として最高の幕引きで終わっておりますのでプレイした方はきっと続きが気になるのではないかと思いますね。こういった次が気になる幕引きは次回作の期待を持たせますので大事ですね。

 他に特筆する部分とすればシステムがありますね。上で書いた「用語集」や「人物紹介」はもちろん素晴らしいのですが、そういったコンフィグを選択するときの切り替え時間が非常に短いのでストレスを感じる事がありません。文章を読んでてちょっとこの言葉の意味が曖昧だなと思えば瞬時にそれを確認できます。その辺りは読むという事を極力阻害しないという事で非常に好感が持てました。欠点としてはスキップ機能ですね。この作品のスキップ機能は文章を高速で表示させるものではなく場面の転換部まで一気に持っていきます。人によって好みは分かれると思いますが私は一度読んだ文章でも高速で流れていく中で場面を思い出しながらスキップしたい人ですのでちょっと残念でした。まあそれ程気になる部分でもありません。

 という訳で一部気になる点もありましたが面白い作品でした。何度も書いてますがまだ第1章ですので何よりもこれからのシナリオ展開が楽しみです。既に手元に次回作は持ってますので時間を置かずにプレイすることになると思いますね。プレイ時間も3〜4時間と短く、時間のない方にもおススメです。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<良い意味でプレイヤーを悩ませて伏線を散りばめるやり方は結構好きですね>

 面白い設定でした。主人公を含め比較的多くの登場人物が転死病でしたし、主人公自信が自分の過去というものを把握していない訳ですからね。とりあえず義理の父親の指示で旧隔離地域へ派遣され、その中でひたすら指示を待つ。その中で様々な人々と触れ合う中で自分と向き合っていくシナリオは今後の期待も合わせて良かったと思いました。

 一応転死病が人から人へ感染するものではないという事で隔離政策は解除されたわけですが、実際のところ転死病についてまだまだ解明されていない事が多いんですね。体の成長が止まる事、そして記憶が失われる事、これらについてハッキリした症状や原因は分かっておらず、それが故に主人公も苦悩している訳ですし未だに転死病患者への差別や偏見は消えてないわけですからね。そして未だに転死病についてハッキリとした頃が分かっていない事、それが現在も稼働しているラボという存在の絶対性を示しているんだと思います。

 今回プレイしてまず思ったのはラボの中で何が行われているかという事ですね。世間的には転死病患者に対して何不自由なく生活できる環境と認知されているようですけど、悠が脱走したという事がどうにも危険な匂いを感じさせます。結局のところ一度ラボに入ればもうその人な二度と外に出ることは無いですので、真実は分からないという訳ですからね。あの機械的な職員の対応を見る感じでもとんでもない事が行われているイメージを持ちましたね。この辺りの真実が明るみになるころには物語も終盤に入っているのでしょうか。

 そして脱走した転死病患者を誘拐する組織があるという事ですが、これも確実に目的があって行っている訳ですからね。世間的には悪でしょうけど真実は全くの逆かも知れませんからね。そしてあのヘルメットは幼馴染の紅音でしたね。立ち絵の姿勢で分かる人には分かったのではないかと思います。彼女が組織に加担している事、これは5年前に主人公の前から姿を消したことに関わっているかも知れませんね。そしてそれは同時に主人公の両親や生い立ちにもつながってくる話かもしれません。この辺りの妄想も捗りますね。

 何れにしてもまだまだ始まったばかりですので今後のシナリオ展開に期待するしかありませんね。このようにプレイヤーにいい意味で悩ませて伏線を散らばせるやり方は結構好きですね。登場人物も基本素直なキャラが多いですし、謎が多いキャラは謎のままのイメージですのでこの辺りのキャラ設定もいいバランスだと思っております。是非次回作を楽しみにしております。


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