M.M とも鳴りの舟




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 78 2〜3 2020/1/24
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<山野氏による、テキストとプレイヤーと主人公のレースの様な展開が魅力的でした。>

 この「とも鳴りの舟」という作品は、同人ゲームサークルである「サキュレント」で制作されたビジュアルノベルです。サキュレントさんの作品は、過去に「慰愛の詩」をプレイした事があります。サークルの代表である山野氏は、以ゆにっとちーずというサークルでビジュアルノベルを制作されておりました。人間の綺麗なだけではない、生々しい感情の流れを的確なテキストで表現してくれるシナリオはいつも読んでいて感嘆させられます。サキュレントになってもそのテキストは変わらず、読み終わった後に唸るシナリオを楽しませて頂いております。今回もどのような感情のうねりを見せてくれるのか楽しみにプレイし始めました。

 主人公である美倉たがねは、独り暮らしで売れない風俗嬢をしておりました。月の収入は少なく、家賃を払うだけで精いっぱいの生活をしておりました。どこか人生に対して諦めている感覚のたがねですが、ある日窓の外を見たら見知らぬ男女がベランダでセックスをしてました。それだけでも異常なのに、そのセックスしてた男が今目の前にいて自分の事を犯しているのです。いきない非日常であり非常識な状況に向き合ってしまったたがね、ですが何故かその状況を受け入れている自分がいるのもまた事実でした。世の中の普通から外れた生活をしているたがねの、自分らしさに向き合う為の物語がここから幕を開けるのです。

 私も34年間人生を生きてきて、それなりに様々な価値観に触れてきたつもりです。それでも、人の価値観に限りなどなく人と会えば会うほど新しい価値観に出会っていきます。そして、どの価値観が正解で不正解など存在しません。人に迷惑を掛けなければ自分らしく生きる事が幸せになる事になると思っております。それでも、自分らしく生きたいからといって自分らしく生きれたら苦労しません。世の中にある様々な常識や風潮、世間体と向き合いながら自分らしさを探して日々生きていると思います。その結果、もしかしたら自分は世の中から外れた生き方でないと自分らしく生きれないのかも知れません。売れない風俗嬢をしているたがねも、自分らしい生き方が分からないでいます。少なくとも、風俗嬢は一般的な仕事ではありません。それでももしかしたらこれが自分らしい生き方だとしたら、果たしてたがねはそんな自分を受け入れる事が出来るのでしょうか?そんな、自分らしさと幸せを考えさせれるシナリオを味わってみて下さい。

 冒頭でも書きましたが、山野氏の作品で自分が一番好きなのは人間の中々言語化出来ない感情を的確に表現したテキストです。喜怒哀楽、それだけでは表現しきれない複雑な感情が入り混じっているのが人間であり個性です。ましてや、売れない風俗嬢をやっているたがねの感情など簡単な言葉一つで表現する事など出来る筈がありません。ですが、この作品の主人公はたがねである視点もたがねですので、今彼女がどんな心理に基づいて行動しているのかを説明しなければいけないのです。もしかしたら、プレイヤーが主人公の心理状態を把握しようとしている途中で山野氏のテキストで答えを先に知らされてしまうかも知れません。そんな、テキストとプレイヤーと主人公のレースの様な展開も楽しんでみて下さい。

 プレイ時間ですが私で2時間10分程度でした。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。基本的に主人公視点で物語が進み、テキストは主人公の心理描写と周りの時間経過しかありませんのでテンポよくシナリオは進んでいきます。その中で少しずつ明らかになっていく主人公の内面と、レイプした男の目的や気持ちが明らかになっていきます。最後にどのようなエンディングを迎えるのか、幸せとは何かを想像しながら進めてみて下さい。一人の人生を通して、自分自身の人生を振り返るのも良いかも知れません。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<ふっと胸が軽くなった、そんな瞬間に気付ける事が本当の幸せに必要なのかも知れません。>

 ふっと胸が軽くなった、この瞬間って本当に憑き物が落ちた様に気持ちも楽になるんですよね。どこか自分を縛っていた価値観・常識・世間体、そんなものに何も意味なんて無かったんだと分かった瞬間に、やっとたがねもたどり着いたんですね。この瞬間、たがねの幸せは決まったも同然だと思いました。

 たがねは変態でした。綺麗なものよりも汚いものが好きな変態でした。ですけど、それがたなねの本質であり真実であり嘘を付けない物でした。そして、自分の性格も決して人に褒められる物ではありませんでした。孤独に弱く、常に寂しさを抱え、その癖他人に素っ気なくする事に気持ち良さを覚える、本当面倒くさい性格だと思います。ですけど、それがたなねの本質であり真実であり嘘を付けない物でした。何が言いたいのかと言いますと、たがねはそんな自分自身の本質に気付きそしてそれを受け入れてくれる存在を見つける事が出来たという事です。

 白木もまた、どうしようもない性癖を持っておりました。大切にされるよりも、粗末にされる方が興奮するのです。自分が惨めであればある程興奮する、そんな人生も中々理解出来ませんね。折角のイケメンでコミュニケーション能力の持ち主なのですから、もっと世の中上手く渡り歩けるはずなんですけどね。ですけどそれは白木の求める幸せではないのですから仕方がありませんね。理恵と結婚してそのままでも幸せだったのでしょう。ですけど白木は気付いてしまいました、よりによって理恵の強烈な浮気によって。そして、そんな自分のどうしようもない性癖と性格を受け入れてくれる存在を見つける事が出来たという事です。

 たがねにはずっと両親からの虐待が付きまとっていました。何をするにも両親との比較がありました。どれだけ人生で成功しても、逆にしなくても両親の顔色だけが評価の対象でした。だからこそ、母親からのメールはずっとたがねを縛り、両親がアパートに来た時に恐怖したのです。ですけど、たがねには白木がいる事に気付きました。ずっと自分の中心だった両親の存在が無くなっても、白木がいれば何も問題は無い。その事に気付けたから、ふっと胸が軽くなったんですね。純粋に今目の前の人との未来を歩ける、これこそが一番の幸せだと思いました。

 幸せの形は人それぞれ、そんな事理屈の上で誰もが分かっております。それでも、どうしても幸せの大きさを人と比べてしまい、いつまでも本当の幸せという物を追いかけてしまいます。そんな幸せは、実はまやかしなのかも知れませんね。たとえお金が無くても、両親がいなくても、自分自身の性癖や性格が人格者とはかけ離れていても、それでも幸せだと思えればそれが絶対のものなのかも知れません。好きな物に正直になりそれを真っ直ぐに追いかける事が出来る、私はそんな人を立派だと思いますし羨ましいと思いました。きっとたがねと白木は、2人にしか理解できない幸せな生活を送れるのでしょうね。ありがとうございました。


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