M.M TEAD




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 7 - 65 1〜2 2016/10/25
作品ページ

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<ディルの複雑な心の揺れ動きとそれを支える一癖も二癖もある不器用なヒーローの活躍に注目して欲しいです。>

 この「TEAD(読み方はティッド)」という作品は同人サークルである「crAsm」で制作されたビジュアルノベルです。crAsmさんの作品をプレイしたのは今作が初めてでしたが、サークルさんとはC90などを始め何度かお話させて頂いたことがあり是非作品もプレイしたいと思っておりました。今回レビューしている「TEAD」は2016年10月21日にふりーむにて公開された最新作です。女性主人公のファンタジー恋愛ADVという事で、剣と剣が交差する熱い展開や心と心が交差する熱い展開を楽しみにしてプレイ始めました。フリーではありますがそれなりのプレイ時間と幾つかの分岐があり、十分なやりごたえを感じる作品となっております。

 舞台は現代よりもやや昔の中世の西洋をモチーフとしております。エク・ダパーセは島国であり、自国の限りある資源を守るために隣国との協定や防衛線を維持しながら数百年の歴史を歩んできました。主人公であるディルはそんなエク・ダパーセの国軍に所属する槍兵であり、女性でありながらその実力は折り紙つきです。その為17歳という若さでありながら部隊を率いるまでとなり、同年代であるアルス、エゼノスと共に切磋琢磨しながら研鑽しておりました。ある日そんなエク・ダパーセに向かってくる一団を見つけました。島国であるエク・ダパーセにとって敵襲は一大事であり、これの殲滅の為にディル、アルス、エゼノスとそれを率いる立場としてサンテリオンの4人が中心となって迎え撃つ事になりました。若い彼ら彼女らにとって未だ経験のない実践、そしてこの戦いを切っ掛けに4人の関係は大きく変化していく事になるのです。

 この作品はファンタジー恋愛ADVですが、剣は登場しても魔法は登場しません。そして時代は中世をモチーフとしておりますので電気もなく大砲や銃といった火薬を使った飛び道具もありません。その為戦いは基本的に剣や槍を使用した一騎打ちであり、武器を手にしている重量感や生々しい人間の感触が伝わります。そこは生と死を肌で感じることができる世界。自分の掌に殺しという感覚を味わう世界です。そこに男も女もありません。主人公ディルは女性ですが、女性だからといってそれが何にもならないのです。その為ディルは自分が女性である事を嫌い、また女性扱いされる事を嫌っておりました。男になりたいと願い実力を磨き、ついに部隊を率いるまでになったのです。女性でありながら男性である、そのような中性的な雰囲気が彼女の魅力だと思います。

 そしてそんな彼女ですので自分や他人に対して非常に複雑な想いを抱いております。幼馴染として一緒に生活しやや女々しいアルスに対して支えてあげたいと思いつつも性差を意識せずにはいられず、これまでの関係のまま過ごせるのかそれとも変わってしまうのか不安に思ってました。また自分よりも階級が上のエゼノスにはどうしても実力で勝つことが出来ず、純粋に騎士としての劣等感を抱えいつしか追い越したいと思っておりました。それが競争心なのかそれ以外なのかは、今のディルには分かっておりません。また軍師であり慰謝であるサンテリオンは男でありながら女性のような肌を持ち物腰柔らかい態度であります。女性でありながら男らしいディルとは全く真逆の存在。これまであまり会話もしてこなかった2人ですが、今回の戦いを切っ掛けに距離を縮める事でどのように感じるのでしょうか。是非ディルの複雑な心の揺れ動きとそれを支える一癖も二癖もある不器用なヒーローの活躍に注目して欲しいですね。

 プレイ時間は私で1時間30分程度掛かりました。1人当たり35分で、その後分岐からリスタートして無事全てのEDを見る事が出来ました。この作品はシステム周りが非常に整っております。特に既読スキップのスピードがかなり速いですので、分岐でセーブせずとも始めからやり直して場面場面を振り返りながら全てのルートを模索するのが良いと思います。また1人攻略するとEXTRAが解禁し、EDリストや攻略へのヒントが見れるようになりますので非常に参考になります。勿論私はヒントなど見ずにプレイさせて頂きました(ヒントは後で見ました)。共通ルートも割とありますので、皆さんそれぞれに合わせたプレイスタイルで是非全ルートをプレイして欲しいですね(コンプリートした先にもおまけがあります)。ふりーむの作品で誰でもDL出来ますので、興味のある方は是非プレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<彼らの生き方を見て、自分自身の幸せのあり方を考える事切っ掛けになればいいな思いました。>

 振り返ってみれば年齢相応の男女の恋物語でした。普段は国の為に忠義を尽くす軍人そのものであり、そこに恋愛感情や性差を持ち込む事を頑なに拒んでました。ですが今回の戦いを経験し自分の力不足や仲間の大切さを実感することで心を通わせる事、言葉を交わす事の大切さを知ったんですね。是非末永く幸せに過ごして頂ければと思いました。

 今作の一番の特徴はディルが中性的な女性として描かれていた事だと思いますが、EXTRAのmessageを読んでみてやはり意識して作られたようです。女性ですけど他の誰よりも強くなりたい。そんな志の高い彼女に対してヒーロー達もきっと自分の気持ちを言いにくかったんだと思いますね。ディルの事が好きで仕方がない、でも今ここで好きだという事を伝えてそれが果たしてディルの為に、もっと言えば国の為になるのでしょうか?女性である事を憎んでいるディルに好きだと伝えることは自分が女であることをハッキリと自覚するということ、それは彼女の今後の軍人としての人生に必ず影響を与えますからね。そんな葛藤をヒーロー達は思っていたのだと思います。

 だからこそ、今回の戦いで生と死の狭間を経験して彼らはディルに告白しようと決めたんですね。アルスルートの最後、大切な仲間であるコレックを失い自責の念にかられたアルスに対してコレックの両親は「前を向いて幸せに生きて欲しい」と言いました。幸せは当たり前に手に入るものではありません。自分で掴むものだという事をアルスは学んだんですね。そしてアルスの幸せは大切な幼馴染と生涯添い遂げる事。やっと彼女に告白する決意が固まりました。エゼノスも不器用ながら常にディルを見ており、彼女が死なないように敵の動きを想定して剣を交えました。年上であり階級が上であるエゼノスにとって、ディルの負傷は自分の責任という想いがあったのだと思います。そしてやはり今回の戦いを経て命は当たり前にあるものではないと思ったのでしょうね。もう二度と彼女を手放したくない、その思いがペンダントに込められているのだと思います。

 そして最後に解禁されるサンテリオンルート、既に王位継承が内定していてこのまま敷かれたレールの上の進む事を半ば強制されたサンテリオンにとってこの戦いこそがある意味自由に外に出られる最後の機会だったのかも知れません。それでも大将として誰ひとり怪我させたくない、そのプレッシャーは相当のものだったと思います。そんな状況だからこそより強くディルを意識し、ハッキリと傍にいて欲しいと思うようになったのでしょうね。一見キザで最後まで余裕があるように見えたサンテリオン、でもそれこそが彼の魅力であり彼らしさです。作中で「逆の立場に立って考える、気を使いすぎない」と言っておりましたが、サンテリオンが気取りたいのならそうさせておくのが一番だと思いました。ディルの前だからこそ気取るし気取りたいんです。それって気を使ってるんじゃないんですね。それが自然体。だからこそ最後に槍を持って告白するシーンは格好良かったですね。それでこそサンテリオン。これがサンテリオンとディルの自然体なんですね。

 この作品のテーマは「幸せのあり方」だと思っております。軍人として国の為に尽くす、立派な事だと思います。でもそれで愛する人が離れてしまうのなら、それは本当の意味で幸せではないのかも知れません。好きなように生きる、前を向く、ありがとうと言う、一緒に向き合ってくれる、これら全てが幸せになる為の要素です。他人がなんと言おうと関係ない。自分と自分の大切な人が幸せならそれでいいのです。そして幸せは周りに伝わります。自分が幸せになると周りも幸せになるのです。戦いを終え一回り成長した彼らはそんな幸せの有り難みをしっかりと自覚しておりました。後はそれを周りに伝える事ですね。私自身も彼らを真似して人生面白おかしく、そして楽しく幸せに生きれたらと思いました。ありがとうございました。


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