M.M 東京珈琲パンデチカ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 8 | - | 80 | 2〜3 | 2025/5/3 |
作品ページ | サークルページ |
<誰もが悩み苦労したコロナ禍を追体験できる、丁寧な作りこみが印象的な作品です。>
この「東京珈琲パンデチカ」という作品は、同人サークルである「Heaviside Creations」で制作されたアドベンチャーゲームです。Heaviside Creationsさんの作品をプレイしたのは今作が初めてで、切っ掛けはC105で同人ゲームの島サークルを回っていた事でした。リアルに再現された喫茶店内でのコーヒーを注ぐ様子とコロナ禍のマスク着用という日常を切り取ったポスターに目が惹かれ、そのまま購入しておりました。誰もが悩み苦しんだコロナ禍を思い出せるという設定と、実際にコーヒーを抽出するまでの流れを体感できるというゲームシステムが特徴です。もはや懐かしさすら感じるコロナ禍の出来事を、コーヒーの香りに乗りながら思い出す事が出来ます。コロナ禍が過去のものなのかどうかは人によりけりかと思いますが、少なくとも現在は見ることが無くなった感染対策や聴くことが無くなったフレーズにハッとさせれる事でしょう。そんな期待を胸にプレイし始めました。
舞台は2024年の東京です。主人公である喫茶店のマスターと、かつてそこで働いていたチカとの会話から始まります。2024年はパリオリンピックが有観客で開催され、もはやコロナ禍の雰囲気を感じさせません。それでも確かにコロナ禍は存在し、主人公とチカで当時の記憶を思い出し始めます。思い出すのは緊急事態宣言が初めて発令された2020年3月からです。喫茶店という事で、様々な年代や職業の人たちがひと時の安らぎを求めてお店にやってきます。日々目まぐるしく変わる世の中の情勢に振り回される、リアルな人間模様を垣間見る事が出来るのです。皆さんは、コロナ禍をどのように乗り越えましたでしょうか?考える間もなく、流されるように日々を過ごした人もいたかと思います。少なくとも、コロナ禍による世界情勢の変化は誰もが自分の生き方に向き合う切っ掛けになったと思っております。そんな人間ドラマを、喫茶店のマスターという視点から見る事で客観的にとらえる事が出来るのです。ぜひ、コロナ禍にノスタルジーを感じてみてください。
またこの作品では実際にコーヒーをお客さんに提供するまでをシミュレーションする事が出来ます。具体的には、豆を選択し、量を決め、挽き、ハンドトリップで蒸らし、抽出するという一連の流れを体感できるのです。3Dでリアルタイムに再現される動きが素晴らしいですね。精密なキーボードテクニックが求められますので、実際に提供するお客さんの事を想ってコーヒーを提供しましょう。また、お客さんによって当然好みが違いますので求めるコーヒーが変わってきます。苦味が好きな人、酸味が好きな人、など様々です。そしてそれぞれの味を出すために豆の選択、挽き方、抽出の仕方が変わります。この辺りは実際に体感してみてください。そして、お客さんが求める水準になるよう上手にコーヒーを提供しましょう。一人お客さんに提供するごとに主人公のレベルが上がり、様々な特典を得る事が出来ます。このゲーム性もマンネリ化を防ぎ良かったです。
その他の要素として、やはり喫茶店という事で落ち着いたBGMが良かったです。実際に喫茶店に流れていそうな、作業用にピッタリの落ち着いたサウンドが心も落ち着けてくれます。また背景描写も、今でこそ見られなくなったプラスチック製の仕切り板、過剰に用意されたハンドソープ、空気循環用のサーキュレーターなどがありコロナ禍を思い出させてくれます。この辺りの再現度も見事だと思いました。システム周りで1点注意が必要で、コーヒーを提供する一連の動きは全て3Dで再現されるためそれなりのPCスペックが求められます。私も初めはウィンドウで画面いっぱいサイズにしたのですが、スペック不足で豆を挽くフェーズでキーボード操作と画面にずれが生じてしまいました。画面サイズを小さくする事で対応出来ましたので、皆さんお持ちのPCでその辺りは確かめてみてください。
プレイ時間は私で2時間40分でした。全ての記憶を思い出しお客さんを満足させる事で100%にする事が出来ます。コロナ禍という誰もが頭に染みついている出来事と、コーヒー提供をゲーム感覚で出来るシステムに没入してプレイする事が出来ました。この作品を通して、コロナ禍の自分は何を感じていたかなど思い出してみては如何でしょうか?また、作中に登場するコロナ禍を象徴する言葉は用語集として見る事が出来ます。ああ、そういえばあんな事があったななどと懐かしさを感じてみてください。そして、2020年から2024年にかけての人々の変化と決断を見届けてみてください。オススメ出来る作品です。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<悩み辛い時に誰かが話を聞いてくれる、そんな些細な事がとても尊い事だという事を思い出しました。>
最後までプレイし終わり、純粋に良かったなという感想が浮かびました。この喫茶店に関わった全ての人たち、紆余曲折ありましたが皆さんそれなりに元気に生活している様子に安心しました。新型コロナウィルスは人の命を奪う程のウィルス、だからこそ生きているだけで立派というものです。
コロナ禍は、これまでの日常を一瞬で変化させてしまいました。部活動は中止になり、スポーツ大会は無観客となり、医療従事者の忙しさは劇的に上がりました。政府も新型コロナウィルス対策に答えの分からない対応を行い、誰もが必死だったと思います。全ては、これまでの日常を取り戻すためです。一時的に我慢すればきっと元通りになる、それを信じで誰もが行動をしてきました。ですが、それが一ヶ月、二ヶ月、半年、一年と延びれば延びるほど希望は失ってしまいます。これ以上頑張っても報われないんじゃないか、今やっている行動は意味がないんじゃないか、将来どうなるんだろう、そんな気持ちがどんどん自分の心を支配していきました。そして、それが誰もがそうであるからこそ周囲の人に気持ちを打ち明けられないのも事実だと思います。医療従事者が同じ医療従事者に悩みを打ち明けても、とりあえず頑張るしかないと答えが返ってくるのは明白ですからね。そんな、心と体力をすり減らす生活が続きました。
だからこそ、こうした喫茶店の様な気軽に会話ができる第三者の存在が大事になるのではないかと思っております。喫茶店のマスターとチカという2人の組み合わせを、実は多くの人が大切にしていました。純粋に自分が行っている活動を認めれくれる、そして褒めてくれる存在です。これ程コロナ禍で報われる事は無いと思っております。悩みを打ち明けたからと言って、すぐにそれが解決するわけではありません。それでも、物事は捉え方一つで見える景色が変わりますのでその切っ掛けになるだけでも意味があると思っております。コロナ禍で多くのこうした場が失われても、この喫茶店は密かに営業を続けておりました。これが、駆け込み寺ではありませんがセーフティーネットになっていたのではないかと思っております。
そしてそうした数多くの人の生き方を見たチカもまた、人生の転機を迎えました。祖国を離れ遠い日本へやってきて漫画を描くのが好きで即売会に出ることを夢に見ていた少女は、コロナ禍において自分の夢を達成しました。大好きな漫画なのに、それを発表する場が無くて落ち込む事もありました。やっと本気で打ち込み漫画を完成させたのに、自分が新型コロナウィルス陽性になってしまい即売会に出られない事もありました。一旦は筆を折るかと思いましたが、それとは逆でむしろ徹底的に漫画に打ち込む事を行いました。結果として編集者に認められプロとして連載することが叶いました。一番頑張ったのは本人ですし一番うれしかったのも本人でしょうけど、おそらくマスターもプレイヤーであるあなたも嬉しかったのではないでしょうか。きっと、他のお客さんも同じような反応をしてくれると思います。コロナ禍は必ずしも悪いことばかりではないと思いましたね。
思えば、コロナ禍は人と人との繋がりが一時的にも離れてしまった時期でもあります。そういう時って、どうしてもネガティブな方向に考えが行ってしまうんですよね。誰か他人と会話しないと自分が自分でいられなくなってしまう、それは本当の事だと思います。チカはこの喫茶店に来られたお客さんの言葉や行動に勇気をもらい、自分の夢を叶える事が出来ました。それと同時に、お客さんもまたこの喫茶店のコーヒーやマスターとチカの言葉に勇気を貰った事と思います。プロのスイマーとして世界新記録を打ち立てたイオリ、苦味のコーヒーを思い出して野球の練習に打ち込んだコタロー、チカのカッコいいという言葉に支えられたナナ、この方々は特に顕著ですね。気が付けばそれぞれがそれぞれを励まし勇気づける関係になっている、これ程うらやましい関係はないと思います。
皆さんは、コロナ禍をどのように生き抜いたでしょうか?多かれ少なかれ、苦労があった事と思います。その時の想いは、風化してないでしょうか?正解不正解が分からないながらも、コロナ禍終息に向けて努力し続けた事実は必ず人生の糧になると思っております。実際のところ、新型コロナウィルスは第5類感染症に移行しましたが消滅した訳ではありません。今でも、時々コロナウィルスに感染し休んでいる人はいますからね。忘れないで欲しいのは、そうした社会の変化があった時は自分も含め誰もが不安に思っている事、そしてその不安を打ち明けたいと誰もが思っている事です。打ち明けた事をただ聞いてもらうだけでも救われることはあると思います。この喫茶店の様に、人の気持ちに寄り添いそっと支えてくれる存在になりたいと思いました。素敵な作品をありがとうございました。