M.M たまよりひめ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
4 6 - 61 〜1 2021/5/31
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<短い夏に起きた2人の恋の物語、淡い気持ちを呼び起こさせる雰囲気を楽しんで下さい。>

 この「たまよりひめ」という作品は、同人ゲームサークルである「ClassicPink」で制作されたビジュアルノベルです。プレイした切っ掛けは、以前ClassicPinkさんの代表である小橋ハコ氏がpictSQUAREというオンライン即売会サービスにて自作ゲームオンリーという即売会を企画していた事です。コロナ禍によりオフラインでの即売会が自粛となっている昨今、このようなオンラインの即売会が当たり前になりつつある気がします。そんな新しい文化が生まれる先駆者として、私もイベントに参加した物としてとてもありがたいと思っております。そんな小橋ハコ氏もまたビジュアルノベルの製作者という事で、是非一つ作品をプレイしようと思ったのが切っ掛けです。たまよりひめというひらがなで可愛らしさを感じるタイトル、田舎の伝奇物という事で私の好物でありプレイ前から楽しみになってました。

 主人公である玉姫(たまき)は、夏が嫌いでした。何故なら、夏になると毎回祖母が住んでいる田舎に行かなければいけないからです。田舎は何もありません。宿題も終わり本も読んでしまい、退屈が嫌いでした。母子家庭という環境ですのでどうしても避けられないのですが、それでも嫌なものは嫌。今年の夏もそうなると思っておりました。ですが、今年の夏は玉姫にとって特別な夏でした。ふと見つけたあぜ道とその先にある小さな祠、そこで一人の少年と出会いました。名前はソウシ、白髪に赤い瞳と特徴的な外見をしておりその姿に見入ってしまいました。ソウシは玉姫に3つの約束をしました。誰にも言わない・夕方になる前に帰る・僕より先にこの場所から去る、玉姫はその約束を守り、ソウシと楽しい夏を過ごしました。ですけどそれも8月で終わり、別れの時に玉姫とソウシは紐飾りと球飾りを交換します。また再び、2人が再会出来る事を願って。

 田舎の伝奇ものという事で、柔らかいBGMと淡い背景が印象に残りました。立ち絵のある登場人物も玉姫とソウシ、そして祖母の3人しかおらず洗練されている印象でした。田舎が何もなく退屈な場所であるとは思っておりませんが、少なくとも玉姫にとってはそうであったんだろうなという事が彼女の視点を通して表現している気がしました。玉姫とソウシの会話はどこか儚げで、触れたら割れてしまいそうな危うさを感じました。それだけ神聖であり不可侵である事、だからこそ私たちは彼女達の生き方を見守るしかできないんですね。この作品は乙女ゲームであり恋愛ものです。小さな出会い方始まった2人の物語が、どこに着地するのか温かく見守りましょう。

 プレイ時間は私で45分くらいでした。この作品には選択肢があり、エンディングも複数あります。全てのエンディングを見るとおまけが解放され、設定など見る事が出来ますので是非挑戦して欲しいですね。もしかしたら、物悲しいエンディングが待っているかも知れません。ですがそうであったのならそれもまた運命、偶然の出会いはやはり偶然だったと思うかも知れません。ハッピーエンドとは何かという事も考えさせられました。何れにしても、とても美しい雰囲気を作っておりますので是非見届けて下さい。雰囲気が気に入った方であれば絶対に気にいると思います。夏の様に短い、素敵な男女の物語でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<この2人の様に、愛に全てを捧げて物事を選べるという事はとても幸せな事だと思いました。>

 短いながらも、プレイヤーを悶えさせる要素が満載でした。個人的に素敵だと思ったのが、玉姫が離れた7年間の間ずっと彼女の事を守っていた事でした。再婚した父親が良い人だった、海外で怪我も病気もしなかった、祖母の命を救ってくれた、本当奇跡の様な出来事の連続でした。

 ですけど、一つ一つの出来事は正直奇跡的とは言えないと思います。皆さんも、良い事が起きた時は嬉しくなり神様を信じたくなりますが、悪い事が起きなかった時はそれ程ではないのではないでしょうか。普段漫然と生きていると、今目の前で起きている出来事が実は沢山の人の努力による物である事に気付きにくいと思います。例えば、普段電車が送れずに時間通りに動いているという事、水道水が普通に飲めるという事、食べ物が帰るという事、普通の事ですがこれが普通に思えるまでとても長い年月と多くの人の努力がありました。こうした小さな事に幸せを感じる事が出来たら、どれだけ人生を楽に生きる事が出来るでしょうね。

 ましてや、玉姫に奇跡を重ねてくれたのはソウシの力一つでした。7年間玉姫に奇跡を与え続けてくれたことで、虹色の球飾りは灰色にくすんでしまいました。それでも、ソウシのおまじないがあれば再び虹色を取り戻せます。ですが、そうした奇跡的な力が無限大にあるはずがありません。徐々に神が黒くなっていくソウシ、そしてそれに合わせて苦しそうに振る舞う様子が印象的でした。特に最後、祖母を命の危機から救ったのは誰が見ても紛れもない奇跡的な出来事。これが引き金となりソウシがこの世に居続ける事に限界を迎えてしまいました。それでも、ソウシは決して後悔してませんでした。何故なら、自分が愛する人を救う事が出来たのですから。

 この物語を作っているのはたった一つの真実、玉姫とソウシの愛だけでした。玉姫はソウシを好いておりましたし、ソウシは玉姫を愛していまいた。人間と神様という違う立場でも、確かに2人は相思相愛だったのです。後は、玉姫の覚悟一つでした。愛する人と一緒に居続ける代わりに人間としての生活を終える事が出来るのか、その覚悟が問われました。正直言って、今までの生活を恋しく思うのは当たり前だと思います。例え好きな人だからと言っても、その人の為に全てを投げ打つ必要はないと思います。何よりも、ソウシが玉姫の気持ちを理解しておりました。玉姫がソウシと共にある事を躊躇った時、それが良いと言ってくれました。本当、ソウシは玉姫を愛しているんだなと思いました。例え一緒にいる事が叶わなくても、愛する人が幸せならそれで良い。美しいですしその美しさに泣きそうになりました。

 奇跡を繰り返してきた2人ですので、始めから全員幸せなハッピーエンドなど許されなかったのかも知れません。どのエンディングにたどり着いても誰かしらが悲しい思いをします。後は、玉姫がどれを選ぶかですね。人間である事を捨てて愛する人と一緒になるのか、愛する人と永遠の別れて人間である事を選ぶのか。凄いですね、こんな究極の選択が目の前に現れたら、そして自分の意志で選ぶ事が出来たら、私はどうするんでしょうね。どこまで相手の事を信じられるか、その覚悟が自分にあるのか分からないですね。ゲームであれば、選択肢を選ぶだけで簡単に先に進む事が出来てしまいます。気に入らなかったら戻る事が出来ます。ですけど、現実はそんな事はありません。だからこそ、真剣に考えるんですね。この2人の様に、愛に全てを捧げて物事を選べるのはとても幸せな事だと思いました。ありがとうございました。


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