M.M オレは少女漫画家R




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 7 88 10〜12 2020/1/31
作品ページ(なし) ブランドページ



<ドタバタコメディな明るいテンションの中で、是非自分の好きなものに想いを巡らせてみて下さい。>

 この「オレは少女漫画家R」という作品は、かつて存在し現在は解散したメーカー「Giza10」で制作されたビジュアルノベルです。この作品をプレイした切っ掛けは、私のHPで行っているキリ番を踏んだ方やTwitterでたまに行っている「私が次にプレイする作品を当てる企画」で正解した方によるリクエストです。基本的に私がビジュアルノベルをプレイする切っ掛けはフィーリングです。パッケージの表紙であったりTwitterでたまたま見かけたり、その時に琴線に触れた物をどんどんプレイするスタイルとなっております。ですが、それだけではなく第三者が勧めた作品をプレイする事で間違いなく見識が広がる事も自覚しております。そういう意味で、定期的にそういった作品をプレイし新しい作品を知っていきたいと思っております。そして今回リクエストあった作品が「オレは少女漫画家R」という作品だったという事です。雰囲気はドタバタコメディの様ですが、どんな物語が待っているのか楽しみでプレイし始めました。

 主人公である神尾賢二は、伊集院アリス(変更可)というペンネームで少女漫画を描いている学生です。夢は少年漫画でも少女漫画でもない全人漫画家になる事であり、コミックチャームという習慣少女漫画誌でシンデレラ☆ガールという作品でデビューし人気漫画家となっておりました。ですが最近は打ち切り漫画家という悪名を拝命してしまい鳴かず飛ばずという状態です。そんな崖っぷちな神尾賢二が打ち出した作戦は、何と女装して天才美少女漫画家として売り出す事でした。姉であり敏腕編集者である神尾千佳、幼馴染であり毒舌ながら非常に高い技術を持つ羽鳥ヒスイ、クラスメイトであり同じコミックチャームで連載漫画を描いている秋月凛菜、新人声優であり後に神尾賢二と繋がりを持つ元気な少女高杉ハルカ、クラスメイトであり漫画は一切読まない委員長柴堂楓、その他様々な登場人物によるドタバタコメディ、そして漫画を通して好きなものを語る物語が幕を開けるのです。

 この作品の特徴ですが、とにかくテンションが高く展開が早いです。基本的に主人公は明るい性格ですし漫画を描く事に情熱を持っております。そしてその他の登場人物も自分の信念を持っており、基本悪人はいませんので見ていてとても気持ちが良いです。テンションの高さにどんどんクリックして先に進んでしまうと思います。動きの演出もとても抱負で、立ち絵にもエモーショナルバルーンが多数登場しますので飽きることがありません。総合的に技術が高く、普段は同人ビジュアルノベルをプレイしている私にとって十分過ぎる位のシステム周りの整い具合でした。

 そしてこの作品の最大の特徴は、自分で書いた絵を実際に主人公の描いた漫画にする事が出来るという事です。物語が進んでいく中で主人公は幾つかの漫画を描くのですが、そのタイトルや表紙絵、デザインをある程度カスタマイズする事が出来ます。特に凄いのが表紙絵でして、ゲーム内のサンプル画像だけではなくPCに保存してある画像ファイルを選択する事が出来るのです。これによって、本当に自分が書いた絵が漫画になったように見せる事が出来ます。これは嬉しい機能だと思いました。私はクリエイティブな事はしておりませんのでサンプルを幾つか組み合わせるだけでしたがそれでも十分制作している感じがありました。だからこそ、是非絵を描いている方はこの機能を使って自分だけの漫画を作ってみて下さい。

 プレイ時間は私で11時間20分でした。選択肢はありませんが、途中どのヒロインとのエピソードを読むかを選択する事によって自然と個別ルートに展開していきます。その為目的のヒロインのルートに行くのは非常に易しいので、是非お気に入りのヒロインから攻略して頂ければと思います。何よりも、それぞれのヒロインとの関係を深めることで主人公自身が漫画を描く目的を見つけていきます。そんな姿を見て、是非創作する事や好きな事について一度想いを巡らせてみて下さい。そして、何か今自分が行っている事や好きなものについて考えてみて下さい。必ずや、彼らの行動から感じる物があると思います。是非全ての創作に関わっている方、そうではない方でもプレイして頂きたいです。非常にオススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<普通に生きれないのはもう仕方がない。だって、それでしか自分は生きられないのだから。>


「世間はあんなに広いのに、生きられるのはこの狭い空間だけ。」
「ああこれだ。これなんだな。これしか無かったんだ。」


 この作品、どのシナリオを切り取っても名言ばかりで正直胸が震えっぱなしでした。「好きなことの真ん中にいて何が悪い!」とか、誰もが拍手喝采したくなるセリフだと思います。それでも一番自分の中で堪えたのは、ヒスイルートの途中にあったこのセリフでした。漫画家という修羅の道を辞め、普通の学生の様に過ごしていた賢二。ですが、もう賢二はそんな普通の生活で生きる事は出来なかったのです。出来るのは、人には理解されない狭い空間だけ。漫画を描く事だけが自分の生きる道だと気付けた賢二は、本当に幸せだと思いました。

 少し自分の話をしようと思います。私もこのHPを運営して今年て14年目に突入しております。現在34歳ですので、もう人生の40%はレビューを中心としたHP活動を中心になっております。それこそ私がHPを開設した2006年は、ブログブームやmixiなどが流行っており私以外でも世の中に発信している人が当たり前にいました。ですがそれも一過性のものであり、普通の人はブームに乗ってTwitter・Instagramに流れたり、そもそも自ら発信する事無く世の中のコンテンツを消化する日々を送るようになっていきました。いつまでもこんな古臭いHPを運営していたり、ましてや同人ビジュアルノベルのレビューを年間100本も書くなんて、正気の沙汰ではないのです。

 実は私も、いわゆる普通の人生というものに憧れをもっております。普通に就職する事は出来ておりますが、恋愛して結婚して子供を作り家族を持つ事は、現時点では出来なさそうです。努力不足と言われればそれまでなのかも知れませんが、努力をしてまで普通の人生を送りたいとはどうしても心の底から思えませんでした。もしかしたら、自分は普通の人間では無いのかも知れません。普通の人間の振りをした、特殊な人間なのかも知れません。その事に気付いた時、非常に切望しまた覚悟を決めなければいけないんだなとも思いました。そんな私にとって、このヒスイルートの賢二のセリフは涙が出る程励まされました。

 どうやら自分はビジュアルノベルが好きらしいですし、そしてそのレビューを書く事が好きらしいです。その事は間違いありませんが、それ以外の普通の人が楽しんでいるような趣味についてそこまで深くのめり込む事は出来なさそうです。ですけど、それでも構わないんだという事をこの作品から教えて貰った気がします。賢二は、漫画を通してでしか自分の想いを伝えることは出来ませんでした。言葉でも手紙でもなく、漫画ででしか伝える事は出来ませんでした。何故なら、それが賢二だからです。幸い、賢二の想いはコミックチャームを通じて世の中の多くの人に伝わる事となりました。もちろん賢二の努力があったからですが、それこそ漫画のような展開でドラマティックに物語は進んでいきました。何が言いたいのかと言いますと、普通の人は賢二のように自分の好きなものを多くの人の目に触れてもらう事は出来ないのです。

 これまで様々なサークルさんの作品に触れサークルさんに触れて来ましたが、その中で世の中的に話題になる作品を作れるサークルさんは1%もありません。Twitterでバズる事なんて、決してあり得ないのです。ですけど、貴方が作った作品を見てくれたり読んでくれる人は果たして0人でしょうか?きっと0人ではないと思います。1人以上は絶対にいると思います。私は思いました、たった1人でも伝わった方がいたのなら、それだけで幸せなんだと。楓ルートにて、賢二も多くの人に支持されておりました。ですが彼がメッセージを発信したかったのは、楓ただ1人でした。漫画を通してコミックチャームを利用して、ただ1人の人に伝えるためにメッセージを作ったのです。同じだと思いました。賢二のような有名漫画家も、島サークルで1人でサークル参加している方も、1人の方に伝えたいという想いは同じだと思いました。

 何よりも、賢二はもう漫画でしか自分を表現できないのです。私も、レビューでしか自分の価値観を語ることは出来ないのです。人が作った作品を読んで自分の人生観と照らし合わせてそれを文字に起こす、これしかどうやら自分が幸せになる方法は今のところ無さそうです。そうであるのなら、このままでも良いんじゃないかと思うようにしました。たとえ結婚出来なくても子供が出来なくても家族が出来なくても、普通の人がするような事が出来なくても良いんじゃないかと思うようにしました。たった1人でも私のレビューを読んでくれたら、もうそれだけで幸せです。たった1つのいいねやリツイート、HPのカウンターの数字が1つ回るだけで救われるのです。好きなものはずっと好きでありたい、それも出来るだけ健やかな形で、それが今の私の願いなんだと改めて気づきました。

 そろそろ閉めようと思います。漫画を描く事を通じて自分らしさを表現する事の大切さを情熱的に伝えてくれました。たとえ普通の生活でなくても、結果として報われないとしてもそれを貫き通す事でしか生きていけない、そんな不器用な主人公の生き様を見させて頂きました。秋月凛菜ルートの、最後の神尾組はもう熱血の最高峰みたいな展開でしたね。たった一つの目的のために全員で協力して完成させるなんて、こんな素敵な青春はありません!どのヒロインのルートでも、誰もが自分らしさを求めて一生懸命生きておりました。私も、そして皆さんも、是非自分らしさや自分だけの幸せを求めて欲しいなと思いました。たとえそれが茨の道だとしても普通の人に理解されなくても、きっと1人は見てくれる人はいるはずですので。ありがとうございました。


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