M.M 少女綺想奇譚


<箱いっぱいに詰まったお菓子を無邪気に掴み取る感覚をあなたは覚えていますか?>

 この「少女綺想奇譚」という作品は同人サークル「CORONA BIANCA」で制作されたビジュアルノベルです。私が初めてこの作品に出会ったのはCOMITIA108で同人ゲームサークルを回っている時でした。この時のCOMITIAにはノベルゲーム部というサークル部活動も参加しており、その中に所属していた「CORONA BIANCA」さんのブースを訪れた時に手に取りました。油絵のような画風で描かれた小さな少女の絵はそれだけで現実離れした印象を抱き、是非プレイしたいと思い今回のレビューに至っております。感想ですが、現代社会の中でどこかに忘れてしまった大切な想いというものを思い出すかのような温かい物語でした。

 主人公である陽菜は小学五年生です。昔のとある出来事がきっかけで内向的な性格になり、クラブ活動や委員会活動にも参加せず毎日家に帰ってネットゲームをしたり絵を書いたりして生活をしていました。それでも心の中では明るい性格になりたいと思っているのですがどうしても行動に移せず、いつも友達である洋の社交的な様子に甘えてしまっていました。そんな陽菜ですがある日登校したら靴箱の中に1枚の手紙が入っている事に気がつきます。この事が何か新しいきっかけになるかも知れない、そう思って待ち合わせ場所に居たのはありすと名乗る1人の小さな少女でした。物語はそんな日常的な場面から一気に不思議で幻想的な雰囲気に向けて進みだします。

 公式HPでも書かれておりますが、この作品のテーマは「初めて友達ができた時のきらきらと輝いていたその瞬間を思い出す事」だと思っております。小学生の時なんて、自分自身がどのような気持ちだったかなんて今更思い出せないと思います。たとえ思い出せても、もう大人になってしまった我々にとってそれはもう二度と取り戻せない物になっていると思います。それでも確かに自身が少年少女だった時に歩んだはずですし、その時に決して忘れてはいけない大切な想いを学んだはずです。現代社会の中でどこかに忘れてしまった大切な想い、この物語を読むことでそのひとかけらでも掴むことができたら幸いです。特に意識せずただ物語を読んでいけば良いと思います。テーマは何かとか考えず、プレイヤーの方には是非純粋に陽菜とありすの出会いを見届けて欲しいですね。

 プレイ時間は私で1時間30分程度でした。文庫本一冊にも満たない非常に短い物語です。そんな小さなお菓子箱のようなサイズの物語ですが、中には箱いっぱいに甘いお菓子が詰め込まれております。子供であれば喜んで手を伸ばし手いっぱいに掴み取るお菓子、大人になればちょっと遠慮しながら一つずつ食べて蓋を閉じるお菓子、是非この物語を読み終わったとき、箱の中のお菓子が気がつけば全て無くなっている様な感覚になっていたら大成功ですね。それ程までに綺麗で忘れてはいけない想いが詰まっておりました。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<「そうだね」「ありがとう」「またね」といったありふれた言葉をちゃんと声で相手に伝えるという事の大切さ>

 陽菜とありすは約束を果たせたんですね。時間は掛かりましたが、何年もの時間を経て2人は再開することが出来ました。あの後リボンを返せたのかどうかは書かれてませんでしたが、ありすの想いは世代を超えて間違いなく陽菜へと伝わってきっとリボンを交換できたのだと思います。お互いがあの時の大切な友達だと気づけなくても、心の底ではきっと繋がっているのだろうと思いました。

 この作品で伝えたかった事は「そうだね」「ありがとう」「またね」といったありふれた言葉をちゃんと言葉で相手に伝えるという事の大切さだと思っております。内向的な陽菜はどうしてもそんな囁かな言葉を口にすることすら緊張して出来てませんでした。と言うよりもそんな囁かな言葉を口にする事にどれほど大切な意味を持っているかを知りませんでした。それを教えてくれたのがありすであり、彼女の裏表のない素直な性格は自然と陽菜の心のバリアも溶かしてくれました。きっとEDで陽菜とありすが再開できたのは、陽菜がちゃんと自分の言葉で「ありすちゃんと一緒がいい!」と言ったからだと思っております。そしてそんな陽菜の想いに対してありすもまた「私が死ぬその日まで、諦めないで待ってるよ」と言葉にしたから、再開できたのだと思っております。これは奇跡でも何でもありません。ただ、陽菜とありすが約束した事を叶えただけでした。

 そしてこの言葉にすることの大切さを、ありすは自分の為ではなく陽菜の本当の友達の為に使って欲しいと願いました。陽菜もありすも分かってました。2人は本来この年齢で出会ってはいけないという事に。そしてありすと別れて友達のもとに帰ると決心できたのは2人の間に確かな友情があったからだと思っております。内向的で何にも興味がない昔の陽菜であればダダをこねてでもありすの傍から離れようとしなかったのだと思います。でもありすのおかげで気が付くことが出来ました、洋という掛け替えのない友達がいるということに。それに気づかせれくれたありすの頼みであれば、陽菜は断る事は出来ませんね。山を降りた陽菜は自然と「ありがとう」や「そうだね」や「らはははは!」といった笑い声を声に出してました。そのおかげで洋だけでなく福沢さんとも仲良くなれました。きっとありすのおかげでその後えりかとも仲良くなれたんだと思いますね。そしてありすとの再会、とても美しい物語だと思いました。

 後は特にBGMと効果音にこだわりを感じました。BGMはピアノを中心とした優しいサウンドで陽菜とありすの2人だけの世界を演出していたと思います。というよりもタイトル画面のBGMが実は私は大好きで、過去にプレイした「ひまわり」という同人ビジュアルノベルに使われていたのを即座に思い出して懐かしく感じてました。そしてそれ以上に効果音に感動してました、車の音、ドアの開け閉め、紅茶を注ぐ音、足音などとにかく音がリアルで作品の雰囲気に引き込まれました。後は何よりも陽菜とありすの絵ですね。余り変わらない身長差で書かれたあの絵が余りにも気持ちがこもっていて、どうしてこの2人は離れなければいけないのだろうと涙が出そうになりました。BGMと効果音、そしてCGと全ての要素が陽菜とありすの美しい世界を作っていたんだなと改めて思っております。ありがとうございました。


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