M.M Summer×3


<明るい雰囲気とほのぼのとした世界観が魅力の同人ゲームらしい作品>

 この「Summer×3」というタイトルは同人サークルである「LLERIA」から発売された作品です。私が初めてこのサークルを知ったのはC81の時でして、フルボイスであり完成版でありながら無料配布という事に驚いたことが印象に残っております。明るい雰囲気のパッケージに描かれた魅力的なキャラクターに惹かれ、購入から1年以上寝かせてしまいましたがようやくプレイする運びとなりました。感想ですが、思春期の青年達が一歩前に進むために決断する成長物語でパッケージ通りのほのぼのとした内容でした。

 このゲームの時代は現代よりも昔の時代になります。明確に何時代かははっきりと設定されておりませんが、一部のお金持ちしか自動車を持っていない事や外国との定期的な物流を行っているところから想像しますと恐らく明治〜大正の時代かと思われます。それでも庶民の生活には電気やガスや水道などのインフラは整備されておりませんでしたので、舞台は恐らく田舎の宿場町の様なイメージかと思います。当時の時代背景について私はあまり詳しくはないのですが、作中での雰囲気は統一されておりましたので特に疑問を持つことなくすんなりと世界観に慣れる事が出来ると思います。物語はそんな時代で日々平凡に過ごしていた主人公のところに外人の女の子がやってくるところから始まります。

 この作品は主人公を中心とした登場人物のボーイミーツガールです。世代も近い男女5人が物語の中心であり、何かしらイベントやハプニングがありながらも基本的に明るい雰囲気の中での日常が描かれております。この作品の特徴として、物語の中心にいる男女5人のみならず町の人々全員が顔見知りであり気の知れた間柄であるという事が挙げられると思います。男女5人はまだ未成年でありまして、そんな若者を町全体で支えていこうという優しさを感じる事が出来ます。いわゆる「地縁血縁共同体」という日本独特の文化が息づいており、ほのぼのとしながらもどこか懐かしい気持ちを感じる事が出来るかも知れません。

 そしてこの作品が売りにしているポイントとしてやはり登場キャラクター全員がフルボイスという事が挙げられると思います。同人ゲームにとってはそもそも声が入っている作品自体が貴重であります。ましてやメインキャラクターだけでなく脇役も含め全てのキャラクターに声があるという事はかなりすごい事です。この作品、脇役のキャラクターが非常に濃い事も特徴ですがそんな濃いキャラクターの雰囲気に合った声を当てております。時間に余裕がある方であれば是非オートプレイで折角収録された声を聴いてみては如何でしょうか。

 とにかく明るい雰囲気とほのぼのとした世界観が魅力でした。プレイ時間的には決して長くなく私で6時間程度で全EDを見ましたので、ちょっとした時間潰しの感覚でプレイされると良いのかなと思います。昨今の同人ゲームはクオリティも商業ゲームに負けないものが出ておりますが、この作品は良い意味で商業ゲームでは出せない雰囲気を持っていると思いました。冒頭でも書きましたが無料です。公式HPでダウンロードできますので、興味を持たれた方は是非プレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<主人公が一歩前に進みヒロインと結ばれてさあこれからだ!・・・・・・あれ?これでED?>

 短いながらも明るい雰囲気とほのぼのとした日常が上手く表現された作品でした。途中不安にさせるイベントもありましたが最終的にはハッピーエンドでしたので終わりよければ全てよしという言葉がしっくりきました。ただその終わりが私にとっては「むしろこれからだろう!」と思うところでしたので、何となく物語としては中途半端な印象になってしまったところは否めませんでした。

 4人のヒロインに共通するポイントとして主人公の成長がありました。今までの友達関係を壊したくない、誰も傷つかずに平凡に過ごしたいと思っている主人公とは裏腹にヒロインたちは主人公と一歩前に進んだ関係に行きたいと思っておりました。こういった展開はボーイミーツガールでは典型的ですね。大事なところは主人公が自分の気持ちに整理をつけて本当の意味で相手の気持ちを考えて一歩前に進む事です。この作品ではそんな主人公の葛藤する様子を見る事が出来ました。

 ですが、それは主人公とヒロインにとってはようやくスタートラインに立ったという事だと思います。ここから2人の人生がスタートし、その後様々な物語が展開されるのだと思うのです。ですがその「これからだ!」と思ったところでスタッフロールが流れましたのでリアルに「終わりかよ!」と叫んでしまいましたね。別に主人公とヒロインが結ばれる事で物語を終えても構いませんしそんな作品もたくさんあります。私が「終わりかよ!」と叫んだ理由は共通ルートの長さと比較して個別ルートの展開があまりにも速く、シナリオ全体のバランス的に主人公とヒロインが結ばれてからもう少し物語が無いとバランスが悪いのではないかと思ったからです。

 そして個別ルートの展開の速さについてですが、ルートにとっては結構無茶なご都合主義な部分も見受けられました。大財閥のご令嬢と結婚する輩に対してあんな条件をまじめに出す父親がいるとは思えませんし、その刀もたまたま通りかかった侍が落としたものを持っていくというのは主人公の成長を感じるには不十分だと思いました。記憶喪失で他人に対して恐怖を感じていた胡桃でしたが、丘に連れていく時だけキャラクターが変わったみたいに警戒心が無いように感じ違和感を覚えました。千年についても母親が病弱でありエンディング直前で倒れていたはずですが、その後の描写が無く主人公と千年が結ばれて終わりというのも投げっぱなしと思われても仕方がないと思います。

 折角明るい雰囲気とほのぼのとした世界観を作り出しておりますし、魅力的なキャラクターばかりですのでもう少し個別ルートのシナリオについて急がず丁寧に描いても良かったのではないかと思いました。そして、やはり主人公とヒロインが結ばれてからのエピソードが欲しかったですね。特に私としては胡桃と主人公はどうやって子供まで設けたのかは知りたかったです。余命も短く一日で記憶を失ってしまう胡桃とどのように結ばれたのかは表現して欲しかったですね。そういう意味で完全クリアはしましたが中途半端な印象になってしまってますので、可能であればアフターストーリーの制作を期待したい所ですね。そんな作品でした。


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