M.M 悪魔がくれたモノ
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 7 | - | 77 | 2〜3 | 2017/1/27 |
作品ページ | サークルページ |
<死生観という重いテーマに悩み苦しみ、そして選択していく若い彼らを是非最後まで見守って欲しいですね。>
この「悪魔がくれたモノ」という作品は同人サークルである「みるみるそふと」で制作されたビジュアルノベルです。みるみるそふとさんの作品をプレイしたのは今作が初めてでして、C91の一日目に同人ゲームサークルの島を回っている時に手に取らせて頂きました。ジャケットの正面には白を基調とした可愛らしい少女の姿。ですがこの作品のタイトルは「悪魔がくれたモノ」です。黒い羽が生えているという事できっとこの子が悪魔なのだと思います。そして裏に書いてあるあらすじを見ますと、何やら死生観を扱った作品のようです。果たして悪魔のイメージ通りのキャラクターなのか、それとも見た目のイメージ通りのキャラクターなのか。プレイ前から想像が膨らんでおりました。
主人公である柳和馬はどこにでもいる普通の高校生です。幼馴染である霧島このみや中学からの腐れ縁である君嶋深琴達と一緒に平凡ながらも楽しい学生生活を送っておりました。ですが、人生は一寸先は闇。そんな平凡な日常もふとした切っ掛けで崩れてしまいます。この日はたまたま人身事故で学校に行く列車が立ち往生してしまいました。その為急遽このみの母親の車で学校へ向かうために道路で待ち合わせする事に。やってきた母親に向かって駆け出すこのみ。その時向かってくる一台の車。信号は赤、それでもスピードは緩まない。そんな姿を見ていた和馬にひとつの声が降ってきたのです。「……助けてあげよっか?」。それは天使の救いのようでいて、悪魔の囁きにも聞こえたのでした。
この作品が取り扱っているテーマは死生観です。悪魔であるヒロイン朱莉によって命を救われたこのみ、ですがその代償がこのみの生を願った和馬に降りかかる事になります。失われるはずの命が救われたのです。輪廻の流れを崩した代償はとても大きく、その事で今後和馬は大きく悩むことになります。ネタバレになりますのでここではその代償の中身は言えませんが、元々楽観的であり人生について悩んでいなかった和馬が初めて生と死というものについて向き合うのです。分からないながらも一生懸命考えてどうしたら誰もが幸せになる結末を迎える事が出来るか悩む姿は心に突き刺さる物が有り、素直に応援したくなります。果たして和馬、このみ、深事、そして悪魔である朱莉の4人の関係はどうなるのか、是非最後まで見届けて欲しいですね。
特徴としてはやはりキャラクターが挙げられますね。3人とも属性も雰囲気も違うキャラクターで魅力的なのですが、シナリオ上でも3人誰もが欠ける事が許されず立場や見せ場が用意されております。そしてこの作品には幾つか選択肢がありましてそれによってEDも変化していくのですが、それはいわゆる美少女ゲームの様に個別のルートがある訳ではありません。主人公とヒロイン3人が全員悩み苦しみ、そして選択した先に複数のEDが待っているのです。是非主人公を含めた4人の気持ちに寄り添って頂き、彼らの選択を見届けて欲しいと思います。またプレイ時間の長さに対してCGの枚数は比較的多く、シナリオを盛り立ててくれます。背景やBGMはフリー素材ですが、場面にあったものが使われております。
プレイ時間は私で2時間10分程度掛かりました。上でこの作品には複数のEDがあり選択肢があると言いましたが、どの選択肢も和馬が悩み迷っている部分ばかりです。プレイヤーの皆さんもきっとどれを選べばいいのか大いに悩むところだと思います。だからこそ選んだ選択の先に待っているEDを噛み締めて欲しいですね。死生観という非常に難しいテーマを扱った作品です。例え自分の思い通りのEDでなかったとしても、決して彼らを責めることなく受け入れてあげてください。それがきっと、彼らにとっての一番の幸せになると思います。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<最後に残された私達プレイヤーもまた、時間が掛かってもいいのでこの作品を心で整理しなければいけませんね。>
…やっぱりどうしても寂しくなってしまいますね。自分で死を選んでも余命精一杯生きても残された人が悲しみますし、自分の存在を全て消しても朱莉と私達プレイヤーが悲しみますもの。死というものは本人だけではなくそれに関わった全ての人に影響を与えます。それでもやっぱり死んでしまう当人が、どう生きるかを最優先にしてその後の人生を選択して欲しいものです。
この作品は本当に様々な視点から死というものを見つめておりました。このみを助けて欲しいと願い朱莉と契約して余命1ヶ月となってしまった和馬。始めは自分の置かれた状況を楽観視しており、ただ楽しく過ごせば良いとそこまで深く考える事をしませんでした。ですが、徐々に余命が近づいてきて改めて自分の死というものを見つめ直したとき、初めて「どのように死ぬか」という事を真剣に考え始めました。ギリギリまで生きて楽しい思い出を紡ぐのか、やりたい事をやったら後は潔く死を選ぶのか、それとも自分の存在そのものを無かった事にするのか。本作で描かれた3つのED、きっと正解なんて無いのだと思います。そうであるなら、せめてプレイヤーである私達くらいは和馬の選択を認めなければいけませんね。彼が短い時間の中で必死になって考えた結論なのですから。
ですが残された人たちにとってはそう簡単な話ではありません。どれだけ和馬が納得していてもそれは和馬だけの話。和馬の意思を最も尊重するべきだと頭では分かっていても、心はそう簡単に納得しれくれないと思います。中学時代から知り合い和馬の腐れ縁として過ごしてきた深琴。彼女が和馬に恋心を抱いていたかは分かりません。それでも一生会えなくなるのはどうしようもなく悲しいですし、それが涙となって現れたのだと思います。加えて深琴はこのみの気持ちも知っておりました。自分の気持ちよりもこのみの気持ちを優先したのです。それは深琴の優しさですが、本当は自分が和馬の一番になりたかったのかも知れません。それでも和馬は自分に相談してくれました。これだけでも救われたのではないでしょうか。中立の立場としての苦悩、深琴の涙にはそんな様々な感情が入り混じっていたのだと思います。
小学校の時から11年間一緒に生きてきたこのみはもっと分かり易いですね。このみは純粋に和馬を好いておりました。加えて幼馴染ですので、離れるなんて考えがなかったのだと思います。しかしこのみは和馬が死ぬという事を聞かされてません。私が1つ心配しているのは、その場しのぎの嘘で本当のサヨナラを言えなかったこのみが和馬の死の真実を知ってどう思うかです。どうして私だけに教えてくれなかったの?どうして和馬は私を助けてと願ったの?何で深琴ちゃんだけ聞かされてるの?このみに真実を教えなかったのは和馬の優しさであり和馬の意思。それでもこのみがこの事実を整理するまで、沢山の時間を有するのでしょうね。周りが何を言っても意味がないし届かないのです。辛いですけど、乗り越えて欲しいですね。
もしかしたらこのみは和馬の死の真実を知って絶望し、自ら命を絶つかも知れませんね。そうしたらまた1つ朱莉の苦しみが増えてしまいますね。朱莉は確かに悪魔ですが、その心は人間そのものでした。例え仕事とはいえ、自分が関わって人が死ぬなんて耐えられるはずがありません。ある程度鈍感にならないとやっていけないと思います。それでも、理不尽に死んでしまった人に対する敬意を持っておりました。彼女が墓参りするのは自分が命を奪った本人ではなく自分が命を奪ったことが切っ掛けて死んだ人たち。どれだけの罪悪感を抱えているのでしょうね。和馬が自分の存在そのものを消してくれと頼んだ時、朱莉は自分だけその記憶を消しませんでした。これは朱莉なりの贖罪なのかも知れません。幼い時に願った「三人で幸せになる」という願いを叶えるため、自分が1つ業を被ったのです。やり切れませんね。あまりにも理不尽で、このレビューを書きながらまた泣いてしまいます。
もしかしたら、3つのEDを割とサラッと流したのはみるみるそふとさんのプレイヤーに対する配慮だったのかも知れませんね。全てのEDを神の視点で見続けてきたプレイヤーである私たち、では私たちの心はどうすれば良いのでしょうか。最後までこと細かに真実を書かず和馬が最後の決断をした段階で物語を終えた構成は、ある意味プレイヤーに想像の余地を残してくれます。もしかしたら和馬もまた悪魔として生まれ変わり、別の形で彼女らの前に帰ってくるかも知れません。いつまでも3人が悲しみの中に沈んでいる訳ではないかも知れないのです。もしかしたら3人で真実を語り合い、苦しみながらも納得して和馬を送り出す展開が待っているかも知れません。そうやって少しでも救われる方向に持っていかないと、少なくとも私は心を平穏にする事が出来ません。
死というものはどんな人間にも付いてくるもの。そしてそれは逃れられない運命であり、自分であろうと他人であろうと悲しみがどうしても伴います。この作品は、そんな死生観について短いながらも一生懸命考える姿を様々な視点で見せてくれました。そして私自身多くの事を考えました。いつまでも考え続けていては心がもちませんので、ひとまずはこのレビューという形で想いを吐き出しひとつの区切りとしようと思います。私が願うのはただ1つ。それはどんな形であれ4人が幸せでいる事です。プレイヤーなんて気にしなくていいので、多少整合性が取れていなくても最後はハッピーエンドが好きだなとしみじみ思いました。ありがとうございました。