M.M 好きの理由
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
4 | 5 | - | 66 | 〜1 | 2018/1/2 |
作品ページ | サークルページ |
<あなたの周りに、好きな人はいらっしゃいますか?いらっしゃいましたら、あなたは何故その人が好きなのですか?>
この「好きの理由」は同人ゲームサークルである「ぜびしゅ!」で制作されたビジュアルノベルです。ぜびしゅ!さんの作品は過去に「俺と彼女の聖域の終わりと…」をプレイさせて頂き、短いながらも素直で真剣な登場人物の頑張る姿、何よりも好きということに対して真っ直ぐに描いているシナリオが印象に残っております。改めて「俺と彼女の聖域の終わりと…」のレビューを見返したのですが、プレイ時間40分の割に3,800字以上ものレビューを書いておりました。それだけこの作品で語っていた事がストレートに当時の私に響いたのだと思います。そして今回レビューしている「好きの理由」は、もうタイトルに「好き」という言葉は入っております。真っ直ぐなシナリオを書く「ぜびしゅ!」さんが、次はどのようなシナリオを読ませてくれるのか楽しみにプレイ始めました。
主人公である工藤悟はどこにでもいる普通の男子高校生です。運動神経が良いわけでもなく、学校の成績が良いわけでもなく、取り立てて目立った特徴はありません。それでも悟の周りには、イケメンでありあらゆるスペックが高い友人竹浪甲斐がいたりとそれなりに楽しい高校生活を送っております。卒業式のシーズンとなり、周りでは男女の恋愛で盛り上がるムードが高まっておりました。悟にも気になる女の子がいまいした。それがヒロインである夏目小夜です。誰が見ても可愛く美人で、成績も学年トップクラス、まさにお姫様という形容が相応しい高嶺の花な存在でした。それでも甲斐のアドバイスの通り当たって砕けろの精神で告白しました。そうしたら、なんとOKを貰えたのです!何よりも戸惑ったのは悟本人。それからちょっとぎこちない2人の付き合いが始まります。
この作品は、とある高校生の男女が出会い告白し付き合う様子を描いた物語です。本当にそれだけです。特別奇跡が起こることも超展開が待っていることもありません。当たり前の日常が当たり前に描かれているだけです。ですが、だからこそテキストの一文一文、セリフの一語一句に製作者の気持ちが入っていると思いました。悟は本当に取り立てて目立った特徴がある訳ではありません。ですがそれは裏を返せば暗い性格や弄れた性格でもないという事です。実に男子高校生らしいノリと、人並みの決断力を持っております。この作品は、特に男性であれば出来るだけ悟に寄り添い自分自身の当時の思い出と照らし合わせて読んで欲しいですね。…いや、照らし合わせると逆に凹むかも知れませんね。そしてヒロインである小夜は何故悟の告白を受けたのでしょうか?この作品はその理由を探すことが1つの到達点になります。小夜についてはここではこれ以上話しません。彼女がどんな女の子なのかは、自分の目で確かめて下さい。そして、彼女の視点から改めて悟の事を再発見してみて下さい。
プレイ時間は私で30分くらいでした。選択肢もなく、あっという間に終わってしまいます。本当、サークルさんが書きたいものをギューッと凝縮したんだなという印象でした。長すぎず短すぎず、多くの部分をプレイヤーに委ねている側面もあります。ただ、テキストだけを読み受け身でいるだけだと得るものは少ないかも知れません。悟が何故小夜と付き合えたのか、小夜が何故悟の告白を受けたのか、それがこの作品のタイトルにもなっている「好きの理由」に繋がります。皆さんも生活の中で多くの人達を触れ合っていると思います。そんな触れ合っている人に、好きな人はいらっしゃいますか?これは男女の好きだけではありません。例えば、尊敬する上司・一目置いている同僚・目を掛けている後輩などはいらっしゃいますか?いらっしゃいましたら、あなたがその人を気に掛けている理由はなんですか?この作品をプレイすれば、そんな事に対する答えが見つかるかも知れませんね。オススメです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<好きの理由なんて、人それぞれ。>
とても甘酸っぱい気持ちになりました。香ばしい気持ちと言う事も出来るかもしれません。ホント、悟は普通の男子高校生を代表したような性格だと思いました。自分はイケメンでも頭が良い訳でも運動が出来る訳でもない、だからこそ美人で頭が良い彼女に釣り合うように頑張りたい。本当、素直な性格だと思います。だからこそ、小夜は悟の事を好きになったんですね。
よく言われる話に、自分が思っている自分の魅力と他人から見た自分の魅力は違うという話があります。自分はここが魅力だと思っている事よりもずっと良いところがある、それは他人から言われなければなかなか気付く事が出来ません。最近読んだ本でも、婚活の場では本人同士よりもそれぞれの友人から紹介された相手同士の方がマッチングが成立するとありました。友人の視点で見た魅力ですので当然他人にとっても当てはまる事が多いんですね。何が言いたいのかといいますと、人が人を好きになるのに理由なんてないという事です。
悟は他人のために自分を犠牲にする性格を持っておりました。そして、動物でも植物でも気になった部分から目を逸らせない性格でした。自分ではそんな性格邪魔になるだけと思っております。まあ、男子高校生ですからね。そんな地味な行動よりも部活で活躍するとかテストで1位になるとかの方がよっぽど憧れるのだと思います。勿論そんな目に見えやすい部分を好きになる人もいると思いますし、それが自然かも知れません。ですが、悟のそんな地味な行動を小夜はしっかりと見つけておりました。小夜にとって、悟のそんな地味な親切心が一目惚れする理由だったんですね。
小夜は自分が可愛いという事を自覚しておりました。私にとって、こういうヒロイン像はちょっとした驚きでした。大概のビジュアルノベルって、自分を可愛いと思っていない天然系の美少女な姿をよく見かけます。そして「いやいやお前可愛いから!」というプレイヤーの心の突っ込みまでが様式美です。ですが、現実においては自分が周りよりも可愛いって割と普通に思うと思います。それは別に悪いことではありません。ただ、口に出さないだけです。慎ましさと言えば聞こえはいいですが、そういった自分の武器をちゃんと自覚しているからこそ悟に惚れられる事を活かしたデートだったなと思っております。
そんな悟が自分の可愛さに惚れたことを知っているからこそ、小夜は折に触れて「あたしが好きになった自分に自信を持ってください」と言います。時には自分の可愛さを武器にして「こんな可愛いあたしが惚れたんだから自信持ってください」とも言います。これって、人によっては「なんだこの女?自分好きなんか?」と思うかも知れません。でも、悟はそんな事は思いませんね。それを知っているからこそ、小夜はそれこそ必死で悟の事を励まそうとしたのです。傲慢なんかでは決してありません。これは、悟と小夜だからこそ成立しますし悟と小夜以外に聞かせても意味のない言葉なのです。
悟は小夜の可愛いところを好きになりました。小夜は悟の優しいところを好きになりました。もしかしたら、付き合っていく中で好きになる理由が変わるかも知れません。それによって嫌いになるかも知れません。でもそれは今考えることではありません。大切なのは、自分が相手を好きになった事に自信を持つこと。そして自分を好きになってくれた相手を信頼する事だと思いました。極端な卑下は自分だけではなく相手の事を蔑むことになります。それは、慎ましさや美的な事ではありません。悟がそれに気付くのはもう少し先かも知れません。ですが、それはきっとこの可愛い彼女が気付かせてくれると思います。いや、むしろ敢えて言わない方が良いかも知れませんね。これからの2人の関係、素直に応援したいと思える作品でした。ありがとうございました。