M.M スーサイドフェンス-Episode.1- キボウノチケット




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 - 72 〜1 2017/8/27
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<この毒で満たされた世界でどのように足掻くのか、その生き方を見つめていきたいと思います。>

 この「スーサイドフェンス-Episode.1- キボウノチケット」という作品は同人サークルである「StudioBeast」で制作されたビジュアルノベルです。StudioBeastさんの作品では過去に「J.Q.V 人類救済部 〜With love from isotope〜(以下J.Q.V)」「ちゅーそつ!1st graduation 〜ちゅーそつのTime after time〜(以下ちゅーそつ)」をプレイさせて頂きました。どちらの作品も終末世界やディストピア世界など舞台設定が非常にユニークであり、導入からプレイヤーを引き付けてくれます。もちろん掴みだけではなく綿密に練られた舞台の中で精一杯生きる登場人物達の姿も魅力的です。とりわけJ.Q.Vは本編に合わせ2つのアフターシナリオが追加され、プレイ時間も15時間を越える長作で大変のめり込んだ事を覚えております。今回レビューしている「スーサイドフェンス episode1」はそんなStudioBeastさんのサークル結成10周年記念作品であり、演出含め非常に力の入った様子が伺えました。

 タイトルにありますスーサイドとはsuisideの事、つまり自殺という意味です。そしてフェンスは学校やビルの屋上にある落下防止の柵の事です。このタイトルだけでこの作品が死生観を題材に扱っているという事、主人公が学生である事が想像できます。公式HPのトップ画面には、冬の忙しない街の中でまるでそこだけ切り取られたかのように佇む無表情の女子学生の姿があります。そしてその手には彼岸花。死の象徴をまざまざと見せ付けてくれるキービジュアルです。副題には「I KILL YOU」、もうこの雰囲気だけでプレイヤーの妄想を駆り立ててくれますね。私はStudioBeastさんの過去作をプレイしておりますのでサークル名だけで期待大なのですが、これまでStudioBeastさんの作品をプレイさた事のない方でも興味をそそられると思います。

 主人公である鈴浦司は世界から拒絶された存在でした。両親はおらず、学校ではいじめに合い、雨風を凌ぐために住んでいるボロ家では同居人に監視される生活を送っております。その為司は人を信じるという事が出来ず、常に「この世界は毒で満たされている」と思っております。司は自分の事を「自覚者」と呼び、自分を排除する存在を「透析者」と呼んでおりました。そしてついにその透析者から逃れる作戦を実行します。ここまで読んだあなたは、この司という少年をどう思うでしょうか。恐らく被害妄想甚だしい中二病全開の子供だと思うでしょう。私もそう思います。ですが、これがもしかしたら中二病ではないかも知れない出来事が起こりました。1つは突然夜の街で覆面の人物に殺されかけた事、そしてもう1つは二見加奈子という少女との出会いでした。

 世界は毒で満たされている、ではここで言っている毒とは何の事でしょうか?何か未知の物質でしょうか?思うに、これは生き難い現代に蔓延する同調圧力や空気感の事ではないかと思っております。馴れ合う事が出来ず孤立している司、自ら孤高となろうとしている加奈子、2人にとってこの社会という空気そのものが毒に思えるのだと想像できます。そして世界のルールとは何でしょうか?これも恐らく明確な文章など無いのだと思っております。世の中の風潮に合わせる事、周りの雰囲気に合わせる事、実際現実世界でもこれ程強力で絶対なルールはありませんからね。そんな世界のルール・世界のシステム・世界を満たしている毒にどう立ち向かっていくのか、非常に楽しみです。

 最大の魅力は、場面転換と効果音を効果的に活用した演出だと思っております。冒頭主人公が突然覆面の野郎に殺されかける演出、それに合わせて表示されるスタッフの名前はまるで映画の始まりを連想させます。そして立ち絵やスチルは勿論、はいけの全てがオリジナルであり本当に街を歩いている感覚を味わえます。他にもテキストのサイズや色を変え恐怖心を効果的に表現しております。世界のルールから逃げようと足掻く主人公、ですがそれがまるで蜘蛛の巣の中で懸命に蜘蛛から逃げようとする蝶々の様に滑稽に見えるのです。蝶々も分かっているのです、自分はもう助からないと。そんな自分の表の気持ちと裏の絶望感がテキストだけではなく絵・音・演出の全てから感じる事が出来ました。

 プレイ時間は私で50分でした。50分ですのであっという間に終わってしまいます。ですが2時間くらい読んでいた感覚でした。冒頭から最後まで一つの作品として良くまとまっており、休憩を挟む間も無く最後まで読み進める事が出来ました。この作品はまだepisode1です。物語は始まったばかりでどんなシナリオになるのかも結末になるのかも分かりません。それでもこの毒で満たされた世界で足掻く姿は想像できます。死生観と現代社会を題材に扱ったStudioBeastさんのサークル結成10周年記念作品です。今後どのように展開していくのか楽しみですね。


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