M.M 【Succu!!】日本編ぷらす
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
7 | 7 | 7 | 78 | 7〜8 | 2020/3/22 |
作品ページ(R-18注意) | サークルページ(R-18注意) |
<とにかく世界観を丁寧に作り、その上に登場人物を歩かせる点に拘っていると思いました。>
この「【Succu!!】日本編ぷらす」という作品は、同人ゲームサークルである「WILD☆COVERS」で制作されたビジュアルノベルです。WILD☆COVERSさんの作品をプレイしたのは今作が初めてです。サークルの代表である豪腕はりーさんとは始めTwitterでお知り合いになりました。その後幾つかのオフ会でお話させて頂き、その人柄と竹を割ったような性格は沢山の人に慕われております。元々豪腕はりーさんには「ゲームプレイしてくれよ〜」と小言のように言われてましたのでいつかプレイしないとはとは思っていたのですが、ひょんな切っ掛けでゲームディスクの方を頂く事が出来ました。きっと今やらないとまたズルズルと先延ばしするなと思い、これはきっとやれという慶事なんだと思いましたのでプレイする事にしました。パッケージを見た感じはドタバタエロゲっぽい雰囲気ですが、プレイ開始直後でそれはどうも違う様だという事に気づかされました。
時は今から200年近く未来の2206年。その世界では2度の大きな戦争が勃発し、加えて男性が生まれない謎のウィルスが蔓延し人類が衰退し始めておりました。それでもそこで生きている人に悲壮感は無く、今この現実をむしろ楽しんでやろうという気概すら感じます。主人公であるぴあのは、そんな未来にあるS&C研で働いている女の子です。仕事は一級技術師であり見た目に反して高度な技術を持っております。いつも上司であり天才的技術者であるゼラフィーネに色々な意味で弄られ、それでも確かに自分の事を慕っている実感を持ちながら楽しんでおります。この世界にはサイバーダインと呼ばれるAIロボットが稼働しております。見た目も何もかも人間と遜色なく、当たり前の様に社会の中で生きております。ぴあのとゼラフィーネの傍にはミルシェと呼ばれるツンデレ猫耳なサイバーダインがいます。こんな感じで毎日仕事をしながらHしながら楽しく過ごしておりました。ですがいい加減人口減少が深刻で、ゼラフィーネはぴあのにとある指令を出します。それは過去に行き人間の精子を持って帰る事、ここからこの作品は近未来ものからSFへと変わっていくのです。
この作品は基本的にはドタバタエロコメです。ぴあのは素直で天真爛漫ですし、ゼラフィーネは完全無欠なお姉さまですし、ミルシェは典型的なツンデレです。キャラクターがハッキリしており、そんな関係の中で日々どうでもいい話をしたりHしたりするのです。その様子は主にテキストで表現されております。この作品のテキストですが、登場人物の感情に合わせて文字の大きさが変化します。それだけではなく、重要なキーワードは色を変えております。これがなんともカラフルで且つ目立ち、きっとこのテキスト表現がドタバタ感を演出しているんですね。あと、基本的に登場人物達は技術を持っておりますので会話で扱っている題材そのものは高レベルな物です。それなのにやっているのはただじゃれ合ってHしている、この言葉遊びをしているかのような様子もまた特徴となっております。しかしそれが最後までずっと続けば流石にお腹いっぱいになってしまうというもの。途中からSF要素が本格的になってくると少しずつ物語が深くなり世界設定の疑問などが湧いてきます。勿論ドタバタ要素も残しておりますので、是非マルチな雰囲気を楽しんでみて下さい。
最大の魅力は演出にあると思っております。動画やCGなどの高度な技術を使用してはおりませんが、それをBGM・効果音・背景などを独特のセンスで組み合わせて演出を作っております。2206年という近未来っぽい雰囲気が随所にあり、フィクションのはずなのにどこかリアリティを感じました。単純にセンスが良いのだと思っております。ドアを開くなどの何気ない動作、過去に行くタイムマシンの中の描写、S&C研内を描画する背景など、細かいところまで拘って且つ使用している素材が良くマッチしていると思いました。またヒロインは基本フルボイスです。各登場人物のキャラクターにマッチしているのは勿論、言葉使いや口癖に特徴がありそれがより登場人物に愛着を持たせる要素となっております。ボーカル曲も多数あり、BGMはオリジナルではありませんが場面にマッチするものを選んでおります。とにかく世界観を丁寧に作り、その上に登場人物を歩かせる点に拘っていると思いました。
プレイ時間ですが私で7時間15分程度でした。この作品は大きく2つの編に分かれております。物語の導入から過去にタイムスリップするまでを描いた未来編、そして過去にたどり着いて精子を持ってくるまでを描いた日本編です。未来編も日本編も選択肢の数は多いですが、特に日本編は後編という事もありエンディングが幾つにも分岐します。どのエンディングも考えさせるものがあり、また全てのエンディングを見る事で小さな伏線が回収される仕掛けとなっております。是非既読スキップなどを駆使しながら全てのエンディングを確認してみて下さい。システム面で1点注意があります。この作品ですが、Hシーンでクリックするタイミングによっては画面が暗転しゲームが止まってしまいます。サークルさんに問い合わせても原因不明との頃。私の対策は、Hシーンのみオートプレイにする事です。今のところこれで上手くいっております。全体として割とボリュームたっぷりであり密度も濃いので、一気に終わらそうとはせず休憩を挟みながらじっくりと読み進めてみて下さい。楽しかったです。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<人間らしさに訴えたシナリオでした。是非彼女たちの願いが叶って欲しいですね。>
SFあり、Hシーンあり、そして純愛ありと様々な要素が組み合わさっていた非常に盛り沢山な作品でした。まだまだ伏線が回収されておりませんのでもしかしたら続編があるのでしょうか?何れにしても、人間らしさに訴えたシナリオと登場人物の真剣さが印象に残る内容でした。
この作品において人間らしさというものは現実以上に意味を持つものとなっております。それは、男がいないので性行為が個人の問題ではなく人間の問題になっている事、そしてサイバーダインという殆ど人間と遜色ない存在がいる事が理由です。作品全体のテンションが高いのでそこまで重くは感じませんが、間違いなくぴあのが背負った使命は重いものです。何しろ、ぴあのが精子を持って帰らなければ未来の人類は滅亡してしまうかも知れないからです。非常に重い使命を背負ったぴあの、ですがだからといって人が人を愛する気持ちを否定してよかったのでしょうか。私今作品で一つだけ不満があるのですが、日本編を終えた後のヒントコーナーでED001とED003をハッピーエンドと言っておりました。私個人としてはED002もハッピーエンドで良いんじゃないかと思いました。ですが、これはきっと人類全体という視点でのハッピーエンドなんですね。
ぴあのが未来に帰るのか過去に留まるのか、客観的に見れば未来に帰るのが正解です。ですけど、自分が愛した人と永遠に離れ離れになる事に耐えられる人がいるでしょうか。ぴあのにとって初めて会話をした男性である仙太郎、不器用で雑な正確かも知れませんが一本芯を持った男性でした。母親と、そして妹以上に想っていたお雪を失いたった一人で生きていた仙太郎です。表向きには笑って過ごしていた仙太郎ですが、心の中ではぴあのに帰らないでほしいとずっと想っておりました。作中でも言っておりましたが、この2人は生まれた時代が同じだったら良かったんですね。ミルシェの言葉ではありませんけど、運命なんだと思います。なんて報われない2人なんだと思いました。別に、ぴあのが過去に残ると決断してもゼラフィーネは怒らないと思います。それでも、人類の未来のために過去に帰る決断をしたぴあのの決断は尊いと思いました。人間らしさとは何かを考えさせられました。
そして、人間らしさというものに苦しんだ人物がもう一人いました。それがサイバーダインであるミルシェです。ゼラフィーネに慕われぴあのと小言を言い合いながら、それでもサイバーダインとしてプライドを持って生活しておりました。そしてぴあのと共に過去に行き、精子を入手し未来へ帰るという使命を達成しようとしました。そのときに重要な役割を果たすのは忘却剤でした。何故なら、未来人が干渉する事実を残すことは大きく未来を変える事になるからです。本来であれば、忘却剤を使用し全ての記憶を忘れてそれで終わりのはずでした。ですが、そうはなりませんでした。それどころか、ミルシェは仙太郎にとって夢にすらなりました。仙太郎はミルシェに会えなかったらからくり人形を作らなかったかも知れません。そして、今の科学技術の発展に繋がらなかったかも知れません。間違いなく、ミルシェの行動が自分自身の出生に繋がったのです。私は、こうした行動の繋がりがある事をとても嬉しく思います。想いが繋がる事の喜びは、人間もサイバーダインも同じです。ミルシェはサイバーダインですが、人間らしさを持ったサイバーダインだったと想っております。
ネタバレ有り冒頭でも書きましたが、まだまだ伏線が回収されておりません。結局のところぴあのとお雪の関係は何なのか。過去にエージェント用サイバーダインを何故送ったのか。ゼラフィーネの真の目的は何なのか。ぴあのは何故2016年に飛んでしまったのか。九条巴は何者なのか。2206年の未来はどうなってしまうのか。非常に綿密に練られた世界設定ですので、是非全ての伏線を明らか亥にして欲しいです。何よりも、あれだけ人間らしさと自分の使命で悩んだぴあのとミルシェですからね。ここまで盛り上がりましたし、絶対に彼女たちの行動が報われないと気がすみませんね。改めまして、ドタバタな雰囲気と積極的なHシーンと人間らしさを訴えたシナリオと盛り沢山でした。フリー素材を上手く組み合わせたセンスもお見事でした。続きを楽しみにしております!