M.M STEINS;GATE 0




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 8 9 91 20〜25 2016/9/3
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 この「STEINS;GATE 0」は前作である「STEINS;GATE」の続編となっております。そのため、本編である「STEINS;GATE」のネタバレが含まれていますので、ネタバレを避けたい方は避難して下さい。

「STEINS;GATE」のレビューはこちら

※「STEINS;GATE」を未プレイでも前半のレビューは「STEINS;GATE 0」のネタバレありません。


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<岡部倫太郎の苦悩に寄り添い、再び世界との戦いに巻き込まれる背中を後押ししてやってください。>

 2009年にXbox 360から発売され、5pb.×Ntroplusのコラボレーションで制作された科学アドベンチャーシリーズの第2弾タイトルである「STEINS;GATE」の正統続編とされているのが今回レビューしている「STEINS;GATE 0」です。ジャンル名である「想定科学ADV」の名前の通り物理学や生物学といった科学知識を基盤としたシナリオであり、そのフィクションでありながら矛盾しないロジックは多くのプレイヤーを虜にしました。またそういった科学知識のみならず主人公である岡部倫太郎の中二病めいた発言のリアルさや他の登場人物のキャラクター性も非常に高く、加えて現実の秋葉原を舞台とした背景描写も正確で非常に高い評価を得ております。その後Xbox 360からPC版、PS版、モバイル版とプラットフォームを広げ、数々のスピンオフ作品やアニメ化も実現し多くの人に知られる作品となりました。「STEINS;GATE 0」はそんな「STEINS;GATE」の正統続編として位置付けられており、「STEINS;GATE」の最後に帰ってきたβ世界線での出来事を書いております。

 私がかつて「STEINS;GATE」をプレイした時に一つだけ不満に思った事があります。それは最後にシュタインズゲートへ向かう直前の駆け足的な展開でした。物語開始、世界線の事や各国の暗躍など何も知らない岡部倫太郎は天才科学者である牧瀬紅莉栖らと共にタイムリープマシンを制作します。ですがその事が切っ掛けで大切な幼なじみである椎名まゆりを失ってしまいます。それは全て岡部倫太郎が招いた行動が原因であり、知らず知らずのうちに世界線を移動し続けた結果の果てでした。岡部倫太郎はそんな自分の手で起こしてしまった結果を元通りにするべく一つ一つの事象を丁寧に分析し解決していき、その中で周りの人達の秘めた想いや感情を自分の胸にしまい込んでいきます。私にとって「STEINS;GATE」の一番の魅力はそうした岡部倫太郎の不器用であり失敗しながらも何度も何度もトライ&エラーを繰り返す姿であり、だからこそ最後の最後で牧瀬紅莉栖の死を選択し椎名まゆりの生を選択した決断に拍手を送りました。

 もちろん牧瀬紅莉栖が死に椎名まゆりが生きる結末は本当の意味でハッピーエンドではありません。だからこそ最終章で岡部倫太郎が自分の手で牧瀬紅莉栖を指してしまった絶望感からのあの大逆転劇は鳥肌ものであり、鳳凰院凶真らしい、もっと言えば「STEINS;GATE」らしい展開だったと思っております。ですがそれまで丁寧に丁寧に事象を解明し何度も何度も時空を飛び越えてきた岡部倫太郎の苦悩を見てきただけに、何ともご都合主義と言いますかあっさりシュタインズゲートにたどり着いたなーって正直思ってしまい、無理やりハッピーエンドに持っていったな感が気になってしまいました。だからこそ、岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖を殺してしまった絶望からどのような日々を過ごしたかを描いた「STEINS;GATE 0」の意味はとても大きなものだったと思っており、まさに私が求めていた続編でした。

 「STEINS;GATE 0」は、「STEINS;GATE」の最終章において岡部倫太郎が牧瀬紅莉栖を殺してしまい一度絶望した後のシナリオを描いた作品となっております。「STEINS;GATE」で主に描かれていたのはα世界線での出来事ですが、「STEINS;GATE 0」はβ世界線での出来事がメインとなっております。牧瀬紅莉栖を殺してしまい世界の収束には勝てない事を悟った岡部倫太郎は、これまで通い続けていた未来ガジェット研究所にも行かなくなり普通の大学生として生活しておりました。そんな岡部倫太郎の今の目標は牧瀬紅莉栖の研究を引き継ぐこと。その為真面目な大学生として勉強し、行く行くは牧瀬紅莉栖の母校であるヴィクトル・コンドリア大学への留学を目指していました。物語はそんなヴィクトル・コンドリア大学の脳科学研究所から主任研究員であるアレクシス・レスキネンとその助手である比屋定真帆が来日し、秋葉原で公演するところから始まります。彼らが公演の中で公開した「Amadeus(アマデウス)」というAI、これが岡部倫太郎を再び世界との戦いへ誘う存在となるのです。

 「STEINS;GATE」は岡部倫太郎が苦悩の末シュタインズゲートへとたどり着く物語であり、言い換えれば牧瀬紅莉栖と椎名まゆりが死なない世界を目指す物語です。ですが世の中的に見ればそんなちっぽけな意味ではなく、第三次世界大戦という世界的悲劇を回避する為の物語です。α世界線ではエシュロンによってDメールが補足された事によってSERNを始め世界中から岡部倫太郎は狙われる存在となりました。この作品の魅力はそんな唯の大学生である岡部倫太郎が世界的な組織や国と対立する構図も魅力であり、強力な力にどこまで抗えるかという冒険心を擽るものとなっております。ですが今作では既に岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖を救う事を諦めており、真っ当な大学生として生きております。それでも岡部倫太郎の前に牧瀬紅莉栖は帰ってきました。それも「Amadeus」というAIという形で。まだ岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖の世界との戦いは終わってなんかいませんでした。「Amadeus」の真の目的とは何か、何故岡部倫太郎は「Amadeus」と出会ってしまったのか、牧瀬紅莉栖を取り戻す事は出来るのか、様々な憶測と裏の目的が交差し始め、その度に岡部倫太郎は今の自分の立場に悩み苦しむ事となります。

 今作の最大の魅力は、ずばり岡部倫太郎の心の葛藤です。「STEINS;GATE」で描かれた科学知識を基盤としたシナリオや秋葉原を舞台とした背景描写、世界との戦いや世界線などの設定は「STEINS;GATE 0」でももちろん健在です。ですが絶対的に違うものとして岡部倫太郎の気持ちがあります。「STEINS;GATE」では自分の事を鳳凰院凶真と称した痛々しい姿でしたが、逆にそれこそ岡部倫太郎らしさであり周りのみんなもその姿に惹かれて手を貸しました。ですが今作では既にそんな姿を見せる事はなくむしろ世界線と関わる事に非常に消極的になっております。それでも「Amadeus」を起点としてどうしても動いていく世界、その渦の中に自分の意志とは関係なく吸い込まれる岡部倫太郎。その時彼は何を思うのかが焦点になります。是非自分が岡部倫太郎だったらどう行動するかを想像しながらプレイして欲しいですね。牧瀬紅莉栖を取り戻したい、でももう二度と失いたくない、世界となんか戦いたくない、世界線には逆らえない、それでも僕は…………。そんな葛藤する姿に親身になって寄り添ってあげてください。

 そして今作でも「フォーントリガーシステム」は健在です。加えて今作では「ガラケー」ではなく「スマホ」になっております。「STEINS;GATE」でもメールや電話によるやり取りを繰り返しながら世界線を行き来しシュタインズゲートを目指してきたと思いますが、今作でもそれは同様です。しかも今作は「スマホ」ですので、電話に加えてLINEの架空設定である「RINE」も登場します。もっと言えば、キーワードである「Amadeus」もアプリとして岡部倫太郎のスマホにインストールされております。プレイヤーの皆さんはまたこのフォーントリガーシステムに悩み苦しめられながら選択していくことになります。主人公の意図しないタイミングでやってくる電話、RINE、そしてAmadeusの情報をしっかりと分析して、何とか是非目指すべきEDへとたどり着いて欲しいですね。

 プレイ時間は私で20時間10分かかりました。「STEINS;GATE」の続編という事でしたので「STEINS;GATE」程の長さはありませんでしたね。それでも20時間ですので十分なボリュームだと思います。そしてプレイ時間はやはり「フォーントリガーシステム」の選択によってかなりふらつくと思います。それでも何周かすれば何となく重要なフラグとそうではないフラグは分かりますので、是非要のタイミングではセーブをるようにして目指すべき選択を選んで欲しいですね。私も攻略は見なかったのですが、運が良かったのか実際そこまでフラグ管理が難しくなかったのか分かりませんが、割とスっとトゥルーエンドにたどり着く事が出来ました。まずは攻略を見ないでプレイし、やはり無理そうでしたら普通に攻略を見ても良いと思います。プレイ後に攻略を見ましたが、流石に「STEINS;GATE」ほど難しくはなかったです。是非自力で解いて欲しいですね。何よりも「STEINS;GATE」は選択肢が存在しない現実世界でも使用している携帯電話をアイテムとして分岐システムですので、出来るだけセーブしない方が雰囲気的に良いかもしれません。私自身、それぞれのEDを迎えたあとは毎回New Gameからやり直してました。それだけ思い入れも強かったという事かも知れませんね。何れにしても「STEINS;GATE」のファンであれば是非プレイして欲しい作品です。「STEINS;GATE」で語られなかったシナリオを味わい、再びこの懐かしい世界を堪能して頂ければと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<「Amadeus」に込められた魂を感じること、それがシュタインズゲートへの確かなプロセスとなるんですね。>

 この作品は鳳凰院凶真をこの世に再び降臨させるための物語だったんですね。世界唯一のタイムリープマシンを発明した切っ掛けは牧瀬紅莉栖の論文と橋田至のクラッカー能力でした。ですがそれらもバラバラでは意味を持たず、そこに鳳凰院凶真という狂気のマッドサイエンティストがいたからこそ作り上げる事が出来ました。SERNやストラトフォー、いや神と戦えるなんて鳳凰院凶真しかいませんね。彼が降臨すればもう怖いものなしです。世界を騙す、そんな馬鹿げた結論にたどり着くまでの軌跡でした。

 ネタバレ無しのレビューで私は今作の魅力を岡部倫太郎の心の葛藤と書きました。ですがそれは世界と戦うことを諦めた姿や鳳凰院凶真としての中二病全開な姿だけではなく、むしろ日々の人間的な姿が印象的でした。「Amadeus」の牧瀬紅莉栖との会話を重ねていくうちにまるで人間の牧瀬紅莉栖と話しているような錯覚に陥りそんな自分に嫌気がさしてしまう姿、レスキネン教授の元に付けるかも知れないという希望を掴む為に一生懸命勉強する姿、日々のちょっとした風景や言葉から牧瀬紅莉栖を思い出してしまい胸を痛める姿、身近にいる橋田至や椎名まゆりでも知り得ない心の揺れ動きが丁寧であり、純粋に岡部倫太郎が弱くて自信がなくて、それでも素直で誠実で真面目な人間なんだなと思う事が出来ました。もちろん「STEINS;GATE」の時点でもその事は分かっておりましたが、唯々必死に駆け巡る姿ばかりが目について落ち着いた岡部倫太郎を見る機会が余りなかったので尚更そう思ったのかも知れません。

 ですが、心の葛藤を抱えていたのは岡部倫太郎だけではありませんでしたね。むしろ岡部倫太郎の周りにいる人一人一人に物語がありました。特に今作で新たに登場したヒロインである比屋定真帆には多くの時間を割いていたと思います。幼い容姿がコンプレックスであった比屋定真帆ですが、だからこそ持ち前の頭脳こそ比屋定真帆の最大の武器でありその実力を持ってヴィクトル・コンドリア大学の脳科学研究所にたどり着きました。ですが比屋定真帆は常に牧瀬紅莉栖との比較に悩み続けました。真の天才の前にはそれ以外の存在は不要、科学の世界に身を置くものとして一生抜け出せない葛藤でした。だからこそ、比屋定真帆が「人は誰かの代わりになんかなれない、代わりになる義理はない、私は私」という信念を曲げなかったのは立派だったと思いました。ずっとアマデウスとサリエリの関係から抜け出せなかった比屋定真帆、それでも最後にその葛藤も晴らす事が出来ました。同じ人など一人もいません。ましてや人の完全上位互換なんていう存在なんてもっと有り得ません。大切なのは自分を信じその信じる道を突き進む事、それを教えてくれたシナリオでした。

 そんな比屋定真帆を始めとしたラボメンに囲まれた岡部倫太郎は本当に幸せ者だったと思います。幼い時から傍にいていつも岡部倫太郎の理解者であった椎名まゆり、いつも岡部倫太郎の無茶な要求を聞きながらもそれに応えてくれるスーパーハカー橋田至、ラウンダーでありコミュニケーションが苦手でありながらも持ち前の情報収集力で助けてくれた桐生萌郁、容姿にコンプレックスがありながらもそれを気にしない岡部倫太郎に尽くしたいと願っている漆原るか、マイペースに見えていつも周りへの気遣いを忘れないフェイリス・ニャンニャン、自分の目的がありながらも最後には岡部倫太郎の気持ちを汲んでくれる阿万音鈴羽、そして今作で登場した不遇でありながらも心優しい少女である椎名かがりと直接は見ることが出来ませんでしたが常に優しい性格で夫を支えている阿万音由季、これだけの人が岡部倫太郎の事を慕っているのです。世界で唯一リーディング・シュタイナーを保持している岡部倫太郎は一見孤独で一人で戦っているように見えます。ですがそんな事はありませんでした。これだけ多くの人が岡部倫太郎を支えていたのです。これだけ最強の布陣が揃っている未来ガジェット研究所に、不可能などあるはずがありませんね。

 そしてそんな未来ガジェット研究所のメンバーでまだ一人紹介していない人物が、今作のメインヒロインである牧瀬紅莉栖です。β世界線で故人となってしまった牧瀬紅莉栖。それでもその記憶データは保持され「Amadeus」として岡部倫太郎を支え続けました。結局のところ「Amadeus」とはどのような存在だったのでしょうか。作中では「自立的に行動する本当の意味での人工知能」と言っておりました。革新的な技術でまるで人間のように振舞う存在、まさにモーツァルトの名前を冠する天才的な存在です。それでも肉体は持たず、あくまでAIとしてしか存在する事は出来ません。どこまでも人間のようでいて決して人間にはなれない存在、やはり「Amadeus」は人間になる事は出来ないのでしょうか。私はそうは思いませんでした。

 この作品のテーマとして「魂のあり方」があると思っております。魂とはどのようなものでしょうか?宗教的な解釈も様々であり目には見えないものですが、それでも人間一人一人に確実に存在している物だと誰もが信じていると思います。私にとっての魂とは、人がそこに意志があると思っている存在全てだと思っております。人間が人間に対して意志を持っている存在だと思うのは当たり前です。ですがそれは無機物に対しても同様だと思っております。例えば、私はこの「STEINS;GATE 0」という作品に対して魂があると思っております。テーマと置き換えても良いかも知れません。「STEINS;GATE 0」そのものは唯のDVD-ROMでありデータの集まりです。ですがそこには関わった人がいてその人の意志が存在しております。それこそがテーマであり魂。だからこそ心に残るものがあり、いつまでも忘れない存在になるのだと思います。生きているとか死んでいるとか、有機物だとか無機物だとか、人間だとかそうでないとか関係ありません。そこに想いや意志やテーマが存在していれば、私にとってそれが魂そのものです。

 「Amadeus」は限りなく人間的な存在ですが人間ではありません。ですが人間的かどうかなんて私にとってはどうでも良いことです。ほとんどの人は「Amadeus」の中で活き活きと会話をするアバターを見て「魂があるか?無いか?」を議論すると思います。ですが大切なのはそこではないと思っております。牧瀬紅莉栖を始め「Amadeus」を作り上げる為にはヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所の多くの人の知恵と試行錯誤が必要でした。データの羅列そのものに意味がありテーマがあるのです。今回はこの「STEINS;GATE」という作品であり舞台だからこそ牧瀬紅莉栖という「Amadeus」に感情移入すると思います。であるならば、是非そこからさらに想像力を広げてこの「Amadeus」という存在そのものに想いを馳せてみては如何でしょうか?その先に魂は存在します。そしてそんな魂を感じる事が出来たとき、ようやく存在として意味を持つのだと思っております。

 二次元の女の子には魂はない、決められたプログラムでしか動かない存在には魂はない、私はそうは思いません。それらは確かに人間的ではないです。ですがそれを作り上げた人の気持ちがこもっております。そこに魂があります。後は私たち人間がそれだけその魂を感じる事が出来るかだと思っております。ある意味人間同士でも同じですよね。他人に無関心であれば、その人の気持ちを理解する事は出来ません。魂など感じる事なんか出来ませんね。大切なのは相手ではなく自分自身の心の持ち方です。今ならば地下駐車場で岡部倫太郎達を襲撃した某大学の准教授のセリフに応えることが出来ます。「魂はシリコンの上には宿らない?」「いいえそのシリコンを作り上げた気持ちが魂です」

 この作品は岡部倫太郎がラボメンのみんなに支えられて再び鳳凰院凶真として立ち上がるまでの物語でした。そして鳳凰院凶真として立ち上がるまでの間に様々な葛藤があり、その全てに魂が込められており心が震えるものばかりでした。ですがその裏で密かに存在しそして失われた「Amadeus」という存在を忘れてはいけません。そこに牧瀬紅莉栖がいたからではありません。そこに魂が込められていたからです。「Amadeus」は高度な人工知能を有した非常に人間的な存在。後はそれを使う側の人間がどのように魂を込めるかですね。岡部倫太郎が「Amadeus」の牧瀬紅莉栖に感情移入したとき、初めて「Amadeus」に魂が宿りました。その事もまたシュタインズゲートへの確かなプロセスとなったのです。多くの魂が込められた先にあるシュタインズゲート、その軌跡を見る事が出来て本当に幸せでした。「STEINS;GATE 0」に込められた魂を感じる事が出来ました。ありがとうございました。


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