M.M スターズ★ピース




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
9 7 - 90 20〜30 2014/5/11
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<是非プレイヤー自身も平星高校2年F組の一員となって高校生活を楽しんで欲しいですね>

 この「スターズ★ピース」という作品は同人サークル「平星高校ゲーム製作部」で制作されたビジュアルノベルです(現在はYOX-Projectさんで展開中)。「平星高校ゲーム製作部」さんを知った切っ掛けはC85に参加した時でした。色合いの鮮やかなパッケージを見て楽しい雰囲気の作品であることは伝わりましたが、ゲーム性が強く長時間掛かるのかなと思い買って直後はプレイするに至ってませんでした。ですがその後多方面から面白いという声を聞き、加えてCOMITIA108の中で直接サークルの方とお話しする事が出来これは何が何でもプレイしなければいけないと思いインストールしました。感想ですが、ゲーム性や演出におけるレベルの高さは勿論ですがとにかく2年F組の30人のキャラクターの魅力を全面に出したテキストに深く感動しました。

 公式HPをご覧になれば分かりますが、主人公である上倉ひかりは年の数だけ転校を重ねてきた高校2年生です。これまで通ってきた学校では中々クラスに馴染めず友人と呼べる友達には出会えませんでした。今回の16回目の転校でやって来たのはサークル名にもなっている市立平星(読み方はへいせい)高校であり、またこれまでと同じような孤独な学校生活になるのだろうと思ってました。ですが転校初日に上倉ひかりの目に飛び込んできたのは女学生に告白し振られた男学生の姿、その姿をみてクラスの恋愛を応援して友達を作ろうという計画を立てます。ここから上倉ひかりの「恋愛応援→友達獲得ケーカク」はスタートしました。

 この作品の魅力は何といっても漫画のようにコロコロと場面展開していくビジュアルとパズル的に進めていくシステムです。登場人物達の立ち絵は非常に豊富であり多種多様な姿を見せてくれるのですが、それに加えてエモーショナルな表現が大変強調されてプレイヤーを楽しませてくれます。逆転裁判で見るような「ドーン!」「バーン!」とか「待った!」といった描写に加え汗やビックリマークや雷的な表現も多彩であり、ビジュアル面で非常に検討された様子を伺うことが出来ました。またそういった激しいビジュアルに合わせて効果音の種類も大変豊富であり、音と絵の両方で登場人物達の感情の表現をサポートしてくれております。音といえばこの作品、各キャラクターごとにBGMが用意されております。それ以外にも基本的なBGMもありますので音楽の数が多い事も大変な魅力ですね。

 そして最大の目玉でありメインのシステムであるピースシステムとスターシステムは楽しかったですね。プレイヤーはクラスメイトの恋愛を応援するために色々な人と話をして情報を集めます。そこで入手した情報はピースという形で記録され、最終的に恋愛を成就させる為の材料となります。また数多くの選択肢の中でクラスメイトが気に入る発言をしますとスターが貰え、このスターの数によってクラスメイトから支援を得る事ができます。このピースとスターを駆使する事でクラスメイトの恋愛を成就させていくのですが、パズル的であり難易度は決して高くはありませんので気楽に選択して進めて頂ければと思います。間違ってもそれでゲームオーバーとなる事はありません。正しい選択をするまで何度も挑戦する事が出来ますので色々な選択を試すのもこの作品の楽しみ方かも知れません。

 このように主人公である上倉ひかりを操作する事によってプレイヤーはこの平星高校の2年F組の30人のキャラクターに触れていく訳ですが、どのキャラクターにも個性があり誰一人欠けることが許されませんでした。初めは転校してきた主人公同様、クラスメイトがどのようなキャラクターなのかは分からないと思います。ですが情報収集し恋愛応援をしていくうちに少しずつクラスメイトの性格が分かってくると思います。このプレイヤーと主人公が同じペースで2年F組に溶け込んでいく感覚が本当に素晴らしいと思いました。恋愛応援を重ねていくうちに「このキャラクターはこんな性格だから良い情報を持ってそうだな」とか「前は役に立ったけど今回はこのキャラクターから有益な情報はなさそうだな」とか分かってくるんですね。こんな感じで勘ではなくキャラクターを理解して選択を決められるようになった時、初めてプレイヤーも平星高校2年F組の一員になれるのかもしれません。

 ちなみにプレイ時間ですが私で24時間掛かりました。同人ビジュアルノベルでここまでのプレイ時間のものに出会ったのも大変久しぶりでした。ですがそれだけこの2年F組の30人が魅力的であり、逆に言えば24時間は最低限の時間でもっともっとこの楽しいクラスに触れていたいと思わせてくれました。これだけシステム面でこだわりビジュアルでこだわりキャラクターでこだわり、サークルさんは本当に綿密に構成を練って長い時間かけられて作ってきたのだろうと思います。プレイすればする程細かい部分まで拘って作っている様子が分かるかと思います。是非プレイヤーの方にはこの平星高校2年F組の雰囲気に触れて頂き、サークルさんの魂に触れて頂きたいですね。24時間という長さをこの作品に割けて良かったと心から思えました。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<不器用でも慣れてなくても「輝く」という事を忘れなければ決して孤立する事はない>

 ネタバレ無しでも書きましたが本当に楽しい時間を過ごすことが出来ました。こんな楽しい高校生活を送ることが出来れば人生においてどれだけ幸せな事でしょうね。お互いがお互いの事を分かっていて信頼している。加えて遠慮せずに良いものは良い悪いものは悪いと言い合える仲であり、不安や悩みも皆で協力して解決していこうとしてくれます。これだけ仲が良ければ誰もが不安もなく正直で素直な自分でいられるのだと思いました。ですがそんな2年F組を作ったのは、実は他ならぬ主人公上倉ひかりのお陰でした。

 2年F組は初めからクラス全員が仲良かった訳ではありませんでした。男子学生には不良も多く決して小さくない揉め事が絶えませんでした。女子生徒の中でもグループが決まっていたりまた孤立している人もいました。言ってしまえば普通の高校のクラスだった訳です。そんなクラスの中に転校してきた上倉ひかりが恋愛相談を始めた事が2年F組がまとまる全てに切っ掛けになりました。上倉ひかり自身も過去のトラウマで決して人付き合いが得意という訳ではなく、むしろ苦手としていていつも人に嫌われないかビクビクしておりました。そんな彼女でも自分を奮い立たせて人のために動いている姿を皆が見ていてくれたからこそ、最終的にこれだけ団結力のあるクラスになったのかもしれません。

 この作品のタイトルである「スターズ★ピース」、表向きはスターとピースを集めて恋愛応援をするというニュアンスが含まれておりますが、本当の意味はHPのアドレスに書かれてありました。スターズは「stars」でありこれは平星高校2年F組1人1人を星に例えている事が分かります。starは全部で30個あり、30個揃わなければ2年F組ではありません。さながら2年F組が1つの星座であるかのようです。輝きの大きさは様々かも知れませんが決して欠けることは許されない、それが星座ですからね。そしてピースは「peaces」であり意味は「平和、安心」です。星達が啀み合う事なく平和で安心であって欲しい、「スターズ★ピース」というタイトルには製作者のそのような願いが込められているように思えてなりません。

 その中でも上倉ひかりは2年F組という星座の中では間違いなく一等星ですね。彼女の輝きが星座の中心にいることは誰もが納得だと思います。第一章の時はまだクラスメイトの事もよく分からず接し方に困ってました。ですがそれは相手の方も同じで恋愛応援という訳の分からない事を言う転入生に戸惑っていたのだと思います。まるで点灯したばかりの電球が眩しくて目を細めるかのようです。ですが上倉ひかりが真摯であり素直で義理堅い正確である事が分かればもう目を細めることはありませんね。後はその眩しすぎる光を頼りに悩みを解決していけば良いのですから。これは考え過ぎかも知れませんが、上倉ひかりの「ひかり」という名前、そしてオデコキャラの設定はそうした「輝き」という意味を込めているのかも知れません。不器用でも慣れてなくても「輝く」という事を忘れなければ決して孤立する事はない、この作品が伝えたかった事はそのような事なのではないでしょうか。

 とにかく30人の個性あふれる2年F組のキャラクターは見ているだけで楽しく一緒に高校生活を送りたいと思いました。それぞれが悩みを抱えていて、それを不器用克服していく様子はとても甘酸っぱくハラハラしましたが素直に応援したくなりました。そしてその中心にいたのは上倉ひかりであり、彼女を中心とした2年F組の力は最終的に彼女の転校という危機を乗り越えるものとなりました。あの団結力こそ「スターズ★ピース」の目指したものであり、プレイヤーに一番語りかけたいメッセージなのかなと思っております。この2年F組であれば、その後どんな危機が迫ってこようとも卒業して年月が経過してもその友情は失われる事はないと思います。自分の高校生活を省みる事が出来るとても心温まる作品でした。ありがとうございました。


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