M.M Spyral-tryaL




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 6 - 78 3〜4 2018/2/5
作品ページ(なし) サークルページ



<ファンタジーな世界感で描かれる登場人物達のリアリスティックな生き方を見守ってあげて下さい。>

 この「Spyral-tryaL」という作品は、同心サークルである「Operation:Novelty」で制作されたビジュアルノベルです。「Operation:Novelty」さんと出会ったのはC93で同人ゲームの島サークルを回っている時でした。私は基本的に即売会では全ての同人ビジュアルノベルを制作されているサークルさんを回ります。ですがC93から特に意識した事に、出来るだけ完成作品を手に入れるという事がありました。これは体験版については完成版と比べてプレイする優先順位が下になってしまい、完成版を消化する過程でどうしても新しい作品が積まれてしまうからです。そういう意味で、C93では失礼ながらサークルさんに「完成版ですか?」と質問させて頂き、手に入れる作品を取捨選択させて頂きました。今回レビューしている「Spyral-tryaL」もまたそんなC93で頒布された完成作品であり、パッケージに描かれている僅かな情報からどんなシナリオなのかを想像しながらプレイし始めました。

 舞台は日本ではないどこか異国の世界。そこにはアルギニア国とタウリナ国という2国が山脈を隔てて隣接しておりました。この2国は元々は争いごともなく国交も正常でした。ですが、この2国を隔てる山脈に「魔石」と呼ばれる資源が眠る事が判明してから、徐々にその関係を悪化させていきました。その為、この山脈のそばに位置するアルギニア国の辺境魔石鉱山警備隊基地はアルギニア国にとって要の要所であり、田舎でありながらも多くの軍人が部隊を編成して日々訓練を行っております。主人公であるリンドもまた18歳になるという事でどこかの部隊に所属する事が義務付けられておりました。そんな彼が配属されたのはこの辺境魔石鉱山警備隊基地でした。都会に出ることを夢見ていたリンドにとってこの基地への配属はとても不本意なもの。いまいち訓練にも身が入らず、ミスを犯してしまう毎日。そんなリンドが回復魔法の使い手であるアリアナに出会う事が、物語の歯車を動かす切っ掛けとなるのです。

 この作品の特徴、それは日本ではない異国の軍隊という舞台設定です。主人公リンドを始め主要人物の多くは思春期の男女であり、心の揺れ動きや行動については年相応の様子を見せてくれます。ですが、ここはあくまでアルギニア国とタウリナ国の国境という一触即発の土地です。そして彼らは訓練生とは言いながらも一人の軍人です。男女の出会いがあり交流を深めていく中で、それぞれが心の中に抱えているものの深さと厳しさを知る事になります。そして、そんな個人個人の気持ちなど無視させるかのように情勢は変化していくのです。自分の力1つではどうにもならない、それでも国の為に、そして大切な人の為に頑張らなければいけない。そんな姿を是非見守って下さい。

 そしてこの作品のジャンルは「リアリスティックなファンタジー系ADV」となっております。舞台設定はファンタジーですが、その世界で生きる彼らの姿はリアリスティックそのものです。そう簡単に奇跡など起こる事はありません。戦争になれば人は死にますし、立場が違えば簡単に離れ離れになりますし、力がなければ誰ひとり守る事も出来ないのです。それでも、生きていく中で様々な選択を強いられます。その選択を選ぶ事で、もしかしたら自分が目指すモノにたどり着けるかも知れません。むしろ離れるかも知れません。たどり着いた真実がどのようなものか、そしてその結果としてどんな決断を下すのか。そんな姿にも注目です。上でも書きましたが、この作品はリアリスティックです。奇跡など期待してはいけません。だからこそ、選択と決断に意味があるのだと思います。

 プレイ時間は私で3時間30分程度でした。この作品には選択肢はありません。そして場面転換が割と速いのでサクサクと読み進めることが出来ると思います。ですがシナリオや設定の背景は思いの外多く、またそれぞれの登場人物の視点を掘り下げますのでボリュームはあります。それだけ設定が深く練られているという事もでもあります。途中BGMの移り変わりや場面の変更が唐突だったりとした部分もありますが、数分もプレイすればある程度慣れると思います。まずは登場人物達の生き様を見届けることです。一生懸命悩み考えて選択した答えを、是非尊重してあげて下さい。かなり印象に残る結末でした。オススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<裏切り裏切られる螺旋のような人生。そんな抜け出せない人生にやっとピリオドが打てたんですね。>

 最後までプレイして、あのエンディングは驚きました。物語は決してハッピーエンドだけではないというのは当たり前ではありますが、あそこまで直接的に厳しいエンディングを用意しているとは思っても見ませんでした。正直、プレイ終了直後に「凄いなぁ」と感服してしまいました。エレナの決断なのであれば、あとは背中を見届けるしかありませんね。

 この作品の実質の主人公はエレナその人でした。彼女が経験してきた壮絶な幼少時代、そして家族と祖国の気持ちを背負ってのスパイ活動、その先に待っている親友たちとの別離と葛藤、全てがスパイラルの様にエレナにまとわりつき、その都度その都度自分の選択が正しかったのか迷い自問しての繰り返しでした。いったいどれだけこの小さな女の子に業を背負わせるんですかね。こんな小さな女の子に自国の未来が託されているようでしたら、遅かれ早かれこんな国は滅びてしまうでしょうね。刹那的な争いは何も生み出さない、それもまたこの作品では語られてました。彼女はそんな争いの最大の被害者だったなと思っております。

 そして、この作品では何度も何度も「天秤に掛ける」場面が登場しました。エレナは祖国への忠誠とアリアナへの想いを天秤に掛けました。マリンもまた家族と親友を天秤に掛けました。リンドは自分の立場と目の前の人を天秤に掛けました。ボインもまたお金と祖国への気持ちを天秤に掛けた訳ですね。誰もが天秤に掛けて選んだ決断を歩んでいるわけです。片方を選ぶという事はもう片方を捨てるという事、そして捨てたものは大体戻ってきません。だからこそ、どの登場人物も自分が決断した事についてはそう簡単に気持ちを曲げる事はしませんでしたね。後半になればなるほどそういった決断による衝突は大きくなっていきました。それこそ、死を選ぶ程に。

 私は正直思いました。エレナは何も死ぬ事はなかったんじゃないかと。彼女の行動で唯一許せなかった事、それは目の前の親友を信じきれなかった事です。幼い時から国に裏切られ両親に裏切られ、また逆に自分が国を裏切り相手を裏切る人生を送ってきたエレナ。そういう意味で、彼女にとって信頼という事を感じる機会は殆ど無かったんですね。エレナは国と親友を天秤に掛けて、親友を選びました。彼女の為だったら何でもする、そう決断し全ての人を騙して裏切って利用する覚悟をしました。ですが、果たしてエレナが守りたかったアリアナは本当にアリアナだったのでしょうか?それは自分の理想とするアリアナだったのではないでしょうか?過去も何も知らない、純粋無垢なアリアナだったのではないでしょうか?

 きっとアリアナはこれから昔の記憶を徐々に思い出していくと思います。そしてある日目の前の女の子の両親が自分の両親を殺した事に気づくと思います。それに気づいたアリアナは、エレナをどう思うでしょうか?想像するだけで震えますね。もしかしたら仇討されるかも知れませんね。人の気持ちなんて分かりませんからね。相手を信じきっても、その信じた通りに相手が振舞ってくれる保証なんてどこにもありませんからね。そんな怯える生活、エレナの目指したものではありませんでした。そしてそのエレナが目指す世界は、二度と手に入らないものなのです。そう思ったからこそ、エレナは死を選んだのだと思います。彼女の裏切り裏切られの人生は、こうして幕を閉じたのですね。

 タイトルは途中から「Spyral-betrayaL」と変化しました。Spyralには「Spy」と「スパイラル」の2つの意味が込められていると思います。betrayaLは「裏切り」という意味です。まるでエレナの人生を象徴しているかのようです。自分の大切なものを守る為に、本当に信頼できる場所を見つける為にエレナは歩き続けました。歩き続けるというよりも、裏切り裏切れるというスパイラルを回り続けたという事の方が正確かも知れません。そんな自分の人生についにピリオドを打ったエレナ。もしかしたら、アリアと仲良くなれる未来もあったかも知れないのにですね。でも、そんな保証はどこにもないんです。そんな実にリアルな心の揺れ動きを読ませて頂きました。最後、ボインが死んでエレナもアリアもタウリナ国から解放されてはい終わり!とはならなかった展開に拍手。ありがとうございました。


→Game Review
→Main