M.M 空の浮動産




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 82 3〜4 2020/6/27
作品ページ ブランドページ



<ANOSシステムを駆使して、愉快な登場人物と共に頑張ってエンディングにたどり着きましょう。>

 この「空の浮動産」という作品は、ゲームソフト制作会社である「自転車創業」で制作されたビジュアルノベルです。自転車創業さんの作品をプレイしたのは本作が初めてです。切っ掛けは意外なところでした。私は現在埼玉県さいたま市に住んでいるのですが、約5年前は栃木県宇都宮市に住んでいました。宇都宮での生活も今とそれ程変わりはありませんが、当時は東武宇都宮駅方面にあるオリオン通りというところにあるFestaという名の商業テナントビルに定期的に通っていました。メロンブックスやまんだらけなどのお店が入り、かなり息抜きになってましたね。そのメロンブックスの店頭で見つけたのがこの「空の浮動産」です。まるで手書きの様な温かみを感じるパッケージと、表情豊かに描かれている登場人物に一目惚れして購入していました。ですが買ったはいいもののそのままプレイせず放置しており、気が付けば6年近く経過していました。部屋の整理をしていて久しぶりに目にしましたので、流石にやらないとなと思い今回のレビューに至っております。

 主人公である夏辺水華(なつべみずか)は、この春から大学生となりました。選んだ学部は法学部であり、中学生時代に同級生だった織絵冬星(おりえとうじ)と共に入学しました。ですが、法学部は法学部でもこの大学の法学部の正体は魔法学部。法律を教わるのではなく魔法を教わるのです。この世界では、Maと呼ばれる元素が見つかった事で魔法が発明されました。ですが一過性のブームと断定され誰も見向きしなくなっておりました。その為、この大学の法学部は教授である花水木秋俊と2年生の春川春菜の2人しか所属していないのです。このまま魔法文明が衰退し入部者がいなければ吸収合併されてしまいます。果たして法学部はどうなってしまうのでしょうか。そして夏辺水華と織絵冬星はこのまま法学部に所属するのでしょうか。ちょっと不思議でちょっと愉快な法学部の物語がここから幕を開けます。

 自転車創業さんの作品をプレイしたのは初めてでしたので知らなかったのですが、このブランドさんの特徴は「ANOS(Advanced Novel Operation Systemversion)」と呼ばれるシステムにあるようです。ANOSとは自転車創業さん独自に開発されたシステムで、これにより一般的なビジュアルノベルとは違った方法で読み進める事になります。まず、空の浮動産にはセーブスロットがありません。セーブすることは出来るのですが1つのみですので、分岐の検証などに使用する事は出来ません。ですが、ANOSによってバックログを確認する事ができ更にそこで指定した場所で再開する事が出来ます。セーブする必要が無いという事です。そして、もう一つ大きな特徴は記憶管理です。この作品ではテキストを読んで行く中で様々な言葉を入手していきます。そして、入手した言葉を登場人物に記憶させることでその後の展開を変化させていく事が出来ます。実際のところ記憶管理を使用しないとエンディングにたどり着く事が出来ませんので、何度も過去に戻り何度も記憶管理を使う事になると思います。ノベルゲームらしい楽しさを感じる事が出来ました。

 そしてそれ以上に登場人物に魅力を感じました。主人公である夏辺水華は身長201cmの非常に大きな体をしており、加えて全日本女子格闘大会準優勝という経歴を持っております。性格は非常に勝気であり、彼女の行動から大体の出来事は発生していきます。片や織絵冬星は非常に大人しい性格であり、水華への突っ込み以外は淡々としております。それでも頭は非常に良く行動が明確ですので水華とはよく衝突するのですが、何だかんだでいいコンビな様子を見せてくれます。花水木秋俊教授は愉快な性格のマッドサイエンティストですし、春川春菜は唯一のまともな性格ですが水華とは対立します。とにかく4人の騒がしくて愉快な時間がとても魅力的であり、実際に所属するのは疲れそうですが傍からずっと見てみたいと思いました。そして、そんな登場人物の立ち絵差分が非常に多いです。コロコロ表情を変えるだけではなく動きも様々で、よくもまあこれだけ用意したなと思いました。遠近感もダイナミックに変化し、見ていて飽きませんでした。素直に楽しいと思えました。

 プレイ時間は私で3時間10分でした。上でも書きましたが、この作品はANOSというシステムを駆使する事で物語を進めていきます。その為難易度は非常に高く一発でエンディングにたどり着く事は出来ないでしょう。最後に特定の記憶を持っていないと必ずエンディングにたどり着けませんので、それに気付いてANOSで過去にさかのぼり記憶を回収して再びエンディングに挑むという流れになると思います。物語そのものはそれ程長い訳ではありませんので、検証もそこまで途方に暮れる事は無いと思っております。それでも何度も同じ場面を繰り返す事になると思いますので、是非頑張れる人は自力で頑張ってみて下さい。攻略サイトもあるみたいですので、無理だと思ったからはそちらを見てしまっても良いかもですね。よく調整された選択に驚かされると思います。とにかく楽しい作品ですので、是非気楽にプレイしてみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<案ずるより産むが易し、それを体現した主人公水華の姿がこの作品の全てだと思いました。>

 ネタバレ無しでも書きましたが、最初から最後まで登場人物が引っ張っていく物語でした。とにかく主人公である水華の存在感が大きく、そしてそれ以上にぶっ飛んでる花水木教授とそれを一歩引いて見ている冬星と春菜という構図が魅力的でした。短い中で良くまとまっており、読後感もとても良いものであると思いました。

 結局は、花水木教授の自分勝手な夢に振り回される物語でした。浮動産を浮かばせる事は他の次元と穴を作る事になり、それは世界の崩壊を招く可能性のある行動でした。この世界に生きる人であれば絶対に賛成出来ない行為であり、必ず防がなければいけない事です。ですが、そんな事は花水木教授にとって何も関係ない事でした。何故なら、浮動産を浮かせることは花水木教授の夢なのですから。自分の夢の実現を他人に妨害される筋合いはない、そんな事を思っておりました。まさにマッドサイエンティストですね。前半の陽気な姿と後半の陽気な姿のギャップが印象的であり、それまで花水木教授寄りの選択肢を選んできた自分は完全に騙されたんだなと気付きましたね。まあ、その事に気付けましたので後はANOSで過去に戻って花水木教授から離れる側の選択肢を取る事でエンディングに向かう事が出来ました。このやり直しをさせる展開も上手いと思いました。

 後は他の登場人物が全員個性を発揮していたのが良かったと思いました。中でも主人公である水華は見事な存在感でしたね。身長201cmの女子大生なんて、その時点でぶっ飛んでます。そして始めこそ春菜に魔法で全くかなわなかったのに、その後自分自身が持っている魔力の大きさを知り自分なりに創意工夫して周りを圧倒していく様子にスカッとしました。何よりも、あの竹を割ったような性格が好きですね。気に入らないものは気に入らない、悪いものは悪い、その性格がハッキリしているのが良いと思いました。もしかしたら、花水木教授も薄々感づいていたんじゃないかと思っております。水華が自分の計画を完全に妨害するという事に。物語最後、どこか吹っ切れた様子の花水木教授の姿が印象的でした。水華と冬星の前に完敗したという事を受け入れたという事なんでしょうね。水華と冬星が今後魔法使いとして生きていくかどうかは分かりませんが、どのような形であれあの性格のままでいて欲しいと思いました。

 実際のところ、私自身も魔法の仕組みやルールについて理解している訳ではありません。固有名詞がとても多く、理論が複雑ですのでもう登場人物の行動にお任せした感じです。ですが、そんなプレイヤーの気持ちを全て主人公水華が代弁している構図も良かったと思いました。これこそが、まさに主人公の役割だとも思いましたね。主人公って、基本的に人格はそれぞれで自由に持っていていいと思うんですけど完全にプレイヤーと共感できない主人公に対する扱いは辛辣です。今回でいれば、身長201cmで勝気な性格はそこまで共感されないとしても魔法に対して訳が分からないと言い切るところは共感出来ました。そして、分からないながらもじゃあとりあえずこうしたらいいんじゃない?と行動に移すところも良かったです。細かいところはいいから大雑把に方向性さえ合っていればいい。この案ずるより産むが易しの精神は是非見習っていきたいと思いましたね。

 今回初めて自転車創業さんの作品に触れANOSシステムに触れましたが、ノベルとゲームを大きく近づけるシステムだと思いました。プレイヤー側から積極的に選択を選んでいく記憶管理、やり直したいところに自由に戻れる設定、まさにノベルゲームという印象でした。ビジュアルノベルが好きな人にはもしかしたらストレスに感じるかも知れませんけど、大変な分エンディングにたどり着けたときの喜びは大きかったですね。基本的に、初めてプレイしてそのまま都合よくエンディングにたどり着けることは中々難しいです。それこそ、案ずるより産むが易しの精神で色々と弄ってみるのが結果として正解にたどり着く事に繋がりました。そんな、ノベルゲームの新しい姿を見る事が出来ました。楽しかったです、ありがとうございました。


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