M.M そらのひらけたばしょ 出題編




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 7 - 79 2〜3 2020/12/17
作品ページ(なし) サークルページ(Twitter)



<折角の「出題編」ですので、是非課題にチャレンジして自分の答えを用意して「解答編」に挑んで下さい。>

 この「そらのひらけたばしょ 出題編」は同人ビジュアルノベルを制作されている「文芸部」で制作されたビジュアルノベルです。文芸部さんの処女作であり、COMITIA134で頒布されました。プレイする切っ掛けですが、文芸部のメンバーである伴坂氏の作品を過去にプレイした事です。氏の個人サークルである「macrophage」で制作された「transit -an Extrasolar human(s)-」は私の中で非常に印象に残っている作品です。近未来を舞台とした人間の感情に肉薄するシナリオは誰もが自分の生き方を考えさせられる物であり、多くの方にオススメしたい作品です。「そらのひらけたばしょ 出題編」はそんな氏が製作に関わっている作品という事で、情報を得てから必ず入手しようと思っておりました。COMITIA134では旧交を温める事も出来、とても嬉しく思った事も印象に残っております。

 タイトルに「出題編」とあります通り、サークルさんからこの作品に対して謎を投げかけております。そして、その謎に対する「解答編」を現在制作中です。現在Twitter上では、出題編で提示された課題に回答した方に解答編をプレゼントする企画を行っております。後ほど通常販売するかは今のところ分かりませんが、少なくとも「出題編」と「解答編」を合わせて1つの作品になる事は間違いありません。同人ビジュアルノベル業界において作品を分断し複数のタイトルを重ねる事で完結させるサークルさんは数多くいますが、今作は明確に出題編としておりますので是非謎解きに挑戦するのが一番楽しい楽しみ方なのかなと思っております。とはいえ、正解でも不正解でも問題ありません。参加するだけで解答編を頂くことは出来ますし、何よりも謎解きをする事で作品をよく理解しようとする事になります。色々と伏線が張られておりましたので、解答編が楽しみです。

 舞台は、ミュータントと呼ばれる存在に脅かされている架空の地球です。この地球では地上の環境が荒廃し、そんな環境に適合しているミュータントが跋扈しております。その為人類は地下に生活圏を移動し、ミュータントと戦いながら生きております。また、この世界には人間とは別にデュプリケートと呼ばれる存在がいます。アンドロイドの様な存在であり、人間以上の運動能力を持っております。そんな人間とデュプリケートが存在する世界で、ミュータントと戦う主人公氷川カナメの視点で物語は始まります。カナメは人間であり、同じく人間の桜田タツミ、デュプリケートの志水アヤセと3人1組で行動しております。普段は普通の学生の様ですが、いざミュータントとの戦闘になるとデュプリケートのアヤセを中心とした命を削る様相になります。そんな日常と非日常が織りなす中で、カナメは好きになる事について漠然と想いを馳せておりました。この3人の関係はいつまで続くのだろう、そしてこの世界はどうなるのだろう、是非皆さんの目で見届けてみて下さい。

 特徴としては、とにかく世界観を丁寧に説明している点にあります。近未来SFですが、その雰囲気を自然体のテキストで表現しておりいつの間にか頭の中にプロットが入り込んできます。人物の様子が自然体だからなのかも知れませんね。ミュータントはミュータントとして描かれておりますし、バトルシーンも臨場感があります。またそれに対してBGMは控えめです。物語の中で重要な位置づけになっているピアノ曲を中心に数曲しか流れません。これもある意味雰囲気を味わって欲しいという事と、このピアノ曲を印象付けたいという狙いがあるのかも知れません。演出にも拘りがあり、緩急もありますので読んでいて飽きも来ませんでしたね。何よりも出題編ですので、是非登場人物が何を考えて生きているのか、そして世界がどうなっているのか考えながら読んでみて欲しいです。

 プレイ時間は私で2時間10分でした。選択肢は無く、1本道でエンディングまでたどり着く事が出来ます。上でも書きましたが、テンポが良いですのでサクサクと読み進める事が出来ます。2時間10分でしたが、体感的にはもっと短いと思っておりました。解答編がどんなものか分かりませんが、まだまだ世界の謎が残っておりますので出題編以上のボリュームになる気がします。何よりも、物語の本当ターニングポイントで終わりましたので続きが気になってしょうがないですね。解答編は2021年に発表できるとの事ですが、期限を気にせず描きたい物を描き切って完成させてほしいと思っております。そして、提示された課題についてはネタバレ有りの方で解答しようと思いますのでそちらをご覧ください。楽しかったです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<基本的に、自分の想像出来る程度の物語であって欲しくはないですね。絶対に外れて欲しいです。>

 単純に物語に引き込まれました。人工太陽とかデュプリケートとかの設定もしっかりしてましたし、ミュータントの存在も唯の敵ではなくどうやら何か裏設定があるような感じでしたからね。私自身謎解きはそこまで得意ではありませんが、色々と想像力を掻き立てられるシナリオだったと思っております。

 それではまずは初級から。私が一番謎に思ったのはミュータントの正体です。ミュータントはただ本能で人間を襲っているのではなく、何か目的が合って行動している様子でした。個体も様々であり、時にはチームを組んで計画的に進行しておりました。その様子は、まさに人間の行動そのものだと思いました。何よりも、カナメはミュータントから「コロサナイデ」という声を聴いております。ミュータントが言葉を発したのです。もしかしたら、ミュータントは元は人間であり何らかの結果でミュータントになってしまったのではないでしょうか。出会ったら直ぐに排除するべきミュータントが研究施設で隔離されている点からも、そうした裏工作が働いている様に思えます。そういえば人間に似ている存在がもう一つありましたね、デュプリケートももしかしたら元は人間だったのかも知れませんね。

 次に中級です。私が白金カグラの行動で一番印象に残ったのは、自分の足を決して直そうとしない事でした。その理由は「私は人間でいたい」というもの、ですが私たちが生活している現代社会でも義手や義足は当たり前のものです。この世界では、足を直すという事はより人間らしさを失う行為なのではないでしょうか。そうであるのなら、人間であり続けたいと思うのは自然な事だと思います。ですが、もしデュプリケートもまた人間になる事が出来ればカグラは再び足を取り戻す事が出来るのではないでしょうか。その実験台として選ばれたのがデュプリケートであるカナメ、もしカナメが恋をする事が出来たらそれはもはや人間そのものです。その事を確かめたいと思って、カグラはカナメに近づきアヤセとの時間を観察しその心を研究していたのではないかと想像します。そして結果としてアヤセを好きだと言いました。ですが結果はカグラの望んだものになった訳では無さそうですね。

 最後に上級です。まずもって、最後の最後でアヤセは人間でありカナメがデュプリケートである事実に驚きました。ですが、それは裏を返せばアヤセを含めカナメの周りにいる人全員がアヤセを人間だと理解しながらデュプリケートとして触れていたという事になります。非常に組織的、その中でアヤセはどういった立場だったのでしょうか。思うに、単純にデュプリケートを人間にする事にそこまで意味があるとは思えません。人間は人間で、デュプリケートはデュプリケートだからです。もしかしたら、アヤセとカナメは過去に何らかの形で関わっており、人間同士でいられなくなった2人がもう一度人間に戻りたいと願った結果がこの組織的な実験なのかも知れませんね。理由なんて分かりません。何故アヤセがデュプリケートとして振る舞っていたのか、何故カナメに告白されて笑ったのか、そして自殺したのか。少なくとも、想いを寄せている人からのアクションでないと自殺はしないと思っております。かつてアヤセとカナメは関係があった、何らかの形でカナメがデュプリケートになった、人間のカナメを取り戻そうとして失敗した、こんな感じでしょうか。

 あとこれは先入観ですが、私名前をカタカナで各作品って大概疑って掛かります。絶対にミスリードを狙ってますからね。もはや誰が人間で誰がデュプリケートなのか関係ないのかも知れません。ここにミュータントも間違いなく加わってきますね。そうなれば、この世界はどういった構造になっているのかという部分にまで発展します。そしてここにいる登場人物が、その秘密に大きく関わっているのは間違いありません。SFですからね、その位のワクワク感があった方が良いと思います。何れにしても解答編で全てが分かります。個人的に、自分の答えは外れて欲しいですね。自分が想像できる程度の物語展開だったら、それはそれでつまらないですし。解答編、楽しみにしております。


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