M.M その日の獣には、




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 7 82 8〜10 2019/3/2
作品ページ(R-18注意) ブランドページ 通販



<minoriが最後に送る青春の物語、是非自分だったらどうするかを考えながら読んでみて下さい。>

 この「その日の獣には、」はアダルトゲームのブランドである「minori」で制作されたビジュアルノベルです。minoriの作品の特徴として、群像劇といった手法やインタラクティブ・ノベルと言われている表現方法が挙げられます。立ち絵の感覚で一枚絵のスチルを多用しており、全体として映画を見ているかのような一体感を感じる事が出来ます。私が初めてminoriの作品に触れたのは2006年に発売されたef - a fairy tale of the two.でして、その時からこのスタンスは変わっておりません。特に2012年に発売された夏空のペルセウスからはヒロイン全員巨乳という路線も加わり、アダルトゲームブランドとしての存在感を示しておりました。

 そんな業界では誰もが知っているminoriですが、2019/2/28に「ソフトウェア制作終了のお知らせ」という告知が出されました。minoriとして今後新たに作品が作られる事は事実上無くなるという事です。そういう意味で、今回レビューしている「その日の獣には、」が事実上最後のタイトルになります。私がこの告知を知ったのは、その日の獣には、のヒロイン3人中2人を攻略し終わった後でした。ビックリしたと同時に、残念な気持ちと一つの時代が終わるのかという気持ちになりました。だからこそ、そのminoriの最後の作品のしかもメインヒロインのシナリオを控えているのは逆に良かったと思っております。この作品を通してminoriが言いたかった事、そしてこれまで長きにわたって作品を作ってきた精神を感じようと思い、今回のレビューに至っております。

 主人公である友瀬律希は演劇部員の一年生です。妹である友瀬瑠奈や幼馴染である池貝舞雪、そしてクラスメイトである深浜祈莉と共に全国大会に向けた学園内予選にエントリーしようとしておりました。ですが、学園の伝統で一年生にはエントリーする資格が無い言われてしまいます。納得できない彼らは、何とかして実力で権利を勝ち取ろうと奮闘するのです。そんな演劇部ですが、昔から一つの噂がはびこっております。それは幽霊の噂であり、その幽霊は演劇に関する願いであれば何でも聞いてくれるとの事です。それは隠しようのない程魅力的な提案、願えば夢が叶うのであれば、それ程嬉しい事はありません。ですけど、そのようにして手に入れた力で作り上げた先に何があるのでしょうか。そして彼らは学園内予選にエントリー出来るのでしょうか。思春期らしい青春の物語が幕を開けます。

 今回の作品の舞台は学園であり部活動です。そして演劇というチームで協力しなければいけない題材です。それぞれがそれぞれの想いを持ちつつも共通の目標に向けて歩んでいくという事は、必ずやどこかで意見や価値観の衝突があるという事です。実力の差や表現の差が理解出来ず苛立ったり、また自分の不甲斐なさにやるせなさを感じたりします。そんなリアルなスポコンな様子を見る事が出来ます。そして、そんな彼らにとって願えば何でも叶えてくれる存在はとても魅力的です。それで自分のコンプレックスが解消されるのであれば、それでチームとしてまとまるのであれば、それもまた良いのではないか。そんな葛藤を見る事が出来ます。そして、そんな幽霊の甘い誘惑の手を取るのも取らないのも、彼らの気持ち一つで自由に決める事が出来るのです。もし自分が同じ立場だったらどうするだろうか、そんな事を考えてみて下さい。

 そしてminoriと言えばやはりおっぱいは欠かせません。ここ最近のminoriの例に漏れず、ヒロインは全員巨乳です。そして流れるようにHしてしまいます。これはこれでしっかりと堪能するべきですね。個人的に思うのですが、18禁ゲームにおいて用意されたHシーンの全てで抜く事がその作品に対するリスペクトだと思うのですよ。加えて今回は割とセリフじみた名言も飛び出したりします。思わず感心してしまうような、ちょっと笑える名言です。そんな遊び心も楽しみ、純愛もエロも全て堪能してみて下さい。シーンの数も各ヒロイン3以上あり、全体で合わせて10以上のシチュエーションが用意されております。おっぱいを活用するのは勿論、それ以外も割と種類は多かった気がしますね。大変満足でした。

 プレイ時間ですが私で8時間40分程度でした。共通ルートが約2時間で、それぞれ個別ルートが2時間といったところです。正直言って、短めだと思います。展開も、ヒロインをクリアしていくにつれて先が読めてしまうかも知れません。それでも、この作品で表現している青春らしさと想いについては十分に伝わりました。伝わるものが伝わったので、これで良いのかも知れません。日常のエピソードとか、引き延ばそうと思えば幾らでも引き延ばせそうでした。それを敢えてしなかったのは、何かminoriで考えた結果なのだろうと思っております。minoriの最後の作品という事ですが決して大作ではありません。ある意味、いつも通りのminoriという事ですね。そんなminoriらしいminoriを楽しんで頂ければと思います。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<相手とコミュニケーションを取り信頼する事で、初めてチームになる事が出来る。>

 ここ最近のminoriは、ちょっと普通ではない超常的な登場人物を加える事で独特の雰囲気を作ってました。そして、その中に普遍的な物があるという提示が印象的でした。ですが、最後の作品となる「その日の獣には、」に、そのような特殊な登場人物はいませんでした。等身大の学生による気持ちのぶつけ合い、久しぶりに直接的に訴えてくるシナリオを読む事が出来ました。

 目の前に人知を超える力がぶら下がっていたら、きっと誰もが思わず手を伸ばしてしまうと思います。自分の努力では決して手に入らない力、魔法の様な力であれば惹きつけられるのは当たり前だと思います。物語の中でも、祈莉・瑠奈・舞雪の3人はクロガネの提案に乗り契約を結びました。表向きはチームの為、ですがその実は自分が責められない為であり律希に嫌われないようにする為でした。人はもしかしたら、自分の手に余る力を手に入れてしまうとその使い道が分からず、本質を見失ってしまうのかも知れません。目標が急に目の前来て手が届いてしまい、そこから次の道が分からなくなってしまうという事です。叶えたい夢があったら、やはり自分の足でその夢に辿り着く事が大切なのかも知れません。

 この作品で一番印象に残ったのは、攻略対象であるヒロインが律希と結ばれる過程の中で、他のヒロインもまたちゃんとチームとして認めてくれていた事です。この作品のテーマはチームだと思っております。演劇を通して自分を発信したい、その想いが強かったからこそ衝突したり反発したりしました。自分の夢を実現するために、このメンバーではダメだと思った時もありました。ですが、最終的に4人はチームとして信頼しソノヒノケモノニハ、を演じ切りました。そこに後悔の色はなく、誰もが欠けてはいけないという連帯感がありました。クロガネの力を経て格段の向上したチームの実力、ですけど最終的にそのクロガネの力を失ってでもチームの連帯感を選択しました。この瞬間、やっと4人は一つのチームになったのかも知れません。

 クロガネの力を得ようとしたヒロイン達も、相手の気持ちを推し量って自分だけで考えて契約しておりました。自分は実力が無ければ皆に嫌われてしまう、そんな思い込みがあったんですね。だからこそ、クロガネの力を手に入れた事を話す事が出来ず、また手放す事も相談出来ませんでした。他のヒロインや律希にとってみれば、とんだお節介だと思います。別にクロガネの力が無くても自分はあなたの事が好き、それなのになに勝手に不安になって契約なんかしてるの?こんな感じだと思います。チームになるには信頼関係が必要、それもまたこの作品にとっての象徴だったと思います。

 何よりも、ソノヒノケモノニハ、の台本を授けたクロガネ本人が相手の気持ちを推し量ってました。自分が超常的な力を持っているからこそ、自分の力が無いとソノヒノケモノニハ、は完成しないと思い込んでいたクロガネ、それはある意味クロガネが周りを信頼していなかったという事かも知れません。もしくは、ソノヒノケモノニハ、の舞台に少しでも自分も関わりたかったという気持ちの表れなのかも知れません。どちらにしても、クロガネは本気でした。大切な仲間が作り上げたソノヒノケモノニハ、という台本、それを形にしたいという想いは本物でした。だからこそ、それを見事に演じ切り加えてその続きも作り上げた彼らの姿を見て成仏出来たのだと思います。何よりも、クロガネの傍にはいつも詩乃さんがいましたからね。初めから、クロガネは孤独なんかではなかったんですね。

 現実世界でも、ちゃんと話せば意外と相手との距離は縮まると思います。それが中々出来ないから、変な想像をして相手の気持ちを推し量って知らず知らずのうちにすれ違ってしまうんですね。ですけど、社会の中で生きている以上一人で生きていく事は不可能です。そうであるのなら、負い目など意識せず自分が疑問に思った事を口に出すしかないと思います。この4人も、初めからそれが出来ていればクロガネの力は要らなかったのかも知れません。いや、逆にクロガネの力があったからこそコミュニケーションの大切さに気付けたんですね。周りの人は思ったよりも自分を見ていなくて自分に気を使っている、それが分かった瞬間にチームになれる、そんな事を思いました。ありがとうございました。


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