M.M スノー・ドロップ




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 5 5 77 3〜4 2014/11/22
作品ページ(なし) サークルページ(なし)



<提示されたテーマに対し真剣に答えを求める登場人物達の描写が大変心に残りました。>

 この「スノー・ドロップ」という作品は同人サークルである「Neoぷろじぇくと」で制作されたビジュアルノベルです。COMITIA109で同人ゲームのエリアを回っている時に手に取った事がNeoぷろじぇくとさんを知った切っ掛けでして、透明感がありながらもどこか憂いを浮かべた女の子達が描かれたパッケージに惹かれました。裏面には個性豊かな登場人物達が紹介されており、この作品がただ女の子とイチャイチャするだけではない重い内容になっている事を感じさせました。感想ですが、提示されたテーマに対し真剣に答えを求める登場人物達の描写が大変心に残りました。

 主人公である小池和哉はかつてはどこにでもいる普通の学生でした。両親と妹の4人家族であり、人並みの幸せな生活を送ってました。ですがそんな最愛の両親は殺され、和哉は殺人の疑いて逮捕されてしまいます。そんな和哉の事を救ってくれたのは贖罪所と呼ばれる謎の組織、そこは他人によって最愛の人を失いそれによって憎しみを抱いた人が大勢所属している殺人組織でした。和哉もこの贖罪所と呼ばれる組織に入る事になり、同じ大学の同学年である羽鳥ユリアを始めとした多くの人と出会う事で自分自身の心と向き合っていくことになります。贖罪所に所属している中で身につけた銃やナイフなどの武器と殺人術、それを振るう事の意味と成すべき事についてプレイヤーの方も一緒に考えて頂ければと思います。

 最大の魅力は登場人物達のパーソナリティです。両親を殺された和哉は心に憎しみと犯人に対する恨みを抱えております。ですが贖罪所に所属して実際に殺人の現場に対面したとき、その恐怖心にすくみ何も出来ませんでした。こんな自分に犯人を殺せるのか、そもそも殺すことは正しいのか、何が正しいのかといった葛藤を繰り返す事になります。そして主人公である和哉以外の登場人物達も同じような悩みを抱えております。誰もが個性的な性格で魅力的なのですけど、心の闇の深さは測り知れません。表面上現れる発言や振る舞いだけでは絶対に彼ら彼女らの本心を見出すことは出来ませんので、どんな気持ちで物を発言しているのかを推察すると面白いかと思います。

 そしてこの作品には数多くの戦闘シーンが登場します。それは銃であったりナイフであったりと様々であり、独特の緊張感が十二分に伝わるシーンが描かれております。勿論血も飛び出ます。人も死にます。それに対して決して妥協することのないグラフィックとなっておりますのでかなり迫力があると思います。かなり動的な雰囲気を感じる一枚絵になっておりますのでそれだけでも堪能できます。後は登場人物達の表情の書き方ですね。割と顔をアップにしたCGが多かった印象でして、その分表情の幅が広いですので是非シナリオを合わせて楽しんで頂ければと思っております。

 プレイ時間は渡して3時間15分掛かりました。場面展開が早く1つのシーンについて5分も掛かりませんのでかなりサクサク進める印象だと思います。サクサク進む分しっかりと登場人物達の心理描写を追っていただき、提示されたテーマに対する答えをどのように見つけるのか確かめて欲しいですね。決して軽いテーマではありません。誰もが自分自身の身になるかも知れないテーマです。どこまで登場人物達の気持ちに寄り添えられるか、それがこの作品を楽しむ一番大切な鍵かもしれませんね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<悔しい、悲しい、憎い、殺したいという気持ちこそが人間である証拠なのかもしれません。>

 非常に重いテーマでした。最愛の人を殺された人が抱く悔しさ、悲しさ、憎さ、そして殺したいという感情、これは本当に犯人を殺すでしか解決しないのでしょうか。それとも殺しはやはり憎しみしかうまず、本当の意味で救われる事はないのでしょうか。これはその人その人によって答えが違うのだと思います。それでも支えてくれる人の存在がいるといないとで意味合いは大きく変わるのかなと思いました。

 どの人物も最愛の人を何らかの形で失ってました。そしてそのことによって大きな悔しさ、悲しさ、憎さを抱き、復習の炎に身を焦がすことになりました。これはやはり実際に最愛の人を失った人でないと分からない感情なのだと思います。作中でも上井さんが「人を殺した罪は無くならない」「新しい贖罪所のあり方を考えなければいけない」と話し、復讐することは本質的に解決する訳ではないと訴えてました。ですが、結果として和哉以外の人物は復習の炎に焼かれて精神を逸脱してしまいました。精神病棟に映った羽鳥、新たな復讐に目覚めた麻里、特に羽鳥の「ごめんなさい。やっぱり私、早川を許せないよ。」のセリフはその象徴ですね。これが本心なのだと思います。そしてそれは理性では片付けられないのだと思います。

 ではどうして和哉は目の前に仇が居るのにも関わらず殺さなかったのでしょうか。それはきっと最愛の妹が生きているからだと思っております。ある意味まだ和哉には救いがあるのです、支えてくれる人が居るのです。だから完全に復習の炎に燃やされる事はなかったのです。EDで妹を迎え入れるシーン、あの不安にさせる演出は間違いなく和哉の未来は妹と共に失われる事を暗示していました。それはきっと麻里の手によってですね。妹が殺されたとき、きっと和哉はもう上井さんと同じセリフは吐けないと思います。ゆきなが「あなたの考えは甘いのよ。」と言ってました。それを実感するのは、きっともう間もなくですね。

 ですが、それならばやはり本当に復讐を達成しないと救われないのでしょうか。決してそんな事はありませんでした。早川は上井さんを殺すことで仇討が完成しました。ですがそれで心が晴れることは無く、ただ自分の死を望む空っぽの姿が残るだけでした。ゆきなも憎い父親を殺しました。ですがその後も冷たい心のままで人を殺す日常に馴染んでいきました。仇討ちを完成させたからといって幸せになった人は誰もいませんでした。これもまた、仇討ちを完成させた人でないと分からない感情なのだと思います。これを羽鳥や麻里に話をしたところで机上の空論、決して心に届くことはありませんね。そしてその後に待っているのは虚無の感情。そうして復讐の連鎖は止まることはないのかなと思ってしまいました。

 結局のところ相手の気持ちなんて分かりっこないんですね。分かったつもりになる事は出来ても完全に理解することは出来ませんね。何故ならそれだけ悔しい、悲しい、憎い、殺したいという気持ちが強く、人の心を壊してしまうからです。誰もが理性的に生きることが出来れば何と平和な事でしょうか。殺人なんて起こり得ませんね。ですがそんな事はありません。逆にこの悔しい、悲しい、憎い、殺したいという気持ちこそが人間である証拠なのかもしれません。後はもう自分自身でしか解決できませんね。復讐を達成するのか、悲しみに泣き続けるのか、ただ感情が薄まるのを待ち続けるのか、何れの方法も苦しみが伴います。こんな理不尽な気持ち、どうにかして世の中から無くしたいと心から思った作品でした。


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