M.M 沈む月と欠片の少年少女




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 6 - 73 1〜2 2018/2/18
作品ページ(無し) サークルページ



<外見的にも内面的にも魅力的な5人の登場人物と共に、事件の真相を見つけていきましょう。>

 この「沈む月と欠片の少年少女」は同人サークルである「サークル出雲」で制作されたビジュアルノベルです。サークル出雲さんと初めてお会いしたのはC93で島サークルを回っている時でした。パッと目に止まったのは、ツインテールと肘を机につけて何か値踏みをするかのように見つめてくる女の子の姿でした。素直に可愛いと思いました。そしてサークルさんにお話を伺うとサスペンスものだとの事。こんな可愛いヒロインが活躍するサスペンスだったら、是非最後まで謎を解き明かしたいなと思いプレイし始めました。

 主人公である智頭広樹はどこにでもいる普通の男子学生です。平凡な街に生まれ平凡な生活をしております。唯一特徴があるとしたら父親がいないということ。ですがそんな事は女手一つで育ててくれた母親の愛情があれば些細な事でした。何よりも広樹の周りには信頼できる友達がいたのです。同じ文芸部に所属している毛越優也・須関加奈子・曽田哀・そしてメインヒロインである手戸亜里沙と合わせて5人で過ごす日常は、何にも代え難い日々でした。そんな平和な生活の中で、とある殺人事件が起きます。そして被害者は2人、3人と増えて行きました。この無差別連続殺人事件に、彼ら5人はとある共通点を見つけてしまいます。それが、彼らを恐怖と悲劇へと導く始まりだったのです。

 この作品の魅力、それは文芸部の5人のキャラクターと繋がりにあると思っております。メインヒロインである手戸亜里沙を始め、女性キャラクターはみんな特徴の違う美人ばかりでそれだけで魅力的です。加えてそんな外見だけではなく言葉使いや性格もギャップがあったりとプレイヤーを面白くさせてくれます。唯一の男性キャラクターである毛越優也もまた金髪のイケメンですが、真面目な性格でありとても好感が持てます。そして、一番の魅力はこの5人が繋がっているという事ですね。物語はじめ、殺人事件が発生してすぐに部長から招集命令が出ます。そして文芸部に到着して、そこで表示されるスチルがとてもカッコイイのです。主人公視点ですので4人映っているのですが、思い思いの姿勢と表情で佇む様子に彼らの信頼関係を伺う事が出来ます。彼らであればこんな無差別連続殺人事件なんてきっと解決できる。そう思わせてくれました。

 その他の点ですが、BGMは有名なフリー素材配布HPとして知られる煉獄庭園さんのものでした。場面に合った物を使っており、唐突に切り替わる様子がプレイヤーに空気が変わった事を分かりやすく伝えていると思いました。ですが、右クリックして元に戻すと強制的にBGMが最初から再生される現象がありました。仕様なのかも知れませんし殆ど気になりませんでしたが、BGMを聴き続けたいという人は注意が必要ですね。後は立ち絵のパターンや構図が大胆で良いと思いました。上でも書きましたが、この作品の魅力は5人の登場人物です。そしてそんなキャラクター達の魅力はスチルやテキストだけではなく立ち絵でも見る事が出来ました。いわゆる棒立ちの場面が殆どないのです。手の位置や仕草、視線などが細かく書かれております。是非それらにも注目してみて欲しいですね。

 プレイ時間は私で1時間40分掛かりました。選択肢はなく、一本道でエンディングまでたどり着けます。この作品はサスペンスですので、与えられた事実を元に彼らと一緒に真実を解き明かしてきます。少しずつ見えてくる真相と新たに浮かぶ疑問、このバランスも絶妙だと思いました。途中で私も真相はきっとこうなんだろうなと思ったのですが、1つ情報が提示されるだけでそれが不安になりました。そんな推理合戦をしても良いかも知れません。後は、登場人物達が学生ですので友情と恋愛の微妙な駆け引きを楽しむのも良いですね。何しろ18禁です。美少女たちとのHシーンを素直に追いかけても良いと思います。短いながらも様々な楽しみ方が出来る作品だと思いました。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<どんなに頑張っても報われない事がある。そうであるなら、せめて目の前にいる人だけでも守りたい。>

 突然発生した殺人事件、その法則性に気づいた文芸部の5人、そしてそこから導き出される自分たちの未来、さぞ怖かった事だろうと思います。それでも挫ける事なく事件の真相を探るべく奮闘した広樹と亜里沙、その結末のなんと虚しいことか。この作品は、唯一事件の当事者ではなかった亜里沙の、大切な人を守る為の戦いだったのかなと思っております。

 作中で何度も出ていた言葉に「なんで亜里沙はそんなに冷静なの!?」というものがありました。無差別連続殺人事件が起こり明日すは我が身という極限の状況にも関わらず、亜里沙は冷静に事件を分析し解決しようと努めました。ですが、その裏で最も怒りと悔しさを滲ませていたのも亜里沙だったと思っております。亜里沙は言ってました。「冷静なのは冷酷だからではない」と。自由に感情を爆発させられない亜里沙。そんな亜里沙が唯一作中で感情を爆発させたのは、皮肉にも自分の愛する恋人を殺そうとした哀が自殺を図った時でした。

 途中から哀が何か文芸部のみんなに言えない何かを抱えている事は気づきました。そして後半加奈子が死ぬ直前、電話で執拗に”広瀬と亜里沙が一緒に居ること”を確認する場面で犯人は哀だなと気づきました。ですが、まさかここまで大きく深い殺意を抱いているとは思いもしませんでした。自分の本当の父親は既に別の家族となっており、その事実に心を病んだ母親はあろう事か文芸部のメンバーの写真を見た事で自殺してしまいました。母親を殺したのは間違いなく毛越豪壮であり、間接的に毛越豪壮の子供達が切っ掛けを作りました。哀にとって、もはや文芸部のメンバーはみんな殺すべき対象でしかありませんでした。

 ですが唯一殺しの対象ではない人物がいました。それが亜里沙でした。毛越豪壮の血が入っていると入っていない、これだけが哀にとって人を区別する基準でした。ですが、いくら亜里沙は殺さないとしても文芸部のみんなを殺すことは間接的に亜里沙を殺す事だと分かっておりました。そんな小さな情けが広樹に止めを刺さなかったこと。正直、そんな情けなんて要らないと思うんです。それだったら、どうして優也を殺したのって言いたかったのではないでしょうか。哀もそう思ったのだと思います。情けで広樹に止めを刺さなかったとは言え決して亜里沙に見せる顔などありません。このまま静かに自殺して全ての幕を下ろそうとしました。

 それでも亜里沙は泣きました。たとえ殺人鬼でも大切な友達のために泣きました。目の前で恋人が瀕死であるにも関わらず泣きました。本当、亜里沙は心優しいと言いますか最後まで利他的に行動出来たなと思っております。持ち前の頭脳と冷静さで事件の解決のために奮闘した亜里沙、そんな亜里沙が最後に見たのは死にゆく哀の笑顔でした。自分はこんな顔を見るために頑張ったんじゃない!そんな気持ちで一杯だったろうと思います。最後あとがきでも「学生の限界」というものを書きたかったとありました。どれだけ頑張っても届かないものがある、それを痛いほど痛感させられました。サスペンスなのに選択肢がない、それは決してハッピーエンドにはたどり着けないという暗示だったのかも知れません。

 最後広樹は後遺症が残りつつも一命を取り留めました。この後も2人には試練が待っていると思います。何よりも、あれだけ親しかった友人たちの家族がみんな毛越豪壮との血縁ですからね。母親とどんな風に向き合うんでしょうね。いよいよ本格的に毛越豪壮は殺されるんじゃないかと思います。ですが、もはやそんな事は広樹と亜里沙には関係ありません。今は唯、目の前にいる大切な人と共に有りたい。そんな事を思っているのではないかと思います。ありがとうございました。


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