M.M しろのあしあと〜第一章〜




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 5 - 71 2〜3 2013/6/22
作品ページ サークルページ
フリーゲーム夢現



<会話中心のテキストが描くリアルな生活が魅力の作品>

 この「しろのあしあと〜第一章〜」は、同人サークル「HAZERO」で制作されたサウンドノベルです。「HAZERO」さんに初めて出会ったのはCOMITIA103で同人ゲームサークルを回っている時でして、正直その時は同時に購入した大量のサウンドノベルの1つ程度の認識しかありませんでした。その後幾つかのサウンドノベルをプレイしていく中で日常の中に生まれた非日常を描いたあらすじに目が留まり、プレイしてみようと思い今回のレビューに至りました。感想ですが、リアルな大学4年生の行動や心理描写が非常に丁寧であり、その中に訪れた非日常による変化を描いたシナリオが非常に楽しい作品でした。

 OHPをご覧になれば分かりますが、この物語の始まりは春であり主人公は大学4年生です。大学4年生といえば調度就職活動の真っ最中であり、学生というモラトリアムが終わり社会の中で働いていく最後の余暇でもあります。その為多くの大学4年生にとってこの時期は最も忙しくなる時期の1つであり、就職活動をしている学生にとっては内定を貰う事がゴールの1つとなる訳です。主人公もそのような周りの流れに巻き込まれながらもどこか本調子が出ず、真面目でありながらどこか不安な気持ちを抱えている極々普通の大学4年生でした。内定を貰えない焦りがありながら根本的な解決方法が見つからず悶々と過ごしている時に、突然非日常の世界がやってくる訳です。

 この作品の面白いところは大学4年生の生活や心理描写がリアルに描かれている所です。主人公は大学4年生という事でゼミに所属しており、物語の中でもゼミの風景が描かれております。ゼミの中には同期の友人もいれば後輩である3年生もおり、その人物像も多種多様です。就活に悩んでいる人、大学院に進む事を決めている人、就活を楽観視している人、後輩でも人と話すのが苦手な人やそうでもない人などが所属しており、そんなゼミの会話風景はまさに製作者が実際に体験してきたかのようでした。また主人公はダイニング・バーでバイトをしております。ここでも40代のマスターを始め同世代のバイトやマスターの娘である高校生など多種多用な人物が登場し、ダイニング・バーでの日常が楽しく描かれております。

 そしてこの作品の日常をリアルに描いている要因は会話の多さにあると思いました。これまで幾つものサウンドノベルをプレイしてきましたが、この作品のテキストにおける会話の割合は結構多かったです。ゼミの中でもバイトの中でも当然登場人物達の会話が出てくる訳ですが、こういった場面では大概は主人公の心理描写や状況説明を会話の合間に挟みながらテキストが進んでいくものです。ですがこの作品では本当に『』で括られた会話のテキストが非常に長く続き、心理描写や状況説明の為のテキストは会話の区切りにまとめてある程度でした。これがリアルな大学4年生の生活を描いている要因だと思いましたし、この作品のテキストの魅力であると思っております。これは決して状況説明を疎かにしている訳ではありません。会話を聞いていれば必然的に状況が理解できますし、同時にそういったテキストを書いているという事です。私の左クリックがとまらなかったのもこうした会話中心のテンポのよいテキストだったからなのかも知れません。

 そしてここまで書いておきながらこのシナリオに訪れる非日常については何も書いておりません。OHPの中でも何か非日常なのか誰がトリガーなのかが書かれておりません。ですがその非日常は真面目であり不安を抱えている主人公の生活を大きく変えるものであり、同時にプレイヤーに対しても驚きを与えてくれます。いったい何が非日常なのかは是非実際にプレイして確かめて頂きたいですね。そしてこの作品はまだ第一章です。これから第二章・第三章と続いていくのだと思いますが、非常に先が気になる展開で幕を引いており直ぐに続編をプレイしたくなる演出でした。この非日常の先に待っているゴールは何か、それを求めて早速続きをプレイしようと思っております。そんな作品でした。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<主人公の心理描写にどこまで寄り添えるかがこの物語を楽しむ鍵になると思います>

 驚きました。まさか冒頭に登場ずる白い髪の女の子がまさかハクビシンが人間の姿になった存在だとは思いませんでした。そしてそんなあり得ない非日常を何とかして受け入れようとする主人公に非常に好感が持てました。というよりも、どこか孤独で不安な気持ちを持っていた主人公にとってこのハクとの出会いはこれまでの自分の生活リズムを崩す厄介な存在であると同時に孤独や不安を払拭してくれる存在でもありましたね。

 この作品はとにかく主人公の心の動きにどこまでプレイヤーが寄り添えるかが大事になってくると思いました。大学4年生であり将来が定まらない不安に日々苛まれている日常、そんな日常に突如やってきた主人公にとってみれば異分子である存在のハクは唯でさえ将来が定まらない主人公にとってみれば邪魔者以外の何物でもありませんでした。しかしゼミやバイトの空間とはうって変わって1人のアパートの部屋の空間は主人公ですら意識してませんでしたが寂しい空間であり、それを壊す存在を実は望んでおりました。だからこそ主人公はハクを追い出すことをせずに一緒に生活する事を決めたのだと思います。そのような感じで主人公を取り巻く環境と主人公の心理をプレイヤー理解してこそ初めてハクとの生活に至った心理を理解できるのかなと思います。

 思い返せば会話中心のテキスト構成ももしかしたらプレイヤーがより主人公の心の動きを理解できる為だったのかも知れません。文章で「主人公は不安に思った」とか淡々と書かれてもプレイヤーには本当の意味で伝わるものではありません。ですが会話の中で主人公が不安に思っている描写を描いた方が直接文章で不安に思ったと書くよりもより正しく主人公の心理描写は伝わります。そんな感じでプレイヤーが事実としてではなく心で主人公の心理描写を理解するからこそ、この日常が非日常に変わる事を選択した主人公の気持ちを理解できるのかなと思いました。

 そして実は主人公以外の人物の心理描写については全て主人公視点の想像でしか語られておらず本当の意味で他の登場人物がどのような事を思っているかはわかっておりません。まあこれは多重視点の構成をとっていないので当たり前と言えば当たり前ですが、意図的に主人公の心情にプレイヤーの心を寄せるような会話中心のテキストにしている所が実はミソになっているのかも知れませんね。ハクは本当に何も考えていない無邪気な性格なのか、真中周や緒方まどかは実際のところ主人公の事をどのように思っているのか、主人公視点や会話の中でも割と創造できたりしますが、それが真実かは別問題です。今後主人公と他の登場人物との絡み方はどのようになっていくのか、そのあたりにも読みどころだと思っております。

 そして正直シナリオの大筋とはあまり関係ないと思っていた肝試しのエピソードがまさかバリバリ本編に絡んでくるとは思ってもみませんでした。緒方まどかのパーソナリティを描くアクセント程度の内容だと思ってましたので、これからの展開が非常に楽しみです。そしてこれまではハクが唯の厄介者としか描かれてませんでしたがここにきてまさかの大活躍です。これは素直にワクワクしますね。非日常の中心にいるハクが傍にいる事は肝試しの真相を暴こうとする主人公にとっては力強い味方だと思います。このあたりの微妙な主人公の心の揺れもポイントですね。果たして緒方まどかは無事なのか、肝試しの真相はどうなのか、そしてこの物語のゴールは何なのか、そんな事を思いながら第二章に進んでいこうと思います。


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