M.M 死神カウンセラーとヒマワリ症候群




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 8 6 82 3〜4 2013/9/6
作品ページ サークルページ



<始めからテーマが提示されておりそれを表現する為に真っ直ぐ紡がれる物語は非常に貴重でした>

 この「死神カウンセラーとヒマワリ症候群」という作品は同人サークル「ぱとろーね」で制作されたサウンドノベルです。「ぱとろーね」さんを知った切っ掛けはC83で同人ゲームの島サークルを回っているときに偶然見つけたことでして、その時購入した「黄昏コントラスト」という作品が短いながらも主人公の真っ直ぐな想いを描いた作品で非常に印象に残ってました。続編である「黄昏コントラスト 〜去るものは日々に疎し〜」もプレイさせて頂き、新作が出れば必ず購入してプレイしようと決めておりました。今回プレイした「死神カウンセラーとヒマワリ症候群」はCOMITIA105での新作でして、人を救うというテーマを持ち前の丁寧さでどのように表現するのかに注目してプレイしました。

 OHPを見ると分かりますが、この作品はぱとろーねさんの中で立ち上がっている規格である「project flower」の第一弾作品です。世の中は理不尽な現実で溢れている、それでもせめてプレイヤーの前だけには希望に満ちた世界を見せてあげたい。そのような壮大な前置きの元に立ち上がった企画という事でこの作品のテーマも必然的に人の心というものになっております。あらすじを見ればわかりますが、主人公はカウンセラーです。カウンセラーというのは一般的に依頼者の心の悩みや不安を解決する職業です。その為物語は主人公が仕事を依頼され、依頼主の元を訪ねるところから始まります。

 しかし主人公は唯のカウンセラーではありません。タイトルにもあります通り、主人公は全身を黒に染めており左目には眼帯をしている稀有な出で立ちをしております。そんな主人公が一般的なカウンセラーのようなカウンセリングをするとはとても思えません。そして依頼主も一筋縄でいくような悩みを抱えている訳ではありません。ここで思い出して欲しい事は、「project flower」は理不尽である世の中でもせめてプレイヤーの前では希望に満ちた世界を見せたいとうたっているという事です。その為この物語も基本的に理不尽な状況が続き途中プレイヤーにとっても目を背けたくなるような状況が待っているかも知れませんが、最後には希望が待っていると信じてプレイしてみてください。

 そして「黄昏コントラスト」の時から思っていたのですがぱとろーねさんの作品の人物描写はとにかく非常に明るいですね。絵柄の為なのか塗りが鮮やかだからなのか分かりませんが、どの人物も存在感がありもっとそのキャラクターの事を知りたいと思ってしまいました。これもこの作品の重要な特徴ですね。稀有な存在感を放っている主人公、そんな主人公とは真逆の性格な助手、そして依頼主である車椅子の少女とそのメイド、加えてもう1人のカウンセラーと誰1人欠けてもこの物語はゴールにたどり着けません。是非プレイヤーの方にはそれぞれのキャラクターがどのような事を思い行動しているのかを想像しならかプレイして欲しいですね。

 という訳で心という重いテーマを魅力あるキャラクターで表現した作品でした。始めからテーマが確立していてそれを表現する為に最初から最後まで真っ直ぐに物語を紡いでいく作品はありそうで中々あるものではなく、ぱとろーねさんの表現したいという想いが滲み出ている様でした。ちなみにプレイ時間としては私で3時間でした。ですが実際はもっと長くプレイしているような印象であり、それだけ物語に引き込まれてプレイしたという事なのかも知れません。そういう意味でも気軽にプレイする事が出来、プレイ時間以上の満足を得る事が出来ると思います。主人公がどのように依頼主の心の闇を取り払うのか、是非プレイヤー1人1人の目で確かめて欲しいですね。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<人が人を救うために出来る事、それは本気で自分自身と向き合うための切っ掛けを与える事>

 全く容赦のないシナリオでした。主人公は善人でも悪人でもなく、自分のやり方を一切曲げず正面から依頼主に体当たりしていく存在でした。周りから見れば狂気の沙汰に見え、なるほど確かに死神という名にふさわしい行動だったかもしれません。ですがそれが最良の結果を生み、最終的に主人公の目標である「ヒマワリを摘み取る事」を達成できたのかなと思っております。

 この作品は主人公がヒマワリ症候群を患っている人を救う物語でしたが、それは同時にヒマワリ症候群の人がそれぞれ自分自身と向き合うための物語でもありました。確かに主人公は粗治療と言える行動でそれぞれの患者と接していきました。ですが実際は主人公が患者を治した事は1つとしてなく、全ては患者自身が自分と向き合う事で問題を解決していきました。そういう意味で主人公の行動は最適であり、それが分かっていたからこそ主人公はこのスタイルを曲げる事無くこれまで貫いてきたのだろうと思います。。

 主人公の手にかかった患者の多くは主人公と絶縁し二度と修復できない傷を負ったという話もありました。その患者は恐らくギリギリの部分で自分自身と向き合う事が出来ず、その甘えの原因を主人公に押し付けたのではないかと思っております。ですがそれは仕方のない事だと思います。人はどうしても1人では生きられない存在です。それは他人を頼りにし他人に認められる事が自分という存在を確立させる唯一の方法であるからです。それなのに周りをシャットアウトして完全に自分と向き合わせて自分だけで答えを出させるという事はある種の拷問ですね。それに耐えられない患者であれば小麦のようなカウンセリングが合っているのかも知れませんね。

 ですが今回の患者達はそんな優しい治療では誰1人として回復できない人ばかりでした。その理由は彼女らがヒマワリ症候群だったからですね。ヒマワリで行われた実験は全て患者達に絶対に忘れる事のないトラウマを植え付ける事でした。そういった過酷な環境に身を置くからこそBFTが発症する、それがヒマワリの理論であり目的でありました。そんな患者達が他人の言葉でトラウマを克服できるはずがないんですね。ヒマワリの実験で植え付けられたとはいえ、自分の心に巣食った闇である訳ですから自分でしか取り払われないんですね。それが分かっているからこそ、主人公のあの治療法につながる訳です。

 そんな一貫した主人公とそれによって自分を取り戻していく患者達の姿はプレイヤー側としては心が洗われる様でした。素直に良かったと思えるとも言えますね。1人1人が自分を取り戻しヒマワリに潰された人生をやり直そうとする未来は間違いなく希望と呼べるものでした。後は相変わらず伏線の張り方が見事ですね。正直最後の斉藤舞の正体だけは読めませんでした。完全に唯の盛り上げ役だと思ってましたからね。重いシナリオの中に笑いあり驚きあり、最後には希望もあるシナリオは「project flower」の本気を感じる事が出来ました。ありがとうございました。


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