M.M 死埋葬 -V-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 76 2〜3 2020/2/3
作品ページ(なし) サークルページ



<これまでの死埋葬シリーズ同様、裏も表もある少女たちの姿を堪能し結末を見届けてみて下さい。>

 この「死埋葬 -V-」は同人サークルである「F.T.W.」で制作されたビジュアルノベルです。F.T.W.さんの作品もここ数年は定期的にプレイしており、これまで7つの作品をプレイしレビューを書かせて頂きました。今回レビューしている「死埋葬 -V-」のような死を題材に扱った物もあれば、ひたすら女の事とイチャラブするような作品もあり、幅の広さを感じております。ここ最近はボイスドラマの方も精力的に作成されており、コミックマーケットのみならずM3などのイベントでもお会いする事が出来ます。ビジュアルノベルだけではない様々な形で創作物を生み出しているサークルさんですので、是非1つ作品を手に取りプレイしてみて頂きたいです。

 今回レビューしている「死埋葬 -V-」は、タイトルの通り死埋葬シリーズの3作品目となります。ついに3つ目が来たかという印象でした。死埋葬には必ず姉妹が登場します。勿論言葉遊びなのでしょうが、姉妹を中心人物に充てその周りを巻き込んだシナリオに時に和み時にゾッとしながら読ませて頂いております。死埋葬シリーズは、同じ舞台で同じ登場人物を共有しながら少しずつ時間軸を変えております。今回の「死埋葬 -V-」は、これまでの過去のお話となっております。これまでの死埋葬に共通して登場していた竜胆終、いよいよ彼女が主人公となり彼女の生い立ちが語られる時が来たみたいです。これまでのシリーズをプレイされた方には是非読んで頂きたいですね。

 内容ですが、これまでの死埋葬シリーズに共通してフルボイスとなっております。共通人物は同じ声優さんを起用しておりますのでこれまでのシリーズと違いはありません。また舞台である籠目聖心女学院も共通であり、箱庭の中で過ごす子羊たちの無垢な姿を楽しむ事が出来ます。無垢な姿をボイスで後押ししてくれているという事です。勿論、無垢に見えるのは表向きでありその裏側は死を巡るシナリオが展開されるわけです。いつどこで死が迫ってくるのか、迫ってきた死に対してどうやって対処していくのか、そんな事も考えながら読むと楽しいかも知れません。

 その他ですが、BGMの使い方が美しいと思いました。クラシックを中心とした箱庭らしいサウンドが多く、まさに死埋葬シリーズといった感じです。そして緊迫する部分や戦いの部分で激しい曲になるのかと思えばそんな事は無く、ずっと地続きになっているような先が見えないBGMが流れます。緊張するんですけどどこか冷静に状況を分析している、ただ熱くなり情熱的になるだけの戦いでは無いという事です。裏と表の顔を使い分ける登場人物が多い死埋葬シリーズですので、戦いだからといって素直に燃え上がる訳ではないという事かも知れません。ある意味ずっと気の抜けない、どこで物語が急転直下するのか分からない、そしてそれを察知させないBGMが好きです。

 プレイ時間は私で2時間30分掛かりました。選択肢はなく、一本道でエンディングにたどり着く事が出来ます。死埋葬シリーズに限らずF.T.W.さんの作品全般に言えるのですが、途中で章が分かれており物語の転換点が一目で分かるようになっております。今回の「死埋葬 -V-」では大凡30分で章が切り替わりますので、このタイミングでお茶を飲んだり休憩しながら進めて頂ければ調度良いのではないかと思っております。起承転結も分かり易く、ここからどうなるんだろうと先が気になる幕引きになっているのも上手いと思っております。穏やかに終わったいやそのまま終わる筈はない、逆に事件が発生して終わったら次どうやって逆転させるんだろう、プレイヤーの想像力を掻き立てる章構成だと思いました。是非休みの気まま一日に、穏やかな気持ちでプレイし少女たちの裏も表も見て、是非結末を見届けてみて下さい。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<これだけ人の気持ちを利用して弄んで全ての責任を押し付けるような真似をすれば、これだけの化物が生まれるというものです。>

 本当、人間の業というものはどこまでも深く掘る事が出来るんですね。一人ひとりの身勝手な行動がたった一人に集中すれば、とんでもない化け物が生まれてしまうのも当たり前なのかも知れません。そしてそんな化け物がついに解き放たれてしまいました。一連の死埋葬シリーズの幕開けに相応しい作品でした。

 物語の大半は、主人公である本物の竜胆終と生徒会執行部長である祈緒綴の2人の馴れ初めでした。体に毒を仕込まれ一年以内に綴を殺さなければ自分が死んでしまう、何よりも自分の身勝手な行動で幽閉されてしまった姉を助けなければいけない、終はその一念で綴を屋上から突き落とす事に成功しました。ここまでは完全に竜胆の血筋と理念そのものの行動でした。上の命令は絶対でありその為には人を殺す事も厭わない、これで物語は簡単に終わる筈でした。終にとって誤算だったのは、相手が祈緒の血を引いた存在だった事、そしてそもそも相手が祈緒綴という人物だったという事です。

 自分が殺したはずの相手がまさか生きていた、それだけでも脅威なのにその相手が自分を慕い始めました。終はクールを装っていましたが内心訝しんでいたのは間違いありません。それでも、一年以内に殺せばいいのだからと来年3月に殺す約束をしました。それ以外は普通の先輩と後輩でした。いや、普通の先輩と後輩と言うにはちょっと距離が近づき過ぎですね。それはまるで恋人の様な振る舞い、そして徐々に終は綴の無垢な姿に惹かれていくのです。それでも自分には竜胆家の目的がある、何よりも大切な姉が幽閉されている、その間で揺れ動く日々を送っておりました。

 決定的になったのは、文化祭での演劇中にシャンデリアが落下した時でした。何となく違和感を感じていた終でしたが、いざ落下した時に身体が即座に動き綴を助けました。この時終の身体をそれなりに毒素が身体を蝕んでおりました。それでもこの瞬発力、もはや言い訳が出来ないくらい終は綴にほれ込んでおりました。そしてそんな終の姿は数多くの人に見られた事になります。元々人気のあった綴と周りからの信頼を集めてきた終ですので、この2人の事を想像する人が出てくるのも当然という物です。きっと、終は潜在的に魅力的な女性なのでしょう。そうでなければ、射月が綴を殺してまで終を欲しがろうとはしないと思います。人を殺してまで手に入れたい、ある意味この気持ちこそが恋の究極的な形なのかも知れませんね。

 そして物語最後、結局のところ終は綴を殺せませんでした。州麻により終の真実を知った綴は、その無垢な気持ちのままに自ら命を絶つ決意をしました。綴も祈緒家の宿命を背負っておりましたので、どこかで自分の人生にピリオドを打ちたかったのかも知れません。結局は、入学当初と同じ結果となりました。ただ、竜胆家の命令の通りに綴が死んだだけ。2人で積み上げてきた記憶や思い出は全てここで終わってしまったのです。そうであるのなら、後は終は終らしく竜胆家の命に従うだけでした。それなのにあの裏切りですからね。怒りもあったでしょうが、それ以上に諦めや悟りの方が大きかったのかも知れません。逆にここで自分が死ねば綴の傍に行ける、そんな事を考えたのかも知れませんね。

 そして、そんな終の記憶も全て引き継いで一匹のモンスターた誕生しました。その姿は竜胆終そのものです。ですがその体には毒素を含んだ血が流れており、人の死しか興味がない化け物です。こうして、死埋葬シリーズの黒幕である竜胆終が生まれたのですね。ですが産んだのは竜胆家であり祈緒家です。それぞれの家の都合、一人ひとりの身勝手な行動、その積み重ねがこの化物を生んだのです。全てを一人に押し付けてはい終わり、とは行きませんね。これが竜胆終の生い立ち、それを1つの作品として読む事が出来て良かったです。この化物を抑えることなんて、出来るんですかね。私だったら、目に留まらないように静々と生きるんでしょうね。ありがとうございました。


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