M.M 死埋葬 -U-




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 80 2〜3 2019/3/21
作品ページ サークルページ



<再びの少女たちの花園・子羊たちの楽園で、フルボイスを堪能しながら箱庭の世界観を楽しんで下さい。>

 この「死埋葬 -U-」は同人サークルである「F.T.W.」で制作されたビジュアルノベルです。F.T.W.さんの作品も、数えてみたら結構なレビュー数となっておりました。これまで5つの作品をプレイしレビューを書かせて頂いております。そんなF.T.W.さんの作品で初めてプレイしたのは、実は「死埋葬」だったりします。透明感のある純粋無垢な雰囲気のジャケットに対して死という文字が冠についているタイトルというギャップが気になり、プレイした事を覚えております。そんな自分にとってのF.T.W.さんとの出会いの作品である死埋葬、その続編である死埋葬 -U-をこうしてプレイ出来る事にまずは喜びを感じております。死埋葬シリーズはドラマCDという形で幾つか作品がリリースされておりますが、ビジュアルノベルとしては約4年振りです。そんな懐かしさを楽しみにつつプレイ始めました。

 タイトルに「-U-」と入っている通り、物語としては前作「死埋葬」の続編となっております。「死埋葬」のエンディングから幾日か経過した未来の話ではありますが、登場人物もごく一部を除き全員新しくなっております。それでも、舞台である籠目聖心女学院は変わりませんし、そこが少女たちの花園であり子羊たちの楽園である事に変わりはありません。少女たちの無垢な姿と気高さ、そしてその根底にある自分ですら気付いていない気持ちがドロりと漏れ出す様子を楽しんで頂ければと思います。基本「死埋葬 -U-」単体でも読む事が出来ます。ですが、時間があれば是非前作「死埋葬」をプレイしておく事をオススメします。作品の雰囲気やサークルさんの趣向を理解する事で、より深く「死埋葬 -U-」を理解できるのではないかと思っております。

 「死埋葬」と比較して一番変わったと思う特徴は、登場人物がフルボイスになっているという点です。前作「死埋葬」にはボイスはありませんでしたが、それでも籠目聖心女学院の雰囲気は十二分に味わう事が出来ました。ですが、その後ドラマCDとして発売された「死埋葬」を聴いて、より登場人物に愛着が湧きイメージを持ったことを覚えております。素直に可愛いと思ったんですね。そういう意味で、今回「死埋葬 -U-」にボイスが入っている事を知って「やったぜ!」と思いました。ボイスって無いなら無いで妄想力が掻き立てられますのでそれでも良いんですけど、F.T.W.さんの場合は逆にボイスがある事で純粋に登場人物の魅力が引き立てられますので是非皆さんにも聞いて頂きたいです個人的には主人公である間白比依(ましろひい)が一番好きです。どこか舌足らずな声色で普段は感情を表に出さないのですが、不意打ちに出る心の吐露に思わず悶えてしまいました。

 その他の点として、BGMや効果音の使い方も上手いと思いました。この作品は箱庭のような舞台で繰り広げられる百合ですので、当然BGMもクラシカルなものが多いです。ですが、同時に死という物を取り扱っておりますので緊張感を感じる場面を避ける事は出来ません。その箱庭→死の切り替えにBGMや効果音を効果的に使用しております。例えば、登場人物が一人頭の中で考え事をして歩いている時は、自然とBGMは無くなり足音などの環境音のみになります。誰かが理性的に変な事を言いだしたら、一瞬でBGMが変わります。上手く登場人物の気持ちとプレイヤーの気持ちをシンクロさせていると思いました。唯でさえ非日常な世界ですので、こうした演出で作品とプレイヤーの距離を近づけてくれるのは嬉しかったです。

 プレイ時間は私で2時間40分掛かりました。選択肢はなくエンディングは1つです。これもまたF.T.W.さんの特徴ですが、この作品はいくつかの章で構成されておりその変化点がすぐ分かるようになっております。そして大凡30分程度でひとつの章が終わりますので、気分をリフレッシュするのに調度良いです。私の場合、洗濯機を回してプレイし始めて、ひとつ章が終わったら洗濯物を干して乾燥機に入れて、またひとつ章が終わったら乾燥機から洗濯物を取り出すようなプレイの仕方をしておりました。その間にこれまでのシナリオを振り返ったり考察したり、そんなペースで出来るのもまたF.T.W.さんの特徴だと思っております。勿論のめり込んでガンガン進んでも良いと思います。何れにしても、短めですので是非皆さんらしい楽しみ方で読んで頂ければと思います。オススメです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<自分の愛に素直になれるって、実はとても幸せな事なんだなと思いました。>

 私はね、正直スカッとしたんですよ。後半の四章、黒いナイフを手に取った環が郁に突き立てた時、そして郁が美織に突き立てた時、最後に美織が比依に突き立てた時、やっとこの子たちは自分に正直になったんだなと思いました。もう、途中の笑顔を張り付けた様な茶番にいつ爆発するか気が気でありませんでしたからね。それがこういう形で爆発して、確かにこれは死埋葬だと思いました。

 この作品では愛の形をテーマに扱っておりました。この世界は、愛を語ったもので溢れていると思っております。それはいわゆる男女の恋愛だけではなく、家族愛、動物愛、作品に対する愛と多岐に渡っております。言ってしまえば、いまあなたがこのレビューを読んでいるのに使っているスマートフォンやPCも愛によって作られております。技術に対する想いや人間社会に対する想いが積み重なり現代社会を動かしているテクノロジー、その原動力は間違いなく人間の愛によっているのです。愛があるからこそ人間はここまで発展し、愛があるからこそこれだけの文明を築けたのだと思っております。

 だからこそ、愛を善悪で語る事に意味はありません。良し悪しで語る事も出来ません。愛は人の数だけあり、想いの数だけ形があります。だからこそ、比依が持っている殺人衝動を否定する事は出来ないのです。比依は姉であり自分の半身である止依を失った事を切っ掛けに、愛するものは殺したいと思うようになりました。もう、この気持ちは止められるものではありません。むしろ、この気持ちこそが比依らしさであり比依を意味する物です。最後、比依は自分の愛の形を理解し、そして絶望して屋上から身を投げ出しました。遅かれ早かれ、比依はこうなる運命だったのかも知れません。何しろ、自分らしさを象徴する愛の形が殺人衝動であるのなら、もう現代社会では生きていけないのですから。

 ですけど、大なり小なりこの作品に出てくる登場人物の愛の形は様々でした。美織はまさに自己愛の塊でした。自分は愛されて当然であり、相手の都合なんて知る由もない。それが本質であるのなら、わざわざ相手の気持ちを組むというプロセスを踏む必要はありませんからね。郁も他人の視点を気にしない性格でした。利用するものは利用し、恨まれても関係ないという態度でした。好きだから付き合うし愛し合う、そこに常識や通念というものは意味を持ちませんでした。これらが美織や郁という人物の真実であり全て、これを否定する事に全く意味はありません。

 だからこそ、環も郁も美織も刺されてしまったんですね。自分にとって理解出来ない存在、自分とは相交える事が出来ない存在、それが一生付きまとうのであれば、もしくは自分の人生の足枷になるのであれば、もう排除するしかありませんもの。自分の愛を貫くのは全然構わないと思います。そうであるのなら、他人の愛とぶつかった時に何も文句を言う事が出来ませんね。それが、あの四章での一連の殺人現場に繋がったのだと思います。あの場面こそが愛の本質であり、「死埋葬 -U-」一番の見せ場だったなと思っております。

 最期、自殺を図ったのにも拘らず生き延びてしまった比依。今後彼女はどう生きていくのでしょう。死のうとしたのに、最終的には終の手を握り返してしまってしまいました。今後彼女に待っているのは茨の道、自分の殺人衝動に従うのか逆らうのか分かりませんが、現代社会とは違った道を歩む事が半ば決められております。ですが、それが彼女の選択ですからね。自分という存在を理解し、それでも生きていくと決意したのは他ならず比依です。比依が人外なら終も人外、同じ人外同士仲良く生きていくのが良いんじゃないかなって思ってしまいました。それもまた愛の形。自分の愛に素直になれるって、実はとても幸せな事なんだなと思いました。ありがとうございました。


→Game Review
→Main