M.M 死埋葬




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
7 8 - 79 1〜2 2015/1/25
作品ページ サークルページ



<箱庭の美しさの中に入れられた百合の美しさ、是非じっくりと時間をかけて堪能してみて下さい>

 この「死埋葬」は同人サークルである「F.T.W.」で制作されたビジュアルノベルです。F.T.W.さんと初めて出会ったのはC87で島サークルを回っている時でして、その時に手にとったのが今回レビューしている「死埋葬」です。まるでお人形のような少女のパッケージ、ですが裏に書かれているあらすじには死の香りが漂っておりました。双子の姉妹と死の香り、そう簡単には終わらない愛憎劇が待っていそうな予感がして早速プレイしてみました。感想ですが、パッケージの通りお人形が住まう箱庭のような世界観が大変美しく一瞬で引き込まれてしまいました。

 主人公である頬椋遠は妹である頬椋近と双子の関係です。彼女たちは春から籠目聖心女学院に通っている1年生です。そこは少女しかいない花園の世界、無垢なものなど何一つない世界です。そんな子羊の楽園で学院生活を送っていた2人ですが、冬のある日に突然妹である頬椋近が学院の屋上から飛び降ります。幸い命は取り留めましたけど、姉には何故妹が飛び降りたのか分かりませんでした。飛び降りる前日に交わされたいつもと違う妹の様子、何が原因だったのか。親友である瑞海雫と共に捜査に乗り出すところから物語は始まります。

 この作品の最大の魅力はその美しい世界観です。パッケージの通り登場する女の子は全員お人形のような無垢さと美しさを持っており、汚れなど一切感じさせません。そしてそれは本当の事で、彼女たちが通う籠目聖心女学院は男子禁制の世界です。箱庭と言っても過言ではありません。そしてそのような美しい世界観は背景やBGMでも演出しております。背景は写真を基調としているのですが、儚げを演出するかのようにボカシた加工しており現実感を感じさせません。BGMもピアノを中心としたものが多く、気品あるお嬢様学院の雰囲気そのままです。唯々美しい、こんな世界が本当に存在するとしたらそれは絶対に世の中に開放してはいけませんね。

 そしてこの作品は百合でもあります。恋は一方的なものである事が殆どですが、愛は恋とは違い大変美しいものです。それはお互いがお互いを尊敬し理解し恋い慕っているからです。誰にも邪魔をされない世界、それが美しくないはずがありません。ましてやそれがお人形のような女の子同士なら尚更です。男子禁制の無垢な箱庭の美しさの中に入れられた百合の美しさ、この完全たる美しい世界でどのような物語が紡がれるのか是非見届けて頂けたらと思います。

 プレイ時間は私で1時間30分掛かりました。この作品は章単位で区切られており、各章で約20分程度の長さとなっております。短時間で終わりますので、ここは是非オートプレイでクリックせずじっくりと物語と美しい雰囲気を堪能してみては如何でしょうか。美術館は急いで回るものではありません、一つ一つの作品をじっくりと時間をかけて見るものです。この「死埋葬」という美しい作品もまたじっくりと時間をかけて味わってみて下さい。必ず心の中に残るものがあると思います。オススメです。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<死埋葬とは、もしかしたら彼女たちの「愛を守りたい」という囁かな抵抗の事だったのかも知れません。>

 愛って本当に美しい気持ちだと思います。誰かの事が好きという気持ちがそれ以外何も余計なものを含まないものであり、そんな好きという気持ちがお互いに共有できればそれ以上のものはありません。でもその愛が実は愛ではなく一方的なものだったとしたら、それは唯の鋭利な刃物にしかなりません。そしてそれは想いが強ければ強いほど鋭くなります。それはもう触れただけで傷つけてしまう程に。しかしそれもまた美しいと思いました。自分の信じている愛の為に生きた少女たち、彼女たちにとって他人の命など些細なことだったのですね。

 ただ、そんな美しい愛の世界の中で唯一美しくないものがありました。それが竜胆終の歪んだ欲望です。彼女たちの歯車が崩れだした全ての始まりは踊場岬と羽音二水が椿四十九を焚きつけた事でした。彼女たちが四十九を焚きつけたことで頬椋近に当たり散らします。そして頬椋近は自分の居場所が本当はどこにも無かったと思い込み自殺してしまいます、そしてそこから頬椋遠への誹謗中傷、瑞海雫の交通事故、椿四十九の死、踊場岬と羽音二水の死、そして最も美しかった頬椋近と頬椋遠の双子の死へと繋がってしまいました。子羊の楽園に隠れていた狼によって、儚くも彼女たちは次々と命を落としていったのです。

 では悪いのは踊場岬と羽音二水でしょうか。直接的にはそうだったのかも知れませんが、本当の元凶は生徒会執行部長である竜胆終でした。彼女は学院のことは全て知っていました。椿四十九や頬椋近が自分の事を好いている事も知っていました。きっと踊場岬と羽音二水が火遊びしていたのも知っていたのだと思います。ですが彼女は二人の火遊びを放っておきました。何故か。放っておけばその先に死が待っているからです。生まれた時から死を求める竜胆の血を引いた彼女。死を一番美しいと思い、死の為にならどんな事でも行います。事実この作品に登場した殆どの人物は死んでしまいました。見事というしかありません。全て竜胆終の目論見通りです。彼女この結末に驚きすらしてませんでした。さも当然のように死を喰らいました。彼女にとって、愛するべき少女たちが死んでいく姿はさぞ美しく見えたのだと思います。

 ですが竜胆終が死を求めるのは自分の欲望を満たすためだけです。そこに他人を思いやるとかそういった感情は一切ありません。確かに彼女たちの死は美しく見えました。ですがそれは彼女たちが本気で人に恋し愛していたからこそ美しく見えたのです。ただ死だけを求める竜胆終の欲望とは全然違うものです。自分の欲望の為に人を死に至らせる、こんなものは美しくもなんともありません。唯の歪みです。この少女の花園に、こんな歪んだ存在は必要ありません。竜胆終がいなければ、別の形で彼女たちの美しい想いは成就されていたのかも知れません。踊場岬と羽音二水の火遊びも止まっていたかも知れません。彼女が、少女の花園を食い散らかした狼だったのです。

 思えば常に幻想的な雰囲気が漂う世界において、ナイフを差し込む音だけはやけにリアルに響き渡りました。死の音はこうも簡単に夢から覚ましてくれるんですね。楽園の終わりは死。その死は果たして未来を閉ざされた絶望への入口だったのか、それとも愛する人と永遠を生きることができる希望への入口だったのか。いや、希望はありませんでしたね。誰もが死の直前に人の憎悪を味わっております。その憎悪を作り出したのは竜胆終の歪んだ欲望。死埋葬とは、もしかしたら狼によって食い荒らされてしまうのならいっそのこと全て無くして埋葬してしまえばいいという、彼女たちの愛を守りたい囁かな抵抗の事だったのかも知れません。死後の世界、もしくは来世でこそ彼女たちが幸せな世界で生きることが出来るよう祈りまして今回のレビューとさせて頂きます。ありがとうございました。


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