M.M セブンスコート




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
8 9 7 84 2〜3 2014/5/20
作品ページ サークルページ フリーゲーム夢現



<架空のHPとゲーム本編を行き来するシステムはフリーゲームとは思えないこだわりの強さ>

 この「セブンスコート」という作品は同人サークルである「Novectacle」で制作されたビジュアルノベルです。Novectacleさんの作品と言えばやはり最近同人ビジュアルノベル界を騒がせた「ファタモルガーナの館」が挙げられると思います。圧倒的な世界観の描写と妥協しないシナリオ構成は多くのファンを生み出しており、間違いなく同人界を代表する作品であると思っております。今回プレイした「セブンスコート」はそんなファタモルガーナの館の登場人物で構成される短編作品であり、現在NovectacleさんのHPで無料ダウンロードする事が出来ます。感想ですが、ファタモルガーナの館そのままの美しいBGMと人物描写に加えプレイヤーを引き付けるシナリオ構成はNovectacleさんだけが出す事ができる雰囲気なのだなと思いました。

 主人公であるDark†Knight(HN)はフリーゲームを制作している27歳の男性です。そのHNからお察しできるかと思いますが中々屈折した性格の持ち主てあり、社会の底辺を歩く崖っぷりの生活を送っております。そんな彼の元にとある女性から作品の感想をが書かれたメールが届き、この事が切っ掛けで彼の創作に対する想いが掻き立てられることになります。そんな彼が運営しているHPのBBSに、しばらく消息を絶っていた彼から「エイプリルフールに新作を出す」という書き込みがあり、その公約通りエイプリルフール当日に彼の新作である「セブンスコート」は公開されました。DLするBBSの常連達、しかし彼らにはその後とんでもない運命が待ち受けておりました。

 この作品の最大の特徴は主人公が運営しているHPであるロワイヨムヘブンが実在しており、作品と連動している事だと思います。まるで主人公Dark†Knightが本当に実在しているかのようであり、BBSに書き込んでいる住人の発言にもリアリティがあります。そしてこのBBSに書き込みを行っている人物は実際にこのセブンスコートに登場します。プレイヤーの皆さんには是非ゲームのプレイと同時進行でこの架空のHPであるロワイヨムヘブンを見て頂きたいですね。BBSの中には主人公に友好的な人物もいればかなり痛々しい発言をしている人物もいます。彼らが何らかの形で会合したとき、それが物語が動き出す時です。

 そしてこのBBSの住人達はエイプリルフールに公開されたセブンスコートをDLすることによって架空の世界へ飛ばされてしまいます。その世界はさながらファミリーコンピュータ時代のRPGの様です。一体どういう原理でRPGの世界へ飛ばされてしまったのか、セブンスコートとは何物なのか、これは唯のファンタジーなのか、主人公は何を考えてこんなゲームを作ったのか、プレイヤーの頭の中には一瞬にしてこれだけの疑問が浮かぶと思います。そしてこんな突拍子もない設定で上手く収める事が出来るのか、それともこのセブンスコートという作品はもしかしたらNovectacleさんが本当にエイプリルフールを狙って作ったネタ的作品なのか、そんな一抹の不安も抱えるかも知れません。こんな感じで出来るだけこの作品を疑ってやってください。疑うだけ疑って、それでも伏線を回収しようとすればする程プレイ後に得られるものは大きいと思います。何を得るかもプレイヤー次第だと思います。この作品は割と人によって感想が分かれるかも知れませんね。是非多くの方の意見を聴いてみたいものです。

 プレイ時間は私で2時間30分掛かりました。ちなみにこの2時間30分に休憩は一切挟んでありません。これこそがやはり流石のNovectacleさんだと思いました。美しいBGMと人物描写を武器に紡がれるシナリオはファタモルガーナの館同様の圧倒的な世界観を作り出しております。加えてロワイヨムヘブンとの行き来もあり、私自身気づかないうちにのめり込んでいたのだと思います。フリーゲームでありながら架空のHPまで準備して制作されたこのセブンスコート、欲を言えばファタモルガーナの館プレイ後に読んで欲しいのですが直接の繋がりはありませんので是非多くの方にDLしてプレイして欲しいですね。勿論DLしてもプレイヤーが架空の世界を飛ばされる事はありませんのでそこはご安心を(本当ですよ)。

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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<作品に思いを込めるのは作者だけではない、プレイヤーも同様である>

 …前半のコメディタッチでは終わらないだろうなとは思ってましたがここまで重い内容だとは思いませんでした。いや、逆に言えばこの「他人の気持ちを推し量ってしまう事で生まれる不幸」はNovectacleさんの描くシナリオには必要不可欠なのかも知れません。ですが私がこの作品をプレイして一番心に残ったのはそうした人間の心のすれ違いや醜い本質を隠してしまうことによる不幸ではなく、Novectacleさんの創作に対する想いを感じる事が出来たという事でした。

 プレイ前とプレイ後でプレイヤーのロワイヨムヘブンのBBSに対する印象はガラリと変わると思います。初めは唯のダベり場のような雰囲気だと思ったと思いますが、プレイ後はDQNな書き込みを繰り返すJ.Bは唯の去勢であったりPinkyRoseとMELLの発言が確かに似通っていたりと表向きの文章では気づくことが出来ない事に気づけます。そしてこのBBSに対して思う事は恐らくはきっと哀愁であり、どこか悲しくそして二度と更新されることのないロワイヨムヘブンをプレイヤーの皆さんは寂しく想うのだろうと思います。

 ですがそうしたロワイヨムヘブンのBBSに対する哀愁は逆に言えばそうした裏の事情をプレイヤーが神の視点で見ることが出来たからたどり着けた境地であり、事情を知らなければロワイヨムヘブンのBBSはやはり唯の荒れたダベり場です。でもそれはしょうがない事です。何故なら人は表に書かれた文章でしか判断出来ないからです。当たり前の事を書いておりますが、この当たり前の事をそのまま受け止めてしまったことで結果ミシェルは自殺してしまうのです。何とも悲しい結末ですね。ですがこの事実を目の当たりにして私が思ったことは実は全然違うことだったりします。それは、作品に対する製作者とプレイヤーの想いの込め方についてでした。

 私が作中で最も印象に残った言葉は「作品に思いを込めるのは作者だけではない、プレイヤーも同様である」でした。そしてこの言葉は私の中で言葉以上に深い楔になりました。私がレビューを書くときに心掛けている事に「作品のテーマを伝える」という物があります。これはどんな作品にも製作者の想いが込められていると信じているからです。ですが、果たしてこの想いと言うものは製作者側からの一方的な提示なのでしょうか?「自分はこういう事が言いたいんだ、だから受け止めた方がどう思うかは知るところではない」と思っているでしょうか?ちょっと乱暴な物言いになってしまいましたが、実際こういう風に思っている製作者がいてもそれは全然結構な事だと思います。ただその代わりにプレイした側もその作品に対して感想という形で想いを込めるのです。それは時に絶賛だったり時に批判だったりします、きっと気持ちのいいものばかりではないと思います。でもそれはしょうがない事、それが作品に想いを込めるという事なのだからです。

 何が言いたいのかといいますと、上記の「作品に思いを込めるのは作者だけではない、プレイヤーも同様である」という言葉を製作者側から発せられたという事が素直に嬉しいのです。私にはこの言葉は「自分が作った作品は自分だけのものではなく他人にとっても大切なものになりうる」と言っているかのように感じました。私のようにレビューを書いている者にとってこれ程救われる言葉はありません。私は心の奥にいつも「レビュー書いているけど製作者側は迷惑に思ってるんだろか?」という気持ちを持っております。それは事実だと思いますが、それでもその作品をプレイして何かしら感想を持った段階でその作品は私のものでもあるのです。そしてそれが許されるんです。そうだと思ったとき、このレビューは書くべきだなと思いました。

 という訳で明後日の方向に話が脱線してしまいましたが、結局のところミシェルは確かにBBSの心無い言葉で自殺してしまいますが自殺なんてする必要は無かったのだと思います。人の批判は確かに心苦しいですが、その段階でその作品はもはやその人の物になってしまっているのである意味製作者が文句を言うという次元では無くなっているのかも知れません。今回の場合はJ.Bの書き込みが唯の去勢だったのでそれは許されるものではありませんが、書き込みに魂がこもっていると製作者が思えばもうそれはどうこう出来るものでは無いですからね。批判も肯定も全部引っ括めて、とりあえず多くの人に読まれているんだなという事を確認できればそれが一番なのかなと思いました。今回の私のレビューも大分論点がズレてもはやセブンスコートのネタバレでもなんでも無くなってしまいました。それでもこの作品をプレイして思ったことはこの事であり、同時に自分のレビューがそれなりの責任が伴うという事を再確認することが出来ました。創作に対する想い、これを掴むという私の考えは変わりませんし、これからも多くの人の作品に触れ自分なりの素直な感想を持ちたいと思いました。

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