M.M 赤ノ反照
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
6 | 7 | 6 | 73 | 2〜3 | 2017/6/14 |
作品ページ | サークルページ |
<ヒロイン達のセリフ一つ一つ、表情一つ一つに注目して、BGMで主人公の心理描写を感じましょう。>
この「赤ノ反照」という作品は、同人サークルである「IVY EIGHT」で制作されたビジュアルノベルです。IVY EIGHTさんの作品をプレイするのは本作が初めてでして、C91で同人ゲームの島サークルを回っている時に手に取らせて頂きました。まるで血のようなくすんだ色で統一されたパッケージ。笑顔なのに何故か背筋が凍るようなヒロインたちの視線。そう、この作品が取り扱っているジャンルは「ヤンデレ」と呼ばれているものです。私の全ては貴方のもの、全部わたしがお世話してあげる、他の女なんて要らないの。歪んた愛憎の物語が幕を開けます。
主人公である綾織和真には付き合って3ヶ月になる彼女、那須川凛がいました。ある日そんな彼女が自分の家に遊びに来たのですが、そこで告げられたのが別れの言葉。思わず逆上してしまい突き放してしまったのですが、その時の当たり所が悪く那須川凛は死んでしまいます。自分の手が凛を殺してしまった。その事に絶望し動揺しているところに1本の電話が鳴ります。相手は隣に住む幼馴染の篠倉亜紗奈。彼女はただ一言告げるのです。「どんなことがあっても、和真の味方だよ?」と。それは和真にとって余りにも甘美な誘惑。全てを亜沙奈に打ち明けた和真。そして共犯として一緒に凛の死体の処理をしてくれた亜沙奈。これで全ては解決……になるはずがありませんね。亜沙奈の歪んだ愛情は、クラスメイトの豊海美華夏も巻き込みドロドロの展開へと発展していくのです。
ヤンデレというジャンルも、特殊性癖としては割と一般的になってきたのではないかと思っております。行き過ぎた愛情、一方的な愛情、それは時として人の命すら軽くなってしまう。そんな度が過ぎた行動はまさにエンターテインメントとしてとても興味深いものです。ヤンデレという存在は昔から沢山ありましたが、世の中に広く認知されるきっかけになったのはやはり2005年に発売された「School Days」ではないでしょうか。Overflowが制作したフルアニメーションノベルであり、そのタイトルは普通の学園モノを想像させます。ですがその実態は全くの別物、ヒロインがヒロインを騙し合いイジメ合い、その果に命を掛けて主人公を捕まえる愛憎物でした。特徴的なのは、隠そうともしない斬撃と血の描写ですね。ここまで直接的なものは中々なかったと思っております。
本作でもそのような血の描写は当たり前に登場します。何しろ、主人公が間違いとは言え彼女を殺してしまうのですから。そしてその死体を幼馴染が非常に手際よく解体し処分してしまうのですから。その時の表情は筆舌に尽くしがたいです。歪んだ口元、赤く輝いた瞳、そして主人公に送る言葉、そのどれもが常軌を逸しております。完全犯罪が成立しても安心した学園生活を送れないでいる主人公に「なんでもしていいよ」と迫って来る姿は、まるで巣に掛かった蝶々を捕まえる蜘蛛の様です。果たしてこのまま主人公と幼馴染は何もかも忘れて幸せになるのでしょうか。それとも罪の意識に苛まれた主人公が幼馴染を突き放すのでしょうか。もしくは第三者の介入があるのでしょうか。一つ一つのセリフ、一つ一つの表情に注目しながら刻々と変化する場面展開を追って欲しいですね。
その他に注目するべき点としましてはBGMが挙げられます。ピアノを中心としたオリジナル楽曲がメインであり、主人公の心の動きに合わせてコロコロと変化していきます。殺人を犯してしまい狼狽している様子、亜沙奈が時より見せる氷のような笑顔に身震いしてしまっている様子、日常の穏やかな様子など、BGMを聞けば一発で分かります。特に疑惑を抱いている時のBGMがお気に入りですね。高温のピアノの旋律はどこまでも透明なのに、その裏で低音のピアノが地を這うように流れ、主人公をガッチリ離さないのです。そしてその高温の旋律も途中で不協和音となり崩れ出し、その繰り返しです。1日ずっと聞いていたくなる仕上がりで、この作品全体に漂う雰囲気そのものでした。
プレイ時間は私で2時間10分掛かりました。この作品は選択肢が幾つか存在し、その結果でBAD ENDとTRUE ENDに分岐します。この選択肢ですが、単純な2択の連続で分岐を検証するだけなら何も難しいことはありません。ですが、この作品のテーマはヤンデレです。常識的に考えて正しいと思う選択肢は、果たして本当に大丈夫なのでしょうか。と言うよりも、何が常識で何が非常識なのかが崩れているのがヤンデレというものです。その為簡単であるはずの選択肢で充分悩ませて頂きました。是非皆さんもこのるつぼにハマって欲しいですね。またこの作品には修正パッチがあります。予め当てないと途中でエラーが発生しストップしてしまいますので注意が必要です。こちらのTwitterでダウンロード出来ますので参考にどうぞ。そしてこの作品はまだ途中です。ここから解答編に続きますので早く読みたくなります。ヤンデレに溢れたシナリオの先に何が待っているのか、是非皆さんも見届けて欲しいですね。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<この惨劇は、全て主人公の自分本位な考えが生み出した結果だったんですね。>
この惨劇を加速させたのは間違いなく主人公である和真ですね。確かに凛を殺してしまったのは事故かもしれません。ですが結果として和真は亜沙奈に甘える形で自分の罪を隠し逃げる事にしました。そこにあったのは亜沙奈に対する信頼でも愛情でもありません。ただ、自分が助かるかどうかだけでした。事実、途中美華夏に「アイツに騙されている」と言われただけで亜沙奈の事を疑ってしまいました。そんな自分本位な結末が、あの惨劇のエンディングだったと思っております。
凛に双子の妹がいるというテキストを見てから、ああきっと凛は死んでないなという予感がありました。この作品において亜沙奈・美華夏のヤンデレっぷりはよく見えましたが、凛だけがそんな素振りを見せませんでした。ですが、どうもそれが腑に落ちないと思っていました。そして明かされた双子の事実。突然心変わりした凛の様子。和真が殺したのは間違いなく凛の双子の妹なんだなと思いました。凛はきっと、本当に和真の事が好きなんですね。それこそ、プレゼントを用意するほどに。それこそ、懲役刑を受けて釈放されるまで待ち、隣にいた亜沙奈を殺すほどに。……いや、もしかしたら凛は本当に死んでいて亜沙奈を殺したのは双子の妹の方なのでしょうか?まあ、どちらに転んでも愛憎たっぷりですね。この辺りは続編で明らかになると思っております。
全体を振り返って、とにかく亜沙奈のヤンデレっぷりが印象的でしたね。好きな人の為なら何でも犠牲に出来る。そして好きな人を手に入れる為なら誰だって殺せる。まさにヤンデレの象徴のような行動でした。和真と唇の逢瀬を交わした夜に浮かべた笑顔と「…………勝った………」というセリフ、既に事切れている凛の死体を斧で滅多打ちにする様子、亜沙奈の隙を突いて美華夏を話しているその上から鉢植えを落とす様子、個人的には「私が守ってあげるって言ってるのにーーーーなんで他の女と仲良くするの……?」のセリフがゾワッとしましたね。あ、これ和真殺されるんじゃない?って思いました。それだけ亜沙奈の視線と瞳の色に、私も魅了されていたのかも知れません。
後は、やはり和真がどうこれからの人生を生きていくかが大切ですね。凛を殺した罪は社会的には三年の懲役刑を全うする事で償われました。ですが、それだけでは足りず亜沙奈や美華夏の事を振り回してしまいました。和真は、今一度亜沙奈に対する気持ちを整理する必要があります。本当に自分は亜沙奈が好きなのか、自分を助けてくれた感謝の気持ちと混同しているのではないか、亜沙奈が隠しているものは何なのか、それを言わない亜沙奈を信頼できるのか。全て水に流れた訳ではありません。エンディング直前、物語はまだまだ序章である事が明かされました。つまり時間はまだ沢山あるという事です。本当のエンディングを目指して、それまで間に和真がどういう決断をするのかを見極めたいと思います。
真実が分からないと、人は目の前の人が話す事を盲目的に信じてしまいたくなります。ですが、それは非常に危険な事です。何故ならそれは、自分自身で真実を知ろうとする気持ちを無くしてしまう事でもあるからです。ましてやそれが、愛憎に満ち溢れたヤンデレのヒロイン達の言葉であれば尚更です。最後亜沙奈を刺した凛は本当に凛でしょうか?何故亜沙奈を刺したのでしょうか?美華夏はもう出て来ないのでしょうか?あの事件の裏で隠された真実は何なのでしょうか。本当の真実にたどり着けるかは、全て和真の心持ち1つに掛かっているのです。続きを楽しみにしましょう。