M.M 世界一、受けたい虚○を。 - Really, Another Imaginary. -




シナリオ BGM 主題歌 総合 プレイ時間 公開年月日
6 7 7 78 3〜4 2019/3/29
作品ページ(R-18注意) サークルページ(R-18注意)



<3 on 10さん独特のセンスを感じるテキストを楽しみ、最後に待っている答えに辿り着いてみて下さい。>

 この「世界一、受けたい虚○を。 - Really, Another Imaginary. -」は同人サークルである「3 on 10(読み方はさんおんとう)」で制作されたビジュアルノベルです。3 on 10さんの作品は、過去に「永遠に美しき冬よりも」「変態な俺は紳士にならざるを得ない」をプレイさせて頂きました。その時の印象ですが、とにかく言葉遊びと言いますかテキストのテンポにセンスを感じました。絶妙にシリアスとギャクを入り混じり、独特の雰囲気を構成しながらもシナリオが進んでいる。他の作品では体験する事が出来ない印象を貰いました。今回もそんな3 on 10さんらしい雰囲気を楽しめると期待し、プレイし始めました。

 季節は卒業の時期である3月です。主人公である会田忠助(あいだただすけ)は、クラスメイトの井上愛子に「万人受けするイソって何だと思う?」という謎の問いかけをします。問いかけというよりも、いつも通りのちょっとした日常会話の一環でした。ですけど、そんな軽口のような日常会話の裏に、お互いに秘めた思いがあり言えないウソを持っておりました。物語はそんなごく普通の当たり前の日常から始まり、2人の関係を見ていきながら進んでいきます。一方、そんな会田に片想いをするクラスメイトがいました。彼女の名前は渡会綾瀬、1年前に会田に告白するも降られている過去を持っております。それでも会田が好きな気持ちは変わらず、願わくは恋人になりたいと思っておりました。そんな会田に関わっている井上と渡会という2人の女の子、ですが何故か、この2人と会田を含めた3人が一緒に会話をする場面が無いのです。繰り返されるごく普通の当たり前の日常、そこにどこか違和感を感じた時、物語は転換していきます。

 上でも書きましたが、3 on 10さんらしい会話のテンポが今回も特徴的でした。物語を動かすのは登場人物、それを体現しているかの様でした。この作品は全ての登場人物のキャラクターが際立っております。会田はその口からコロコロと言葉が飛び出しそれでいてテンションを変えませんので、テキストの文体と場面のギャップに思わず戸惑ってしまいます。そしてそんな会田の勢いに井上も渡会も振り回されますが、何だかんだでちゃんと会話が成立しており、結果として置いていかれるのはプレイヤーだけという状況になってしまいます。是非この独特のセンスあるテキストと会話のテンポを楽しんでみて下さい。

 そしてそんな会話のテンポを更に盛り上げてくれるのがボイスです。3 on 10さんの作品は基本的にボイスが付いているのですが、登場人物のキャラクターに合うように良く調整されている様子が伝わりました。テンションの高さ加減、スムーズな言葉遊び、独特の語尾や口癖、そういった部分がテキストとよく合っており素直に雰囲気を楽しむ事が出来ました。元々スラスラと読めるテキストになっているとは思っておりませんので、是非ボイスを聴きながら一文一文ちゃんと読み解いて先に進んでいく事をオススメします。自分のテンポでどんどんクリックしても構いませんが、この作品においてボイスを聴かないのは単純に損だと思っております。

 BGMについては、その殆どが名曲クラシックが使用されております。当たり前の学園生活に流れる名曲クラシック、それでいてテンションが読めない登場人物のキャラクター、このバランスもまたセンスだなと思いました。またこの作品にはOPムービーが収録されております。登場人物のキャラクターそのままのハイテンションなナンバーであり、動画はヌルヌルですので見ていて楽しいです。シナリオ・絵・BGM・ボーカル・ボイスが整っており、またそうした作品を何本も作成している3 on 10さんです。その安定感はシステム周りでも同様です。基本的にテキストを読む事に疎外感は感じませんでした。これもまた、テンポの良いテキストを楽しむのに大切だと思っております。

 プレイ時間は私で3時間45分掛かりました。これは全てのCGを埋めるまでの時間です。この作品は分岐がやや特殊です。ネタバレになりますので詳しくは言えませんが、割と何度もセーフ&ロードを繰り返しはじめからプレイする事になると思います。この辺りのギミックも、他では見る事が出来ない仕様だと思います。隅から隅まで遊びつくした先に待っているのは、果たしてどんなウソなのでしょうか。この作品は恋の物語でありウソの物語です。是非自分なりの答えを見つけるまで何度も遊んでみて下さい。面白かったです。


→Game Review
→Main


以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<いつか自分の力でウソノートを手放したい、それが出来た時に真実にたどり着けるんですね。>

 思い返せば、今までの作品でも3 on 10さんの仕掛けって結構独特だった気がします。単純に選択肢を総なめするとかそういう事ではなく、プレイヤーがこの事象を確認して初めて次の事象を見る事が許されるような、そんなシナリオに連動したシステムだと思います。今回の3月を繰り返す演出も、まさにウソノートによる仕掛けとそれによって自分の気持ちを固めていくプロセスを表現する為に必要だったと思っております。

 この世界で見えている物は虚構、そんな大胆な事をジャバウォックは言ってました。私も少し考えて、確かにその通りなのかなと思っております。同じものを見ても、ある人は「好き」と思っても別の人は「微妙」と思うかも知れませんし他の人は「嫌い」と思うかも知れません。結局のところ、今自分が見ているものは自分というフィルターを通して見ているという事です。夕陽を見ても、好きな人と見れば美しいと思いますし、フラれて見れば涙を誘います。そんな風に、どこかで自分の気持ちを折り合いを付ける為に見えるものの解釈を勝手に変えてしまう、これって普通の事であり誰もが無意識に行っている事だと思うんです。

 そうであるのなら、今目の前にいる好きな人が自分の事を好きか嫌いか真実がどうであっても、見方を変えて自分の事を好きだと認識すればそれで幸せなのかも知れません。わざわざ自分の意にそぐわない、認めたくない事実を無理やり認める必要ってあるのでしょうか。一度きりの人生ですので、自分が自分らしく生きる為にせめて自分の認識くらい好きにさせて欲しい。そう思う事は何も変だと思いませんし悪い事ではないと思います。ですけど、この作品では最終的にそれではダメなんだという事を伝えておりました。

 ウソノートを使って愛しの会田と恋人になろうとした渡会、ですが最終的には会田への恋を諦める事にしました。そして、この事に渡会は悲しみこそしましたけど後悔はしませんでした。やっぱりダメなんですね。自分の中で分かっている真実、認めたくない真実、目を逸らそうと思えば逸らす事が出来る真実、ですけどそこから逃げる事は出来ないんです。ウソノートを使って会田と相思相愛になった渡会、そしてお互いに結ばれた関係になって体は満足することは出来ました。ですけど、結局心は満足しなかったんですね。その時分かりました。もうこれは受け入れるしかないんだと。だからこそ、渡会はウソノートを会田に渡してジャバウォックとサヨナラする事を誓ったのだと思います。もう、こればっかりは仕方がないんです。真実に対してどれだけ見方を変えて誤魔化しても、意味が無いんですね。この時の渡会の辛さ、自分も良く分かりました。

 そしてそれは会田も同じでした。渡会からウソノートを貰ってこれで井上と何でもできる力を手に入れました。ですけど、会田は何も書きませんでした。むしろ、井上と会えた事という素朴な事に感謝しこれからも大切にしていく事を誓いました。会田も分かっていたのだと思います。自分の都合が良いように認識を変えようとしても、そこに意味は無いのだと。そんな事をしなくても、今ここに井上がいる事は真実でありそれだけで十分。本当、会田の考え方は見習いたいですね。上を目指したり欲を追求する事も立派ですけど、こうした自分の足るを知る事もまた立派な事だと思いました。

 ウソノート、もといジャバウォックの力で自分の都合の良い75時間を繰り返し続けた物語は、会田や渡会が虚構の先にある真実に気付く事で終わりを迎えました。世界一受けたい虚○、それはもしかしたら真実の事なのかも知れません。そこにたどり着くまでに物語は終わらない、それはプレイヤーも同様でした。何度はじめからを繰り返したでしょうか、何度井上アフターを見た事でしょうか。はじめからを選ぶたびに物語が変わっていき、それでもまだ終わらない事の繰り返し。そりゃそうですよ、登場人物達が終わってないのですから。皆さんはウソノートが欲しいですか、自分は正直欲しいです。そして、それを何度も使っていつかは自分の手でウソノートを手放したいと思いました。ありがとうございました。


→Game Review
→Main