M.M 聖学少女探偵舎 Vol.1 咲山巴と先輩達


<プレイヤーがミステリーを楽しむ事を第一に考えられた構成とシステム>

 この「聖学少女探偵舎 Vol.1 咲山巴と先輩達」という作品は同人サークルである「Sept Rivieres」で制作されたサウンドノベルです。C84で同人ゲームサークルを回っている時に入手したのですが、シンプルなパッケージの中にどこか面白そうな雰囲気を感じ、加えて短編物のミステリーということで今まであまり触れてこなかったジャンルでもありますので何となしにプレイしようと思いました。感想ですが、ミステリーの面白さと短編で完結する構成で最後まで飽きずに自分のペースで読むことができました。

 OHPをご覧になれば分かりますが、主人公である咲山巴は中等部1年生でとある県にある名門女子校『聖ミシェール女学園』に入学します。名門女子校という事で一般の学校とはどこ価格式が違った雰囲気の学校なのですが、その中でも特に異彩を放っている部活があります。それがタイトルにも入っている探偵舎と呼ばれている部活でして、文字通り活動内容は推理をすることです。ひょんなキッカケでこの探偵舎の先輩から半ば強引に誘われ咲山巴の探偵舎での学園生活がスタートする訳ですが、その中で咲山巴が持ち合わせている才能が周囲を巻き込んでいきます。

 この作品の特徴として短編集であることが挙げられます。今作には全部で9つの短編が収録されてまして、1つ辺り私で約30分で読み終わることが出来ました。そして各短編ごとに1つのミステリー的なシナリオが用意されておりまして、登場人物たちはそのミステリーに挑戦していくことになります。そしてこのミステリーは勿論プレイヤーの方も一緒に考えることが出来まして、是非登場人物達よりも早く真実にたどり着いてもらいたいですね。それでもミステリーの内容としては比較的上級者向けの印象がありましたので、ミステリーを解けなくても特に気にすることなくどんどん文章を読んでいっても問題ありません。一緒にミステリーを解くも良し、第三者視点で登場人物たちの行動を見守るも良し、色々な愉しみ方があると思いました。

 そして物語が進んでいくに連れて徐々にではありますが探偵舎に所属している人物たちの性格や関係、主人公である咲山巴の過去、そして探偵舎そのものの存在意義などが垣間見られていきます。この作品、只の短編の集まりではなく1つ1つのエピソードを消化していくに連れて全体の大きなシナリオが進むような構造になっております。短編ごとのエピソードを楽しみつつ、その中で垣間見れる伏線を回収しながら短編を進めていくことが大事なのかなと思いました。私も早くVol.2に進みたいと思っておりますね。

 その他の特徴としてはBGMが挙げられます。全てのBGMが有名なクラシック曲で構成されております。舞台が名門女子校という事によるのかも知れませんが、恐らくプレイヤーも推理に集中出来るように配慮された結果なのかも知れません。何れにしても優雅な雰囲気で読み進めることができます。そして立ち絵は最低限しか登場せず基本的に文章のみが表示されます。加えてその文章も縦書きで表示されますので本当に小説を読んでいるような感覚になることが出来ます。これもプレイヤーが推理しやすいようにと配慮された結果なのかなと思っております。という訳で様々な要素で本格的なミステリーを楽しむことができます。初めにも言いましたがこれは短編集ですので僅かな時間でも区切りよく読み進めることが出来ます。忙しい方でも気軽に始められますので、久しぶりにミステリーを楽しみたいと思った方はプレイしてみては如何でしょうか。


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以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。








































<探偵とは暴くだけではなく解決すること、そして解決する為に背負うリスク>

 読み進めていくに連れてどんどん探偵舎の魅力に取りつかれていきました。それぞれの登場人物の持ち味を生かしたミステリーは読み進めるたびに感心させられることばかりで、非凡な物を持っている人達の高級な会話を楽しむことができました。加えて物語を進めていく中で徐々に明らかになっていく探偵舎の過去が気になりますね。何よりも一番の謎はやはり主人公である咲山巴の過去の事件ですね。その辺は次回以降明らかになっていくと期待したいですね。

 始めは安楽椅子探偵の才能がずば抜けている咲山巴のワンマンな解決ショーになるのかなと思いましたが、巴には最大の欠点がありました。それは探偵である事を拒んでいることです。過去に起きた事件により不用意に首を突っ込むことを避けている巴にとって探偵を名乗ることはあまりにも重い命題でした。それでも持ち前の才能で意識しなくても「気がついてしまう」性癖がどんどん周りを巻き込んでいきます。恐らく巴は事実関係を整理し最適解を導き出すことが好きなのでしょうね。好きというよりももはや快感なのかも知れません。性癖という言葉には結構な重みがあるように感じました。

 ですが事実関係を整理し最適解を導き出すだけでは探偵とは呼べません。それは真実を暴くだけでありその事が事件の解決とイコールではないからです。探偵の仕事は真実を暴くことだけではなく事件を解決することです。その為には暴いた真実に基づき自ら行動して事件を収束させることが大切になってきます。真実を暴くことについてはひょっとしたら巴が一番かもしれませんが、行動するという意味では巴以外の探偵舎のメンバーの方が向いているのかも知れません。それぞれのメンバーがそれぞれ得意分野を持ち、お互いの役割を果たしていけば解決できない事件はないのかも知れませんね。

 そしてそんな探偵舎に集まるキワモノという事で、それぞれの人物に振り返りたくない過去があるようでした。ヒントがあったのに救えなかった過去、最愛の人を失ってしまった過去、様々ですが何よりも巴の過去が気になります。3年前に起きた大量殺人事件、それにどんな形で巴が関わったのかが1つの焦点になりそうです。それ以外にも街の中で明らかに浸透している探偵舎の名前。部長の祖母にあたる初代探偵舎のメンバーがどのような事件を解決していったのかも今後語られて欲しいですね。探偵とはその名前だけで世の中的には忌み嫌われる存在です。そのリスクをまだ完全には知らない少女たちの物語はこれからどのように展開していくのか。楽しみにしましょう。


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