M.M 交錯エモーション
シナリオ | BGM | 主題歌 | 総合 | プレイ時間 | 公開年月日 |
4 | 6 | 6 | 74 | 〜1 | 2018/1/16 |
作品ページ | サークルページ |
<巴の明るい表情と凛とした表情、その二面性の先に待っているものを見つけましょう。>
この「交錯エモーション」という作品は同人サークルである「Project Freya」で制作されたビジュアルノベルです。Project Freyaさんと初めて出会ったのはC93で島サークルを巡っている時でした。その時に2本の作品を手に取らせて頂きまして、1つはこのレビューの1つ前に投稿した「マリオネットは箱庭で歌う」、そしてもう1つが今回レビューしている「交錯エモーション」です。切っ掛けは正直「マリオネットは箱庭で歌う」の終末世界を描いた水彩画の様なパッケージでした。「交錯エモーション」の方も可愛いヒロインの姿が全面に映ったパッケージで魅力的でしたが、こういった構図はまあよく見ますからね。それでも「マリオネットは箱庭で歌う」の世界感に惹かれ、続けてこの「交錯エモーション」も読んでみたいと強く思いました。終末ものではなく学園ものという事で、私の知らないProject Freyaさんに会えるのを楽しみにプレイし始めました。
主人公である安藤彰はどこにでもいる普通の男子高校生です。桜の咲く新学期、通学路で桜の写真を撮っていた時にたまたま被写体として女の子が映りました。その横顔はどこか憂いを感じさせる凛とした表情で、一瞬で一目惚れしてしまったのです。彼女の名前は佐倉巴。彰より1年先輩の高校2年生です。そんな先輩の姿を探し、彼女が料理部に所属している事を知ります。そしてそのまま勢いで料理部に入部した彰、そのまま先輩との楽しい部活動生活が待っている…とはなりませんでした。彰に対して明るく振舞う巴、桜の下で見せた凛とした表情ではないその姿の意味を知ったとき、本当の意味で彰は巴を知る事になるのです。
この作品の魅力はもう言わずもがな、ヒロインである佐倉巴の姿そのものです。巴は可愛いです。そしてとても明るい性格です。彰でなくても誰でも惚れてしまう魅力を持っております。そして、そんな巴ですので実際のところ相当モテるみたいで、結構多くの人から告白される事があるみたいです。それでもそれらの告白を断る巴、彰はそれに安心するも不思議に思っております。料理部で料理を教えてくれる元気で可愛い巴、桜を見ていた時の凛とした巴、その両方から巴を知っていってください。
そして巴は料理部という事で、途中実際にケーキを作ったりする場面があります。それがなんと実際の写真とセットで紹介されておりました。まるで本当に料理部にいるかのような、もしくは料理番組を見ているかのような感覚になりましたね。そして、料理なんて決して難しいものではないという事を主張していた事も印象的でした。まさに料理部の鏡だと思いました。彰と巴のラブコメも要素だけではなく、こうした料理部らしい部分の描写も是非楽しんでみてください。
プレイ時間は私で30分程度でした。30分ですので本当あっという間に終わってしまいます。ですが、短いだけに見るべき点はちゃんと絞られております。そこさえ注意しておけばこの作品が伝えたい事をしっかりと理解できると思います。私、こうした短い作品こそ言いたい事がハッキリしていて好きだったりします。作品を通して言いたい事をキャッチする事を目標としている私にとって、長い短いは極端に点数に影響しないかも知れません。是非彰と巴の行く末を見届けてあげて下さい。そして彰と巴の2人の行動を通して言いたい事を掴んでみてください。どこか懐かしい気持ちになる事が出来ると思います。
以下はネタバレです。見たくない方は避難して下さい。
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<人間って、一度他人に第一印象を与えると中々それを崩す事が出来ないんですよね。>
巴が抱えていたものって、人生の中で誰もが壁にぶつかるものなんじゃないかと思いますね。自分は本当はこうしていたい、でも周囲の期待にも応えたい、そんな相反する気持ちのぶつかり合いに悩み苦しむことってあると思います。どちらが正解とかではないんですね。どちらも本当の自分なのですから。この作品は、そんな自分のあるべき姿を見つける物語だったのかなと思っております。
皆さんにも覚えがあると思います。例えば仕事をしている時の自分と、家に帰って部屋に入った後の自分で全く振る舞いが違うと思います。というよりも、仕事とプライベートという2つだけではなく会う人会う人に合わせて振る舞いなんて少しずつ違うと思います。私で言えば、仕事をしているとき・ビジュアルノベルを読んでいるとき・楽器を吹いているとき・DDRをしているときといった感じですね。きっと、普段見ている私と別の場面での私で随分印象も変わるんじゃないでしょうか。もちろん、そんな場面場面での振る舞いや表情の違いの全てがその人の姿であり魅力です。これが一番の魅力だなんて、決めることは出来ないのです。
巴は自分が大和撫子の様だと言われる事を嫌っておりました。だからこそ努めて笑おう、親しみがある雰囲気を出そうとしておりました。料理部での先輩らしい振る舞いはそんな巴の可愛い姿が前面に出ておりました。ですが、彰が初めて巴を見かけたのはあの凛とした表情でした。彰はそんな表情の違いに気付き、どちらが本物の先輩と悩み始めました。そして、そんな彰の気持ちにも巴は気づいておりました。私じゃない私を見つめる目と言うセリフは、まさにそんな巴のコンプレックスがにじみ出たものでした。お互いに、相手を思いながらもどうすればいいか分かっておりませんでした。
だからこそ彰は言いました。どっちでもないと。可愛い先輩も凛々しい先輩も、どっちが本当でどっちが偽物とかないと。選ぶ必要なんてない、取り繕う必要なんてない、この言葉にどれほど巴は救われたのでしょうね。自分が嫌いだと思っていた自分、自分がなりたいと思っていた自分、その両方を彰は肯定してくれたのです。彰にとっても勇気のいるセリフだったと思います。何しろ、一度告白したら泣かれたのですから。その本当の意味も分からず、それでも自分の本当の想いを伝えきりました。とてもカッコ良く、お似合いの2人だと思いました。
人間って、第一印象を崩す事が中々出来ないんですよね。自分はこういう人間です、そう自己紹介したはずなのにそれが自分の本心と違っている、そんなジレンマは常日頃だと思います。そんな体裁なんて気にせず、ありのままの自分をいつでもどこでも出せたらどれだけ幸せなのでしょうね。自分だって、ビジュアルノベルのレビューを書いている事なんて絶対に職場や楽団で言おうなんて思いませんからね。言ってもいいんですけど、単純に説明したり誤解を解くのが面倒くさいんですよね。でも、それが本当に自分の好きなものなら、何も言い訳なんてしないてありのまま表に出せば良いんですよ。それで離れる人は離れるし、離れない人は離れませんから。彰と巴のように、自分を理解し他人を理解しようとするそんな人になりたいと思いました。ありがとうございました。